働くということは、つながりの中へ入れてもらうということ。

昨日の東京は、あれよあれよという間に雪が積もりびっくり!
お昼からはからりと晴れて、
不思議な天気の1日でした。
街中には、あちこちにこぶしの花がひらひらと咲いています。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて……。
先日、たまたまオーディブルで「おすすめ」に上がってきた小説を
聞いてみました。
喜多川泰さんの「いただきます。」という1冊です。
私は、喜多川さんという作家さんを恥ずかしながら存じ上げず……。

物語は、高校を卒業した19歳の翔馬が、大学の守衛室でアルバイトを始めるところから始まります。
「ラクして稼げればいい」と思っていただけなのに、
その守衛室で働いていた老人たちによって、いろいろなことを教えてもらい、
社会とは? 世界とは? という「つながり」を学んでいきます。
老人たちは、実は自動車会社で世界を飛び回り、
今は最後の一台とランボルギーニを乗り回す人や、
自衛隊の幹部や、
漁師や……
とすごい人ばかりだったのでした。

さらには、教えてもらったことを、
守衛室に遊びに来る大学生たちに、今度は翔馬が教え、
さらに大学生が語ることからも、いろいろなことを、翔馬がまた学ぶ、
というストーリーです。

これ、もしテキストで読んでいたら
「は〜ん、またこういう話ね……」と本を閉じてしまっていたかもしれません。
でも、音で「聴く」ことで、
翔馬と一緒に老人たちの話を自分が聞いているような感覚になって
夢中で耳を澄ませていました。

私は、学生たちが翔馬に話してくれたことに心打たれました。
毎日ギンガムチェックのシャツを着てくる男子、「ギンガムくん」が言ったのは、
「一膳のご飯を作るためには、宇宙のすべてが必要だ」
というはなし。
稲が育つには、水、空気、太陽が必要で、
植物が育つためには、地球と太陽の距離がベスト。
これが月だと、2週間昼で、2週間夜なので、育たない……。

ぞうのバッグを毎日持っている女子「ぞうちゃん」が話してくれたのは、
師匠から教えてもらった、お弁当に入っているピーマンの肉詰めは、誰が作ったのか?
というお話。
牛肉になる牛を育てる人がいて、牛を運ぶトラックを運転する人がいて、
その燃料を作る人がいて、トラックが走る道路を作る人がいて、
冷蔵庫を作る人がいて、電力を作る人がいる………。

ここまでだと「ふ〜ん、よくある話よね」と思ってしまうのですが、
その次の「ぞうちゃん」の一言がよかった……。

「社会って面白い。
普段は見えていないのに、自分が学べば学ほど、
そのつながりが見えてくる」って。
そして……。

「自分が努力しないのに、何かが手に入る影には、必ず誰かの努力がある。
働くということは、そのつながりの中に自分も入るということ。
たったひとつでいいから、
自分ができることで、人の役に立つことができれば、
そのつながりの中に入れてもらえる」と師匠が教えてくれたそう。

 

テニスに向かう途中で、車窓から見たこぶしの花。信号待ちの間にパチリ。

私は、この「つながり」という考え方が少し苦手でした。
「みんなで頑張る」というのがなんだか面倒くさくて、
「自分が」頑張って、自分ひとりでぶっちぎってゴールにかけこめばいい、って
考えてきたように思います。

誰かに生かされている、ということを頭ではわかっていても、
体で理解することがなかなかできませんでした。

でも、歳を重ねるにつれ、
自分ひとりでは、どうにもできないことがわかってきて、
少しずつ、「誰かの力」を信じるようになったときに、
読んだ(聴いた)のが、この本だったというわけです。

そっか……。
働くっていうのは、「つながりの中に、自分も入れてもらう」ってことなんだ。
私も「書く」ということで、
なにかの「つながり」の一部になれたとしたら、
すごく大きな世界や宇宙の力の一部となって、
誰かの役に立つことができるのかもしれない。
そのことに、とてつもなくワクワクしたのでした。

たぶん、ほんの少し前の私なら
「そんな歯車のひとつになんて、なりたくない」
「私は、私がやったことで、私として立っていたい」
なんて、自分勝手なことを言っていたかも。

でも、そんな「我」を手放して、
もっともっと大きな社会や、世界や、宇宙まで思考を広げたとき、
なんだか、すごく自由だなあ〜
なんでもできるなあ〜
と、可能性が無限に広がっていく気持ちよさを感じたのでした。

全部できなくていい。
自分ができる「このパーツ」でいい。
そう思うと、すごく軽やかな気分になります。
そして、「何をしたらいいのかな?」と途方に暮れることなく、
「今目の前にあること」に一生懸命になれる気がしてきます。

「つながりの一部だ」と自覚することは、
果てしなく自由に飛び立つための一歩なんだなあと改めて思いました。

この本、残念ながらオーディブルのみで、書籍化はされていません。
もし興味があったら、ぜひ聴いてみてくださいね。

今日もいい1日を。

 


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