夫婦でも、互いの生き方には手を出せない。久保輝美さん vol.3

夫と言い合いをして、あまりの価値観の違いに愕然とし、
やっぱり「わかり合うのは無理……」とあきらめる……。
だったら、「結婚」ってなんなのだろう?と思う……。
日々はそんな繰り返しのような気がします。

一方で、素晴らしい景色を見たら、夫にも見せてあげたいと思うし、
ふたりで、おいしいものを食べたら「ああ、これがいちばん幸せ」と思ったりします。

夫婦って本当に難しい……。
新しく始めたコンテンツ「夫婦って、なあに?」は
いろいろな方に夫婦の在り方を伺っていく予定です。

第一回は「kuboぱん」という店を今年6月で閉店されたばかりの久保輝美さん。
Vol2では、苦しい専業主婦時代を経て離婚。その後再びご主人と暮らし始めた
日々について伺いました。

夫婦関係がやっといい方向へ向かい始めたかに見えたのに、
もう一歩踏み込もうとした途端、夫の考え方の違いに愕然とし、
久保さんはまた失意の中へと入り込んでしまいます。

「初めて義母から逃れて、やっとふたりで向き合えただけでした。
がっつり向き合ってみたら、夫は何にもわかっていなかった……ということにがっかり。
彼は相変わらず仕事一筋で、周りがまったく見えておらず、相手への思いやりがない。
私はいろんな本を読んだり、人の話を聞いたりして、
どんどん自分が進化していくことを実感していました。
なのに夫は何も気付いていない。以前とまったく変わっていない。
何を言っても響かない。これはダメだと思いました」。

本を読んだり、誰かに会って話を聞いたり。
そこで、常に自分を変化させ、バージョンアップする。
女性はそんな「自分の更新」にとても興味があるものです。
でも……。
男性は意外に融通が効かず怖がり。
一度自分の価値観を打ち立てると、なかなかそれを変えることができないよう。
「ねえねえ、今日こんなことを知ってさ」
と夫に話しても「ふ〜ん」と興味を持ってもらえない……という経験は
誰にでもあるのではないでしょうか?

久保さんは「もうやっていられない」と再び離婚をつきつけたといいますから
驚きです。
私も離婚経験者なので「別れる」という行為が、どれほど
自分を消耗するかがよくわかります。
でも、久保さんは、相手にぶつかり続けるパワーを持った方。
それはつまり、諦めない=愛がある、ということなのだと思います。

すると、今度はご主人が「ちょっと待ってくれ」と言ったそう。
『何ができていないのか、教えてくれ』って言ったんです。
『言われないとわからないから』って」。

こうして、久保さんは改めてご主人に向けて語り始めました。
毎日夜の23時ぐらいから、自分が得たこと、考えたことをコンコンと話し続けたそうです。
それは、「幸せ」って何か、ということだったり、
「生きる」ってどういうことか、ということだったり。

「少しずつ彼が変わってきたんです。
仕事のこと、自分のことだけを考えていたエリート社員だった彼の中に、
『輝美のこと』を考える隙間ができた。
少しずつ、何をすれば私が助かるか、と考えてくれるようになりました。
そして、『自分を変える練習』として、家事全般をすべてやってくれるようになったんです。
朝ごはんを作ったり、トイレ掃除もお風呂掃除も『全部やるから』って」。

なんと!
コンコンと話し続ける久保さんもすごいけれど、
変わろうとするご主人もすごい!
こうして、42歳の時に再婚しました。

この頃、久保さんは新たな場所を借り「kuboぱん」をオープンさせました。
教室をメインに、週に2〜3日だけお店をオープン。それが43歳のときのこと。
夫に何かを求めるだけでなく、自分は自分で行動を起こし、着々とその土台を築く……。

一方ご主人は札幌から岡山勤務を経て、昨年東京へ戻りました。
すると……。「『俺、会社辞めるわ』って言い出したんですよ。
やっと言ったか!って思いました」と笑う久保さん。
会社に対して忠誠心が強かったご主人ですが、
ここ1〜2年の間にいろんなことが起こりました。
体に不調があり、今も半年ごとに検査に通っているそう。
「私はずっと言い続けていたんですよね。
『忠誠心は素晴らしいけれど、あなた今、体にメッセージがきてるよね。
『あなたのワクワクはどこにあるの?』『やりがいはどこにあるの?』
『あなたはどうありたいの?』って、ずっと問いただしてきました』。

今年6月、なんと久保さんは「kuboぱん」をクローズしてしまいました。
「私はパン屋をやりたかったわけじゃないんです」と聞いて、
「え〜!」と思わず声をあげてしまいました。
あんなに自身を支えるものとして、作り上げた場所だったのに……。

「パン教室を開きながら、実際にやっていることといえば、
生徒さんの悩みを聞いたり、私の体験談をお話ししたり。
あ、私がやりたいことってこっちだわ、ってわかったんですよね。
ベーグルは、誰かに何かを伝えるためのツールだったんです」。
これからは、自分が悩んだり、立ち止まったり、落ち込んだりした中から、
やっと抜け出せた経験を、周りにいる人たちに伝える仕事をしていきたいそう。

時間をかけて、少しずつ歩み寄ったご夫婦が、最終的に選んだのは、
すべてをリセットし「ゼロ」地点に立ち戻る、ということでした。

自分が何者なのか、何を望んでいるのか、そしてどこへ行きたいのか……。
久保さんは、常にそれを考え続けられてきました。
そして、同時進行で夫婦の在り方も壊しては積み上げ、また壊して……
と、自分が自分でいられる「夫婦関係」をコツコツと探し続けてきた……。
そして、今は「ふたりの意見がぴたりと重なるようになったんです」と語ります。

そっか。夫婦で生きるって、自分で生きるってこととイコールなんだ……。
久保さんのお話を聞きながら、そう感じました。

次はいよいよ最終回。久保さんの「これから」について伺います。

撮影/近藤沙菜


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