「今日1日」という意識

き〜んと冷たい風が吹いています。
いよいよ寒さ本番ですね。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて……。
もっと早く行こうと思っていたのに、なかなか行けなくて、
やっと先日、ジュリーが主演の映画、「土を喰らう十二カ月」を見てきました。

いや〜、しみじみいい映画だったなあ〜。
作家、水上勉さんの「土を喰う日々ーわが精進十二ヶ月」を原案とした映画です。

ジュリーが演じる作家のツトムさんは、実家が貧しくて口減らしのため寺へ。
9歳から13歳まで禅寺に住み、精進料理を身につけました。
そのツトムさんが、人里離れた信州の山荘で暮らしながら、
畑で育てた野菜を使い、日々ご飯を作る……。
その淡々とした日常を、春夏秋冬で追っていくストーリーです。
花を添えるのは、松たか子さんが演じる、担当編集者で恋人の真知子さん。

料理は土井善晴さんが担当されています。
筍の煮物、芹ご飯、ふろふき大根、胡麻を擦って作る胡麻豆腐。
畑から採ってきたものを、その日台所で料理する。
その手順を追うだけでも、十分楽しめるし、できあがった一皿のおいしそうなこと!

撮影チームは、本当に里山に家を借り、
畑を作り、種を蒔き、
春は春の野菜を、夏は夏の野菜を収穫し、料理する。
すべて「本当に」季節を味わうことで、映画を作ったそう。

雪が積もった畑に大根をとりに行くシーンは、
足跡がついていない雪の上を歩いていくので、失敗は許されず、チャンスはワンテイクのみ。
梅干しをつけるために、紫蘇の葉を摘み、塩漬けにし、揉んで、その手先から
紫色の汁がポタポタ落ちる……。
どのシーンにも、リアリティがこもり、その中でしか立ち上がらない美しさがありました。

以下ネタバレあります。

そんな中でツトムさんは、心筋梗塞で倒れて3日意識が戻りません。
休止に一生を得て、家にもどったとき、
「どうして、人は死ぬのが怖いのか、僕はそれをひとりで考えたい」と
真知子さんに告げます。

昼間はもちろん、月明かりの中でも、朝の光の中でも、
カサカサと、万年筆を走らせる音が響く……。

そこから畑のシーンに戻ったとき、
畑仕事をしながら、ツトムさんはこう言いました。

「明日も明後日も、と欲張るからわからなくなる。
今日1日だけでいい」

(この通りの言葉じゃなかったかもしれません)

私は、ここにものすご〜く感動してしまいました。
どうして、死ぬのが怖いのか……。
それは、明日も、明後日も、と考えてしまうから。

それを「今日1日だけでいい」と切り替えたとたん、
恐怖は消え去って、「今日1日」が輝きだす……。

今までずっと、私が頑張ってきたのは、未来のためだったのかもしれません。
でも、未来っていつのことなのかな?
どこにあるかわからない未来のために、
仕事を頑張り、イライラし、心配し続けてきたなあと思ったのです。

老後のことを考えれば、いろいろ不安になるけれど、
「今日1日」と思えば、
「さて、今日なにしよう?」と、とたんになんだか楽しみになってきます。

これは大きな発見でした。
「明日もある今日」ではなく、「今日の今日」と考えただけで、
今日は、おやつに冷凍しておいた餡を解凍して、おもちを焼いて
ぜんざいでも作ろうか、
と、「今日」の中に一粒お楽しみの種を見つけたくなります。

映画の最後に甘いジュリーの声で流れる音楽は「いつか君は」という曲です。
ずっと前の曲だけれど、これがす〜っと映画に溶け込みます。

ジュリーファンだけでなく、みなさんにおすすめ。
もしよかったら見に行ってみてください。

そして、見に行かれたらパンフレットを買われることをおすすめします。
土井善晴さんのインタビューあり、平松洋子さんや稲垣えみ子さんも寄稿されていて、
映画内の料理の解説もあり、読み応えたっぷり。
特に「ドキュメンタリー 土を喰らう時間」という
監督自らが書かれた映画の舞台裏がすっごく面白いです。

 

私は、久しぶりに水上勉さんの小説を、もう一度読んでみようかなあと思っています。

寒さ厳しい毎日。
みなさま、お気をつけてお過ごしください。
今日もいい1日を!

 

 


一田憲子ブログ「日々のこと」一覧へ