結婚して、選んだのは専業主婦になるということ。サボンデシエスタ 附柴彩子さん vol.2

 

 

 

イマイチ夫に、自分の本当の思いが伝わらない……。
ちょっと声をかけてくれたら、ずいぶん気持ちが変わるのに……。
そんな風に夫に対して、がっかりすることはありませんか?
そして、「これって、夫婦でいる意味ってあるのかな?」と
ちょっと悲しくなる……。

新コンテンツ「夫婦って、なあに?」では、
いろいろな方に、これまでの夫婦の歩みや、夫婦の在り方、
夫への思いの伝え方、違いはあっても「それでも」と一緒に歩き出す方法などを伺う予定です。

 

第二段は、北海道札幌市で、石鹸を販売する「サボンデシエスタ 」を夫婦で経営されている
附柴彩子さんにお話を伺っています。
第一話では、全身黒づくめの服で、アルマーニのサングラスをかけていた夫に出会った時の話について伺いました。

彩子さんはサラリーマン家庭で、厳しいご両親に育てられた優等生でした。
そんな自分の真面目さから、なんとか脱出したいと考えていたそう。

ところが、出会った夫の裕之さんは、お父様と真逆な生き方。
彩子さんは、どう折り合いを見つけ、ふたりの人生を育ててきたのでしょう?

「正反対ようで、すごく似ているところもあったんです」と彩子さん。
「私の同級生たちは、デートと言えば、ドライブで遊園地に行ったり、ショッピングに出かけたり。
でも、彼は美術館に連れて行ってくれました。私もそっちの方が好きだったから、よかったなあと思って。
でもね、一番似ていると思ったのは、なんでも『面白そう!』と好奇心全開でものごとを見る目。
だから、一緒にいてすごく楽しかったですね」。

こうして交際を始めたふたり。その中で、彩子さんが今でも鮮明に覚えている、という裕之さんの言葉があります。

「大学四年生の頃、研究者になろうとしていたけれど、それでいいのか?と、
これからの生き方に悩んでいました。
そうしたら彼に『自分の殻を破れ!』って言われて。
『大事に育てられてきた優等生だけど、その殻を破ってみたら、きっと違う世界があるよ』って。
その時は、『そんなことできたらやってるよ!』って思いました(笑)。
破れないから悩んでいるのにって。
でも、そう言われて『ああ、私は殻の中で生きてきたんだ』と気づいたんです。
『敷かれたレールからちょっと降りてみよう』って思いました」。

 

 

小学生の頃から「誰かの役に立って笑顔が見たい」と思っていたそうです。
薬の開発ができたら誰かの役に立つかもしれないと、大学も最初薬学部を目指していました。
結局北海道大学では化学を専攻。ところが……。
実験室にこもってただただひとりで作業をする日々に「何かが違う」と感じ始めました。
ちょうどそんな時に裕之さんの言葉によって「降りる」ことを決意したというわけです。
大学を休学して、「まったく違うことをしてみよう」とカフェでアルバイトを始めたと言いますから、その行動力に驚きます。

「今まで会ったことがないタイプの人たちと出会い、いろいろな生き方があるんだなと改めて実感しました。
そして、私は人と関わりながら仕事がしたい、と思うようになったんです」。

そんなプロセスを経て選んだのが「石鹸屋さんになる」という道でした。
「石鹸って作って手渡したら、すぐに反応が返ってくるんですよね。
研究は、人の手に渡るまですごくたくさんのステップがあって、わたしにとっては長すぎたのかもしれません。
もっと人に近いところで仕事をしたいと思ったんです」。

化粧品製造法などの許可を得ないといけないから、と大学院卒業後はまず徳島の製薬会社に入社し、
京都で仕事をスタートしました。
つまりしばらくは遠距離恋愛の日々を過ごしたということです。

北海道大学の大学院まで出れば、きっと一部上場の企業に就職できたはず。
それなのに「石鹸屋さんになる」と決意するのは、すごいことです。
「敷かれたレールから降りてみたら?」と提案した裕之さんと、
「石鹸屋さんの方が楽しそう」とワクワクしていた彩子さんは、
同じ「ものさし」を持っていたのだなあ思いました。

 

 

会社を1年で辞めて北海道に戻りめでたく結婚。
ところが……。
彩子さんが選んだのは、なんと専業主婦になるという道でした。

「私の中にふたつの夢があったんです。
ひとつは結婚して専業主婦になり、子供を産んでお母さんになるという夢。
もうひとつが石鹸屋さんになって、社会の中で生きていくという夢。
それでまずは専業主婦というものをやってみようと思ったんです。
でも、最初の2か月で飽きちゃった!(笑)。
朝起きて、お弁当を作って、掃除をして、お昼ぐらいにはやることがなくなります。
やることがないと人って寝るんですよね(笑)。
夫が帰ってくる前に慌てておきて、夕飯の支度をしていたんですが、
これでは人としてダメになるな、と思いました。
もっと刺激が欲しいなと思って、それを夫に伝えたら
『ちょうど会社の経理がいないから、とりあえず手伝って』と言われたんです。
それで、彼の会社で働きながら、同時に自分も石鹸屋さんの準備をはじめました」。

どんな人も「専業主婦になっておうち時間を楽しむ」というモードと、
「好きな仕事をして自分の力を試してみたい」というモードの
両方を持ち合わせているんじゃなかろうか?と思います。

私は仕事が立て込んでくると、
「あ〜、お日様の下、洗濯物を庭いっぱいに干したい〜!」と毎回思います。
普段家にいる時間が短いからこそ、洗濯物の匂いや、
パリッと乾いた手触りを味わいたくてたまらなくなる……。
女性は結婚によってライフステージががらりと変わります。
でも、仕事や暮らしのバランスの取り方は、結論を急がなくていい……。
「結婚」によって変わる何かが、自分を再発見するチャンスになるはずですから。

次回は、出産を機に、突然夫婦関係のバランスが壊れた!
というおはなしを。

 

撮影/近藤沙菜


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