夫の欠点を魅力にひっくり返すことができるのは、妻だけ。附柴彩子さん vol.4

 

 

「こんな人になってほしい」「こんなところに気づいてほしい」。
そう思っても、
夫を変える、ってなかなか難しいもの。

そもそも、夫でなくても、「そばにいる人を変える」ことだけでも難しい……。
でも、ずっと一緒に暮らしていく人だから、
できれば、ご機嫌な2人でいたい。

夫婦って、互いに互いを変えられるものなのでしょうか?

「夫婦って、なあに?」というお話を
「サボンデシエスタ」の附柴彩子さんに伺っています。
Vol3では、出産してはじめて価値観がずれたお話。
そして、夫の代わりに「ルンバ」がやってきたお話を伺いました。

 

夫婦の価値観に差が生まれた時、彩子さんは
「どうして私はこんなにイライラするんだろう?」と悩み続けたそうです。
「なんとか、不機嫌な自分と折り合いがつけたくて、
心理学の本を読んだりしながら、学ぶことを始めました。
特にライフオーガナイザーの資格を取ったことが、わたしにとってすごく節目になりましたね」。

勉強を始めた直接のきっかけは、ご主人の仕事部屋があまりにも汚くて、
片付けの勉強をしようと思ったから。

「まずは、自分が片付けを学んで、私は教えることは結構得意なので
『わからない人はここがわからないんだな』というポイントを夫に教えようと思ったんです。
それで気づいてもらって、自分でできるようになってもらったらいいなと思って。
うちの夫はゴールが見えるとできる人だから」。

 

ライフオーガナイザーとは、片付けのプロのこと。
でも実は整理収納よりも先に、思考の整理から始めることが大きな特徴です。

「一田さん、一筆書きで星=⭐︎ってどうやって書きますか?」と突然彩子さんに聞かれて、
え〜っと、とノートにペンを走らせました。

「私は横から書き始めるんですけど、一田さんは下からなんですね。
私ね、星ひとつとってもみんな書き方がまったく違う、と知ったときに衝撃を受けたんです。

もうひとつ、『ボールペンに求めるいちばん大事な価値観はなんですか?』という問いがあります。
デザイン、機能性、思い出など5つの項目から選ぶのですが、私は迷わず機能性でした。

家に帰って夫に聞いてみたら、なんと『思い出』って答えたんです。もうびっくり!
彼はものが捨てられないタイプで、学生時代のノートなんかもすべてとってあるんですよね。
長い間一緒にいるけれど、こんなに価値観が違うんだ、と初めて知りました。
そりゃ、無理に歩み寄ろうとしても喧嘩になるよね、ってわかったんです。

あなたはあなた、私は私。それぞれが日々の暮らしの中で大事にしていることを、
認め合って生きていかなくちゃ仕方がない。
子供が生まれてから、どうして前みたいに仲良くなれないんだろう?って、
7年間ずっと悩んでいました。
価値観のズレをどうしたら前みたいに一緒にできるんだろう?って。
でも、それも私の押し付けだったんですよね。

『私は子供を産んで価値観が変わりました。
あなたも父親になったんだから、変わって当然でしょ』って思っちゃったんです。
7年間ずっと悪いことしたなあって思いました」。

 

 

 

私はこの話を聞いたとき、なんだか感動してしまいました。
初めての子育てや、家事と育児の両立でイライラしているお母さんは、私の周りにもたくさんいます。
それを「どうしてだろう?」と理由を知って解決しようとしたのが、彩子さんでした。

その後、ご主人の仕事部屋はどうなったのですか?と聞いてみると……。
「主人には、ビジネスの話に転換した方がわかってもらいやすいな、
と思って、ひとつの提案をしたんです。
『整理収納のママ向けの教室はいっぱいあるけど、パパのためってないんだよ。
でもパパにも絶対必要だと思うんだ。
これは大きなビジネスチャンスじゃない?』って。

案の定、すぐに「僕も資格取ってみようかな」と言い出しました。
それで、『私の収納の先生を呼ぶから、まずは体験してみたら?』と誘導したんです」と笑う彩子さん。

さっく裕之さんは6時間かけて、コンサルを受け、部屋を片付けたのだとか。
「私がいると口出しをしちゃうから、外に出ていました。
一緒に家にいた娘にメールをして様子を聞いてみたら、
『今、全部ものを出さされてるよ』って写真を送ってくれました(笑)」。
すべてを見直した結果、裕之さんは部屋を占領していたほとんどのものを手放す決心をしたそう。
「今は、机も処分して、そこにレコードプレーヤーを置いてレコードを聞いています」。

彩子さんは、見事にご主人を「変える」ことに成功したというわけです。

ただし……。仕事が一番、暮らしが二番というご主人の優先順位は変わったわけではありません。
つまり、ふたりの優先順位は違ったまんま。
でも、「それはもうOKだとしたんです」と彩子さんはさっぱりとした顔で語ってくれました。
「それぞれ価値観は違っても、大事なのはその中で家族がどう過ごすかだなって思いました」

今、ようやく目の前の霧が晴れ
「私は夫のことが大好きで結婚したんだった、って思い出したんです」と彩子さん。
そして、これから新しいステージに向かって夫婦関係を再構築する予定なのだとか。
どうやって再構築するのですか?と聞くと「優しくなろうかなと思って」と答えてくれました。

ご主人のことを「ゼロから1を生み出す人なんです」と彩子さんは言います。
どんどん新しいことを生み出す人だから、「生み出した後」は彩子さん任せ。
それを「も〜、自分のことしか考えないんだから」と目くじら立てるのではなく、
「生み出す才能ってすごい!」と拍手喝采する。それが、彩子さんが選んだ「優しさ」です。

「いい日があれば悪い日もあって、それでいいんだと思うようになりました。
以前は100点じゃないと気が済まなかったけれど、
90点の日もあれば20点の日もあっていいんだって」。

普段は文句を言っていても、時間をかければきっと欠点を魅力にくるりとひっくり返すことができる……。
そんな夫婦になれれば、相手だけでなく、自分をも輝かせることができるのだと信じてみたくなりました。

撮影/近藤沙菜


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