夫の代わりにルンバがやってきた!  サボンデシエスタ 附柴彩子さん vol.3

 

「こんな時には、こうしてほしい」。
夫に対して、そんな理想型をあれこれ思い浮かべるのに、
実際には、なかなか思い通りにいかない……。
手伝ってくれるものの、「そうじゃないよ〜」と言いたくなったり、
「こういう時こそ、心遣いが欲しいのに」と思っているのに
欲しい「ひとこと」が聞けない……。

「言っても無理なんだな」ということがわかってきたとき、
だったらどうする?
とどう自分の気持ちを切り替えればいいのでしょう?

「夫婦って、なあに?」というお話を
「サボンデシエスタ」の附柴彩子さんに伺っています。
VOL2では、結婚し、とりあえず専業主婦になってみたものの、「向いていない」と
働き始め、石鹸屋さんになる準備に取り掛かったお話を伺いました。

結婚後、裕之さんは就職した会社を半年で辞めて起業していました。
「安定感ゼロでしたね。うちの父は彼が一部上場の企業に勤めていたから
結婚を許してくれたと思うのですが、
あっという間に辞めちゃって」と彩子さんは当時を思い出して笑います。

不安ではなかったのですか?と聞いてみました。

「結婚と同時に、お互いゼロからのスタートだったので、
私たちはここから頑張っていくしかない、っていう感じでしたね。
私は学生時代にアルバイトをしていたカフェの2階が空いたので、
マスターにお願いして安く貸してもらって、そこで石鹸を作っていました。
その後、古いビルの1室をリノベーションし店舗もオープンし、
そちらは私ひとりで切り盛りしていました。
そして石鹸を作る作業を、主人が立ち上げた会社の一事業部として、やってもらったんです。
私が商品の企画を提案し、主人の会社で製造してもらって、
それを自分のお店に仕入れる、というスタイルでした」。

「石鹸づくり」という夢を手に入れ、ワクワクと新しい仕事に取り掛かっていた
彩子さんの姿が目に浮かぶようです。

こうして、毎日深夜まで働く日々が始まりました。
それでも「楽しくて、楽しくてたまりませんでした」と彩子さん。
仕事をして夕飯は外で食べ、また会社に戻って仕事をしていたそう。
「仕事が一番で、次に家のこと。あの頃は、ふたりとも優先順位が同じだったんですよね」。

 

 

そんなふたりが突然うまくいかなかくなったのが、彩子さんが出産をしてからでした。

仕事も子育ても楽しくて、幸せなはずだったのに……。
唯一うまくいかなくなったのが夫婦関係でした。

「初めて価値観がずれたんですよね。
それまでは、仕事が一番、家庭が二番だった。
彼自身はそれが変わらなかったんだけれど、私は家族が一番になっちゃった。
家族がちゃんと在ってこそ、仕事ができるという価値観にシフトしたんです」

なるほど〜。
一緒に暮らしているのに、夫と妻は、途中から価値観がずれてくることもあるんだ……。
と知りました。
確かに、人は自分のライフステージの上で「いちばん大事なこと」が
少しずつ変わってくるもの。

ご主人は家事を手伝ってくれなかったのですか?と聞いてみると、
「いやいや、すごくやってくれたんです」と彩子さん。
「でも、私がここまでやってほしいというラインと、
彼がやることはほんのちょっと差があって……。
たとえば、お茶を飲んだあとは、キッチンの流しに運んではくれるんですよね。
でも私は『そこまで持っていくなら、ちょっと洗っておいてほしい!』って思うんです(笑)。
小さなことでも毎日のことなので、それがストレスになっていったのだと思います」。

このお話を聞いて、「そうそう!」と思わず手をたたいてしまいました。
「そこまでやるなら、最後までやってくれたら、私はなんにもしなくていいのに!」
と思ったことが何度あったでしょう!
器だけ洗ってくれるけれど、ガスコンロはベトベトのまま、とか、
お風呂は洗ってくれるけれど、排水口の髪の毛はそのまま、とか……。
「結局、最後の仕上げを私がやらなくちゃいけなかったら、
私はちっともラクじゃないやん!」とブツブツ文句を言いながら、
ガスコンロや排水口の掃除をしてきました。

でも、そんな「ちょっとの差」を諦めなかったのが彩子さんらしさです。

「最初は我慢していたんですが、これは言わないとダメだと思って。
涙ながらに『本当に子育てと家事と仕事で大変だから、手伝ってください』って頼みました。
でも、やってくれない(笑)。
決して悪気があるわけでなく、優先順位の問題ですよね。
彼はとにかく仕事が一番だから、家事に意識が向かないんです。
だから、彼の中では『やっているつもり』なんですよ」。

そこで、作戦を立てました。
「これは役割を決めるしかない、と思いました。
夕ご飯の洗い物は彼の役目と決めたんです。
なのに、私が子供と一緒に寝て、朝起きたらやっぱり洗い物が残っている……。
それで、こっそり記録を取りました。
やった日、やらなかった日をチェックして表を作りました。
『僕はやってる』と言うけれど、これをみてください、って数字を出したんです。
『あ、ほんとだね〜』って言ってました(笑)」

 

こうした試行錯誤の結果、最終的に彩子さんが出した結論はというと……。

「相手に期待するのをやめて、機械に頼ることにしました。食洗機を買うことにしたんです」。

え〜〜〜〜!!
意外な結末に思わず声が出ました。

でも、ここで彩子さんは、きちんと「自分の納得のさせ方」を構築していたのです。

「前向きな諦めです。欲しいのは『家族みんながご機嫌で暮らせること』だと考えることにしたんです。
その後も、掃除機がけを夫にお願いしてもやってくれなかったので、ルンバがやってきました。
洗濯物を『干すだけでいいからやって』と言ってもいつまでも洗濯物が干されることはなかったので、
乾燥機付きの洗濯機がやってきました。
もちろん、その途中でイライラするんですよ。でも、どんなに私が怒っても相手は変らない。
無理なことを押し付けてもお互い辛くなるだけで、その時間がもったいないなと思ったんです。
子供もすごくかわいいし、夫もいい人で大好きだったはずなのに、嫌いになりそうな自分がいやで。
だったらやり方を変えてみようかなと思いました」。

なんて、聡明な人なんでしょう!

無理なことを求めすぎない……。
そんな「前向きな諦め」こそ、毎日を気持ちよく過ごすために、必要なことなのかも。

夫婦の問題は、「正論」よりも、「現実」に寄り添った方がうまく解決できるのかもしれません。
彩子さんの極めて現実的な解決法に、
なんて冷静なんだろうと感心してしまいました。
そして、そこには、夫を理解し、受け入れようとする愛があり、
家族で幸せに暮らしていきたいという、彩子さんの本当の願いがあるんだなあと納得。

 

次はいよいよ最終回です。

撮影/近藤沙菜

 


特集・連載一覧へ