「僕は月を見上げて心動かされる。それは、僕が弱いからである」by 森田真生さん

朝起きて、ウォーキングに出るとき、
玄関を出るとまず、お月様と顔を合わせます。
き〜んと冷えた空気の中に浮かぶお月様は本当にきれい。
まずは、西向きに歩き始めるので、しばらくはこの風景を眺めつつ歩きます。

いつもの道で出会うのは、明らかに若い頃運動していたんだろうな、
と思う背の高いおじさん。
ゆっくりなんだけれど、確かなリズムを刻んで走っていて、
その美しさに、毎日惚れ惚れします。
私は、勝手に「吉祥寺の村上春樹さん」と名付けております(笑)

もう少し歩くと、今度は老夫婦が首から小さなライトを下げて散歩されています。
まるで胸に星を下げているかのようで、「星のご夫婦」と名付けました。

帰りは東向きになるので、
今の時期、東の空に、大きく輝く明けの明星=金星を見ることができます。
金星は1月下旬からどんどん輝きを増すのだとか。
そして、家に近づくと、空が少しずつ明けてきます。
赤くなる前の、なんともいえない青に変わっていく空が大好きです。
そんな空を背景に、葉っぱを落とした木々が影絵のようです。

こんな天体ショーを毎日眺められるって幸せだなあ〜と思います。
何か心配事や、気になることがあると、
たちまち、この美しさを感じられなくなってしまうので……。

手元に確かにあるのに、
自分次第で、見えない見えなかったりするものがあるんですね〜。

そんな中、数学者の森田真生さんの「僕たちはどう生きるか」を読みました。
森田さんといえば、「数学する身体」で小林秀雄賞を受賞した方。
以前この「日々のこと」でも感想を綴ったことがあります。

今回のこの本は、以前とはまったく違う内容で、その変化にびっくりするとともに
大きく感動したのでした。

「僕の一日は、家にいる生き物たちの世話から始まる」
という一文で、この本は始まります。

以前は講演などで世界中を飛び回っていた森田さんが、
コロナ禍で動けなくなった……。
そこで、森田さんは、息子さんたちと川でとってきたエビやおたまじゃくしやサワガニを育て
庭に菜園を作り、生ゴミをコンポストにいれ……。

そうやって、世界を小さくすることで、
見えてきたものがたくさんあったそう。

そんな一日あったことを日記の形で綴りながら
そこはさすが森田さん。
豊富な知識で、数々のプロフェッショナルの言葉を紹介しながら、
森田さんの日常に起こったことを分析されています。

「すべてのものは、自分でないものに支えられている。
だから、自力だけで立てるものなどない。この意味で、人に限らず、ものはみな弱い。
弱さは、存在の欠陥ではなく、存在とはそもそも弱いものなのだ。
僕は月を見上げて心動かされる。それは、僕が弱いからである。
僕は、花を見て嬉しくなり、幼子の笑顔を見て思わず微笑んでしまう。
僕は僕だけで立てないからこそ、僕でないものと響き合うことができる」

 

この文章を読んだとき、本当に感動しました。
私が早朝の天体ショーに心震わすのは、
私の手には届かない大いなる力を感じているのでしょうね……。

人は弱くていい……。
そう言ってもらっている気持ちになりました。

そして、こうも綴られています。

「現実に打ちのめされるだけでなく、
不気味な現実と向き合い続ける日々を、
いままでの固着した思考パターンを解きほぐしていく好機ととらえる」。

「学びとは、単に情報の伝達と吸収ではない。
それは、未知なる他者に触れ、不可解なものと付き合う時間のなかで、
自己を書き換えていく活動である」

 

怖いもの、困ったこと、わからないもの……。
そんな状況に打ちひしがれるのではなく、
「今までの思考パターンを解きほぐし」
「自己を書き換えていく」好機ととらえる……。

なるほど〜と思いました。

この本は、日記という形で、
森田さんが日々起こることの中で、
どう感じ、どう思考を深めていかれたのか、
そのプロセスを読むことができるのが、いちばんの魅力かなと思います。

そして読みながら、
自分の日常と照らし合わせ、
すぐそこにある庭の土や、そこに咲く花や、そこで生きている虫を
見つめてみよう……と
「私でもできそうなこと」を見つけられ、
なんだか心にポッと灯が灯る気がします。

また、どんどん不安な状況になっている今、
おすすめの1冊です。

きっと、見上げる月や、足もとの土が、違って見えてきますよ!

みなさま、今日もいい1日を!


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