矢印は相手でなくて、自分に向けて。久保輝美さん vol.4

夫と言い合いをして、あまりの価値観の違いに愕然とし、
やっぱり「わかり合うのは無理……」とあきらめる……。
だったら、「結婚」ってなんなのだろう?と思う……。
日々はそんな繰り返しのような気がします。

一方で、素晴らしい景色を見たら、夫にも見せてあげたいと思うし、
ふたりで、おいしいものを食べたら「ああ、これがいちばん幸せ」と思ったりします。

夫婦って本当に難しい……。
新しく始めたコンテンツ「夫婦って、なあに?」は
いろいろな方に夫婦の在り方を伺っていく予定です。

第一回は「kuboぱん」という店を今年6月で閉店されたばかりの久保輝美さん。
vol3では、なかなか変わろうとしないご主人に、毎晩23時から
コンコンと話をし続けたお話を伺いました。
そして、「kuboぱん」をクローズ。すべてをリセットしゼロに戻ったそう。
それからの久保さんは、どうされるのでしょう?

ご主人は、来年から再度札幌転勤に。3年後には定年を迎えるそう
「私も一緒について行って、札幌に家をたてて、新しいことを始めようと思って」と久保さん。

不安はないのですか?と聞いてみると、こんな風に答えてくれました。

「夫が会社を辞めると言い出した時、『いいよ、どうにだってなるよ』と伝えました。
私はその時、『もっともっと』と稼ぐことが幸せにつながるとは、
もう思わなくなっていたんです。
『そう言ってくれると嬉しいね。ラクになるわ』と彼も言ってくれました。
回り道をして遠回りして、ようやく夫婦の価値観がピタッと重なってきたなあと感じています。
お金があるから生きていける、いけない、という判断基準ではなく、
これからの社会って、『ワクワクすること』を真ん中にして成り立っていくと思うから」。

この世界がひっくり返るぐらいの価値観の変化を、
久保さんはご主人と共に少しずつ進めてこられたのだなあと、
改めてその道のりの奥深さにため息が出ました。
結婚して、離婚して、また再婚して。
長い長い夫婦の物語は、久保さんご自身が「自分を見つける」物語でもありました。

そして、最後の最後にに久保さんが語ってくれたのが、「矢印の話」でした。

「私ね、矢印を相手に向けちゃダメなんだなってわかったんです。
『何かをしてほしい』とか、『どうしてわかってくれないの?』とか
『私、どう思われているだろう?』とか……。
そうじゃなくて、矢印を自分へ向けるんです。

『私は何がしたい?』『どうありたい?』『何が気持ちいい?』って。
それで、『コーヒーが飲みたいな』と思ったら、
自分をおいしいコーヒー屋さんに連れていってあげる。
『この服好きだなあ』と思ったら、自分に服を買ってあげる。
相手じゃなくて、まずは自分なんです。
そうするとどんどんワクワクして、キラキラ輝き初めて、人生がうまく回り始めます」。

 

なんてこと!
このお話は、深く胸に染みました。
私は、ずっと矢印を相手に向け続けてきた……。
夫が手伝ってくれない。優しくしてくれない。
もっと稼いで欲しいのに。もっと引っ張っていって欲しいのに。
夫ばかりでなく、矢印はもっと外へも広がっていきました。
いい仕事をして誰かに評価してほしい。いい人って思われたい……。

そして、自分に向ける矢印は後回しでした。
疲れたけれど、仕事してしまわないと!
おいしいケーキ食べにいきたいけれど、原稿書かないと!

そっか!
私の思考回路を逆回転にしてみたら、何かが変わるのかもしれない!
それを確かめてみたくてたまらなくなりました。
久保さんに、この「矢印のはなし」を聞いてから、
「今、私はいったい何をしたいと思っているんだろう?」
と、ときどき立ち止まって考えるようになりました。

そうやって、自分を大事にしてあげることができたとき、
夫に対して求めることも、自然に変わってくるのかもしれません。
つまり、「夫に何を望むのか?」「どんな夫婦になりたいと思うのか」
という前に、
自分自身が、何をしたいのか? 何が心地いいのか?
を考えた方が、ずっとうまくいくってこと。
そうしたら、夫にもっと優しくなれる……。

 

 

 

久保さんがすごいのは、自分だけではなく、
夫も矢印を自分に向けることができるよう、心を尽くして寄り添って、
その方向を修正し続けてきたこと。
こうしてやっと自分をご機嫌にできるふたりが、隣に並んだとき、
幸せの矢印は共鳴しあって、よりハッピーの輪が広がっていくのかもしれません。

つい最近、久保さんに連絡することがありました。
すると
「最近また2人の中での意見がぴったり重なるようになってきました。
意見の中身はまったく逆ですが、その違いをお互いが尊重できるように
なった感じ」
と教えてくれました。

失望、喧嘩、語り合い……。
そのどの場面でも、なにひとつ諦めず、「本当のことってなに?」と求め続けてきたからこそ
一緒に歩めるようになった……。

長い長い久保さんの夫婦のお話はそろそろおしまいです。
「誰かの参考になるなら」と
とってもプライベートなお話を、語ってくださった久保さんに心から感謝いたします。

ここまで4話。
ぜひもう一度読み返してみてください。
最初は、「え〜!どうするの?」「それからどうした?」と
ストーリーを追うことに夢中でも、
実はその中に、自分の足元を見つめる種がいっぱい落ちているはずですから。

この「夫婦って、なあに」はまだまだ続きます。
次回をどうぞお楽しみに。

撮影/近藤沙菜


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