自分の心に耳を傾ける、別の自分を持つ

今朝、ウォーキングに出ると、風がひんやり。
今日の東京はちょっとだけ涼しいようです。

みなさま、三連休いかがお過ごしでしょうか?
私は、取材が入っていることもあって、今日がお休みだということを
まったく知りませんでした(笑)

先日、NHKプラスで「最期の講義」という番組を見ました。
暮らしのおへそ vol21」で取材させていただいた、ヤマザキマリさんが出演されていて、
マリさんの一言一言がものすご〜くよくて、
食い入るように見ていました。

「テルマエ・ロマエ」など、人気漫画家として活躍されるヤマザキさん。
でも、その人生は波瀾万丈。
画家になりたいとイタリアへ渡り、シングルマザーとなり、極貧生活を送っていました。
「引き算で買い物をする。そんな時代が10年続きました」と語られていました。
つまり、300円のものを買ったらあと1700円残る……
と常に残金を数えながらの生活ってこと。
それが10年だなんて!

友人に勧められて書いた漫画を日本の出版社に送ったら、それが努力章をもらい
賞金10万円を握りしめて帰国したそう。

日本で、子供を養いながらなんとか食べていくために、会社員に。
それでも、パソコンを売ったり、経理の仕事をしながら
次から次へと「こんな絵が描きたい」という思いが浮かんできたそうです。

その時思ったことを語ってくれたマリさんの言葉が印象的でした。

「自分を愛していなければいけない。
自分の心に耳を傾けてあげる、別の自分をちゃんと持っていなければいけない」。

なるほど………。
マリさんは、会社員が続けられなくなるほど、
自分の声がちゃんと聞こえていた……。
けれど、普通の人は、本当の自分の心さえ、
もうひとりの自分が何を言っているのかさえ、
なかなか聞き取れないんじゃないかなあ。

その後、テレビ局から声がかかり、温泉レポーターを5年半されていたそう。
イタリアなど海外で、「湯船に浸かる時間が圧倒的に少ない人生だった」
ということを話していたら「だったら、思いっきり浸かる仕事はどうですか?」
ということになったらしい……。

漫画家として、食べていくことはできず、何足もの草鞋を履いて生きていたのだといいます。
その後イタリア人と再婚され、夫の仕事の都合で海外を転々とする生活に。
ポルトガルでは、家に湯船がありませんでした。
その中、ローマの遺跡のあちこちにあるお風呂跡や、幼い頃にお祖父様と巡っていた昭和の銭湯、
そんなあれこれがカチッと結びつき、
あの、銭湯の中からローマ人がガバッとでてくる「テルマエ・ロマエ」のあの風景を
思いついたのだといいます。

そしてマリさんは、こんなふうに語られました。
「出し惜しみなく土を耕し続けていれば、
きっと、いろんな形となって、出てくる」

この「出し惜しみなく」ということが大事なんだなあ。
どうしても、人は「こうしておいた方が無難かな」
「こうやったら失敗しないかな」
と「やりたいこと全開」では、なかなか走り続けられません。

でも……。
最初から「やりたいこと全開」でなくても
「やりたくないこと」をやらざるを得ない状況の中で
「やっぱり違うな」と考え続ける……。
そのことだって「出し惜しみなく土を耕し続ける」ことになると思うのです。
一見、ご自身の「やりたいこと」に一直線だったようにも見えるマリさんにも
悶々とした時期が20年間もあった……。
そう考えると
「ここじゃない」「こっちかな」と模索する時間も
自分の心を耕し続ける尊い時間なのかなあと思えてきます。

最後にこんなふうにも語っていらっしゃいました。
「みなさんが、何かになりたいと思ったとき、
漫画から漫画を学ばないでください」。

これはきっと目の前のお手本をなぞることをしないでくださいっていう意味なんだろうなあ。

マリさん自身も、絶えず「傷つきたくない」「安定したい」
と「自分の心の声」と反対な声が聞こえてきたそうです。
でも、「優先順位が勝手に決まってくるんです」と。
「必要ないものは、もがくうちに、老廃物のように流されていく」と。

ものすごく正直にご自身のことを語ってくださったからこそ、
そのひとつひとつの言葉が、リアリティを纏い、胸に響きました。

私はもうだいぶ歳をとってしまったけれど、
そんな私の中にも「心の声」はあるのかな?
本当の私は、何をしたいと言っているのかな?
そう別の自分になって、もう一度問い直してみたいなあと思います。

そして、おばあちゃんになっても、「これでいいのかな?」と迷い続け
自分の土を耕し続けて、
小さな花が咲かせられたららいいなあと思いました。

NHKプラスで、17日(水)まで見られるので、
興味のある方はぜひ!

みなさま、今日もいい1日を。


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