吉祥寺で、パン屋「ダンディゾン」と「ギャラリーフェブ」
を営む引田ターセンさん。
かつては、IT企業で働くモーレツビジネスマンでした。
そんなターセンさんに、
夢を実現するための、ビジネスの基礎について伺っています。
前回は、基本の「き」 ビジネスの三角形のお話をしていただきました。
今回は、その中身を、じっくり伺います。
まずは一番上の「ビジョン」から
ターセンさん;
ビジョンとは、自分がなりたいもののこと。
こういう人間になりたい、こういうビジネスをしたい、
という理想像、未来像のことです。
このビジョンを決めるときに、
一等最初に考えなければいけないのが、
「このビジョンが、誰のためにあるか」ということ。
これを決めないで始めちゃうと、
ビジネスがおかしな方向へむかっちゃう。
いちばん最初に自分のため
そして家族のため 自分を慕ってくれる仲間のため
地元、吉祥寺のため、
日本のため、世界のため……ってね。
ミッションは、 だから
なんのためにこれをやるのか、という「使命」。
ゴールは、
何年後に、どうなっているか、
具体的に決めること。
3年後に1億円稼ぐとか、
5年後に5店舗の店を出すとか。
ストラテジーとは「戦略」という意味です。
上記の「ゴール」に到達するための戦略を
最低3つは考えることが必要。
どういうやり方で「ビジョン」や「ミッション」を実現するかを
優先順位をつけて考えることが大事です。
そして最後に「アクションプラン」。
「ストラテジー」を分解して、
1年ごとに何をするのかを決めます。
これが、ビジネス展開のイロハです。
これができると社長になれます。(笑)
「やってみないとわかりません」ではダメ。
やりながら考えるのは、ビジネスではないんです。
なんと、なんと!
耳が痛い!
私はこれまで、すべてを「やってみないとわらかない」
と進めてきた気がします。
だって、何が正解かがわからなかったから……。
いったいどうやって、ビジョンを立て
ストラテジーヤやアクションプランに落とし込んで
いけばいいのでしょう?
ターセンさん:
たとえば「ダンディゾン」を例にとって
具体的に言うと……。
ビジョン:どこにもない幸せなパン屋を作りたい
ミッション:お客様もスタッフも、仕入先も地元も、パン好きも、
みんなを幸せにしたい。
ゴール:美しい店で、楽しく、体にいいおいしいパンを提供する。
これを10年以上続ける
(ダンディゾンというのは、10年後という意味)
ストラテジー:利益追求というよりも、ゴール達成のための方策を徹底する。
そのために、規模の拡大はしない。
具体的には、2店舗目は出さない。デパ地下にも出さない。
テレビには出ない
アクションプラン:これは、クリスマスや休みなど細かなこと
まず、「ビジョン」の「どこにもない」というところが大事。
「おいしいパン屋さんを作りたい」じゃあダメなんです。
「おいしいパン屋」はどこにでもある。
そうじゃなくて、僕がやりたいと思ったのは、
「どこにもないパン屋」でした。
「ダンディソン」のように、 ここまで仕入れにこだわった、体にいいパンを売る店は 他にはないと思うんですよ。
よく「国産小麦を使っています」
と謳っているパン屋さんがあるけれど、
多くの場合、メインの3種類だけが国産小麦で、
あとはアメリカの小麦だったりする。
でも、うちでは全部がおいしい国産小麦。
普通はこんなこと、やりませんよ(笑)。
原価率がガンと上がるし、作るのが難しいからね。
それでも、利益はでるんです。
少々価格が高くても、おいしければ、必ず売れる。
最初からそう思っていました。
それにしても、ターセンさんは、
ずっとサラリーマンで、お店をやったことなんて
なかったはず。
なのに、「必ず売れる!」という感覚が
どうしてわかったのでしょうか?
ターセン:
それは、パンを売るのも、コンピューターを売るのも同じだからですよ。
日本IBMのコンピューターは、
国産のものの3〜4倍の値段でした。
マシンのスペックや能力はほぼ同じなのに……。
それでも、売れたのは、
社員が、営業が、そのサービスが違ったから。
機械を納めて終わりじゃない。
そこから何十年というつきあいが始まります。
たとえば、
「おたくは、こういう風に会社を作ろうとしているから
今後は、こんなシステムを作るといいですよ」
と提案書を持っていく。
それが、IBMの営業でした。
なるほど!
モノだけではなく、
コンサルタント的役目まで果たしてくれるなら、
そちらを選んで当然!と納得しました。
ターセンさん:
パン屋もそれと同じです。
お客様は付加価値を求める……。
まずは、トングをやめました。
僕、トングが嫌いなんです(笑)
パンが美しく並んでいて、スタッフがひとりひとりのお客様に
一生懸命説明します。 素材や味や食感などなど……。
そして、納得した上で、お客様が「これ」と選んだら
スタッフがトレイに取ってさしあげて、レジへ。
僕はね、オープン当初から見えていたんです。
「ダンディゾン」にどんどんお客様が入っていく姿が!
エブリデイ・スーパーポジィティブ!
エブリタイム・自信満々!
ターセンさんと話をしていると
頭の上にからりと晴れた青空が広がっているような
清々しい気分になってきます。
お話を伺っているうちに、
「ビジョン」ということが、少しずつわかってきました。
モノがいかに売れるか、は、ビジョンではない。
売っているのは、パンではなく、
「ダンディゾン」に入って、嗅ぐ匂いであり、
美しい店内で過ごす時間であり、
パンを選ぶプロセスであり、
そこで交わされる会話でもある……。
モノの価値というものは、
そうやって、包括的に高められていくのだと
教えていただいた気がしました。
さて、次はIBMをやめて、次なるステップを登る
ターセンさんの姿を追いかけます。