登山の鉄則は、いちばん弱い人に合わせるということ。

今朝の東京は小雨が降っています。
朝のウオーキングはお休み。
外を見てから、ベッドに潜り込み、30分だけ二度寝をしました!

みなさま、いかがお過ごしですか?
いよいよ今年も残り2週間ほど!
打ち合わせも、ほとんどが来年の話です。
昨日はランチミーティングに。
打ち合わせの合間に、互いの近況を話したりで、
あっという間に2時間半がたちました。

稲葉俊郎さんの新著「山のメディスン」(ライフサイエンス出版)を読みました。
いや〜、いい本だったなあ〜。

暮らしのおへそ vol,26」でもご紹介した医師の稲葉さんは、
取材当時、東京大学医学部附属病院にお勤めだったのだけれど、
2020年に軽井沢に移住。
今は、軽井沢病院の院長を務められています。

この本は、大学時代に出会った登山のこと、山岳診療所のこと、などが
「医学」ってなんだろう? と問い続け、
西洋医学の限界を知り、模索されたご自身のことと共に綴られています。
「はじめに」には、
「わたしは生きていくうえで大切なこと、かけがえのないことのすべてを山から学びました」
と書かれていました。

幼少期は3歳から4歳までずっと病院のベッドの上で過ごし
退院後も体が弱くて、家にこもりがちだったそうです。
そこから東京大学を目指すまでの経緯も、「そうだったのか〜!」と思いながら
面白く拝読しました。

そして!
なんといっても心揺さぶられたのが、稲葉さんと山との出会いです。

歩く、走る、這いつくばる、よじ登るなどの行為で両手両足を駆使しながら、
数十億年の歴史がつくり上げた複雑な曲線が織りなす石と土と砂や植物で構成された
地球の肌の上を駆け巡る。
こうした行為を無心に繰り返すことは、わたしがこれまでの暮らしで使っていなかった
身体の引き出しを開け続けることにもつながっていきました。
(中略)
登山によって全身の筋肉が疲労する感覚は、
まさにわたしにとってこれまで使っていなかった微小な筋繊維の細胞が
長い眠りから覚めたようなものだったとも言えます。
(中略)
この時わたしは、人間の身体は実際には使ったことがない内に秘めた機能を
使うことに対し、喜びを感じるのではないか、と思ったことを覚えています。

この部分を読んだだけでも、
うわ〜、登山に行ってみたい! とワクワクしました。
そして、行ったことはないけれど、山と稲葉さんの足元を常に想像しながら
この後のページを繰りました。

この本の中で、いちばん感動したのが、
「登山は、弱い人に合わせる」という、稲葉さんが「いのちのフィロソフィー」と呼ぶ決まりごとでした。

登山の鉄則の中でももっとも大切なことが、パーティーの在り方や登山のペースを
体力や経験が一番乏しい人に合わせるということです。
これをわたしはいのちのフィロソフィーと言っています。

これは、きっと登山以外でも、暮らしや仕事の上でも同じだなあと思いました。
稲葉さんはさらにこう綴っていらっしゃいます。

弱い立場にいる人が自分の力を発揮できないと、チームとしては機能しません。
弱者を排除する考えを続けていると、チーム内では永遠に弱者が生まれ続ける構造が
存在してしまいます。
そうしているうちに、自分自身が弱者になる時期が訪れ、
排除される結果へとつながるのです。

弱者に合わせる、ってどういうことなのだろう?
と改めて考えました。
登山のベテランで、体力があって、脚力もスキルもある人が、
弱者に合わせると、
当然登るペースは落ちるし、頂上へ着く時間も遅くなります。
だったら、経験者だけを集めて、登ればいいのか?
そうすると、稲葉さんが書いていらっしゃるとおり、
経験者の中にも優劣があり、必ずいちばんの弱者が存在する……。

だとすれば……。
弱者に合わせるとは、
「早く頂上に到着するために登る」という思想そのものを、くるりとひっくり返す
ということなのだなあと思ったのです。

なんのために山を登るのか?
そこには、強い、弱いという差には関係のない
強くても、弱くても手にできる何かがあるから……。

これを私たちの生活の中で考えてみると、
私たちが目指すものは、
能力のあるなしや、たくさんお金を持つか持たないかや、仕事がうまくいくかいかないか、
では手に入れることができない……ということ。

だったら、目指すものはなに?
と考えると、
まさに稲葉さんが最初の山との出会いで綴っていらした
「人間の身体は実際には使ったことがない内に秘めた機能を
使うことに対し、喜びを感じる」
ことなんじゃないかと思ったのです。

私たちの喜びは頂上にあるのではなく、
一歩一歩登っていく、その道中に、自分の体と心の中で起こるもの……。

これは、まさに、先日ホロスコープの先生に教えていただいた
「一日一生」と同じでした。

つい、より高く、より早く、と何かを目指してしまうけれど、
そんな目線を、自分の足元に戻してみたいなあと思いました。

みなさま、今日もいい1日を。


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