パン屋「ダンディゾン」「 ギャラリーフェブ」 オーナー引田ターセンさんNo3

吉祥寺で、パン屋「ダンディゾン」と「ギャラリーフェブ」
を営む引田ターセンさん。
かつては、IT企業で働くモーレツビジネスマンでした。
そんなターセンさんに、
夢を実現するための、ビジネスの基礎について伺っています。

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前回は、パン屋「ダンディゾン」を例に
ビジョンの立て方について伺いました。

日本IBMで、着々と出世街道を登って行ったターセンさん。
さそがし、仕事人間だっただろうなと思いきや

ターセンさん:
毎日定時に帰っていましたよ。
帰ってから勉強なんてものもしない。
最小の努力で、最大のリターンを、
というのが僕のモットーでしたから。
新入社員の頃は、まだ週休2日の時代ではなかったんだけど、
有給休暇すべてを使って、
僕だけ土曜日も休みでした(笑)

46歳で、ターセンさんは「日本オラクル」へと転職されます。
決め手になったのは、
「引田くん、イチから会社を作ってみないか?」
というひとことだったのだとか。
当時、アメリカでラリー・エリソン氏によって設立され、
ビジネスに特化したデータベース管理システムのソフトを
開発、販売していたのがオラクルコーポレーションです。
日本で積極的にビジネスを展開するために、
集まったひとりがターセンさんでした。
つまり、コンピューターというハードを売る日本IBMから、
今度はソフトを売る「日本オラクル」へと転職した
というわけです。

ふたつの会社で、部下を持ち、チームワークで
大きな成果をあげたターセンさん。

ビジネスで成功した人の話を聞いていると、
必ずでてくるのがこの「チームワーク』という言葉
のような気がします。
自分ひとりがどんなに頑張っても
その力は知れている……。
本当にビッグなことをやり遂げるためには、
周りにいる、あの人やこの人の、力をいかに借り、
1+1を2にも3にも10にも100にも
しなくてはいけないのですから。

私も1冊の雑誌を作るとき、
このことを実感しています。
「あそこにこんな面白い人がいたよ」
「この前読んだ本にこんなことが書いてあったよ」
スタッフたちの、アンテナを総動員するからこそ、
視野が広くなり
ひとりでは見えなかった世界が広がりだします。

 

そこで次に、ターセンさんにどの会社においても必要な
コミュニケーションの基本を教えていただきました。

ターセンさん:
まずは、「state clearly」
直訳すれば、「はっきりしゃべる」ということ。
これは、日本人が結構苦手とすることです。
話すときに、ちゃんと主語を言うことが大事。
「Aさんが、この方法がいいと言っています」
「私が、これを確認しておきます」
といった具合です。
日本人は特に会話に主語がない。
文化的にはいいことなんですが、ビジネスではね。

結婚当初、僕はカーリンに嫌われてね。
話していると、必ず僕が
「で、今の主語は何なんだよ?」
って言っていたらしい。
癖になっていたんでしょうね(笑)

次に「conclusion first」
最初に結論を言う、ということ。
「A,B,Cという方法がありますが、結論はBです。
 どうしてかと言うと……」
という話し方ですね。

そして、何より大切なのが「listen」
聞く、ということです。
世の中には、ちゃんと聞かない人が大勢いる。
人の話を途中で遮って、
自分の話をしだしたり、次の話題へ変えてしまったり。

でもね、相手がしゃべっているときは、ちゃんと終わりまで聞く!
つらいかもしれないけれど聞く!

営業に行ったときにも、
セールストークなんてしなくていいんですよ。
大抵の場合、相手は自分で答えを持っているんですから。
全部相手にしゃべらせて、
それを提案書としてまとめれば、
必ず買ってくれます。
ひたすら聞くことで、
相手がどんどん答えをしゃべってくれるはず。

 

なるほど〜!と驚きました。
これって、私が取材するときに心していることと同じだったから……。
取材で、人の話を聞くとき、
自分で質問し、それに対して自分で答えを言ってしまうことがあります。
相手が喋り出すのを待ちきれなくて
「こうですよね〜」
と先導してしまう……。
そうではなくて、質問したらまず黙る。
相手の言葉を待つ。
これは、インタビューをするときの
いちばん大事なことだと思っています。
ターセンさんのビジネスのお話に、
すこしだけでもつながりを感じて
ちょっと嬉しくなりました。

 

さらにターセンさんのお話は続きます

 

そして「one subject at one time」
その時話すのは、ひとつの議題だけと決める。
コミュニケーションの基本は、
誰かがひとつのテーマについて話しているときは、
誰もが、それについてしか話さないってこと。
たとえ、他のことを思いついたとしても、
その会話が終わるのを待ってから、次にいくのがルールです。

最後に「unanimous agreement」
全会一致という意味ですが、
参加している人全員が「イエス」というまで徹底的に話し合う
ということです。

こうして会議が終わったら
必ずそれを文章化して、
誰が何をいつまでに何をするかを書いておきます。

山田部長が、10月10日までに予算書を書く
といった具合。
これさえきちんとやっていけば、
優秀な営業マンになるし、優秀な提案書ができ、
お客様も正しいものを適性な価格で買ってくれるようになります。

私はどうも、モノゴトをはっきりさせる、
というのが苦手です。
真実はひとつじゃないかもしれないし、
いろんなものの見方があるし、
もっと考えたら
結論は変わるかもしれない。
世の中に確かなことなんてないんじゃないか。
答えなんて、そんなに簡単に見つかるものじゃないんじゃないか、
と思っていたから……。

でも、そんな風にファジーなまま進めていくと
何にも決まらないし
何の成果を出すこともできない……。

人は腹をくくって何かを「決める」からこそ、
もし、間違えたら「違う」と学ぶことができ、
「成果」を手にすることができる……。
ターセンさんのお話を聞きながら
そんなことを考えました。

ターセンさんは、こんな風に話してくれました。

ターセンさん:
夢はなんなのか、死ぬほど考えなくちゃね。
みんなそこが足らないんですよ。
つまりビジョンがない。
なんとなく花屋をしたいなあと思う。
でも、なんとなくじゃダメなんです。
どんな花屋をしたいのか、どれぐらいの規模にしたいのか。
たとえば、年間1000万円儲かる花屋にしたいのか、
年間10万円でいいけれど、みんなにすごく喜ばれる花屋にしたいのか。
そのビジョンをとことん考えなくちゃ。

ビジョンが降りてくるまでは、時間がかかります。
降りてこないならやめたほうがいい。
ビジョンを描ける人のことを、ビジョナリストと言います。
ビジョナリストってそんなにはいないんですよね。

「ダンディゾン」では、パン職人ひとりひとりと
話をするんです。
どんな職人になりたいかって。
有名になりたいのか、独立してパン屋をやりたいのか、
カフェをやりたいのか、このまま「ダンディゾン」をやりたいのか……。
ひとりひとりみんな違うんです。
それを、言えるようにならなくちゃ。
職人であろうが、店長であろうが、店主であろうが、それは同じです。

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ビジョナリストになる……。
この話を聞いて、
私は、まだまだ「考え抜く」ことが足りないなあ
と思いました。
ああだったらいいな〜。こうだったらいいな〜。
漠然とそんな思いはあっても、
それを現実にする力は
自分が何を望んでいるかを明確にする
プロセスが必要……。

ビジネスで成功している人たちは、
自分の中から、
「やりたいこと」を掘り出して
それが、どんな形をしているのか、
輪郭をきちんと把握して、
その「かたち」の容れ物に入るものを
見つけにと旅立つことができた人なのでしょう。

そこ=ビジョン
さえ、明らかにすれば
あとの方法は自然についてくる。
私も私だけのビジョンを
捕まえてみたいと思ったのでした。

 

最終回は「人をつかう」ということについて
伺います。


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