本当に欲しいものってなんだろう?

寒い日が続いています。
東京は小雨……。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

2014年に出版された「あしたから出版社」(晶文社)という本を読みました。
著者の島田潤一郎さんは、たったひとりで「夏葉社」という出版社を立ち上げた方です。

ちっとも存じ上げなくて、今回初めて知り、
しかも、同じ吉祥寺にこの小さな出版社があるそうで、
なんだか嬉しくなりました。

31歳まで無職で、
時々、就職したり契約社員として働いていたものの、
どれも長続きしなかったという島田さんが、
従兄のお兄さんが亡くなったのを機に
叔父さんと叔母さんのために、何ができるかを考えた…….
そうして出した答えが、一編の詩を本にすることだった……。

「死はなんでもないものです
私はただ
となりの部屋にそっと移っただけ
私は今でも私のまま
あなたは今でもあなたのまま……」

 

出版のことも、編集のことも、本の流通のこともなんにも知らなかった
島田さんが、体当たりでひとつずつ問題をクリアし、
出版社を立ち上げていく様子が綴られていて、
私は、もう夢中になって読んだのでした。

そこにあったのは「いい本を作りたい」という
極めて純粋な思いだけ……。

でも、出版の端っこで仕事をさせてもらっている私は、
それをすっかり忘れていたのかも……と肩を揺すぶられたような気がしました。

島田さんは、その思いだけで、
あの詩の作者、イギリス人のヘンリ・スコット・ホランドを探すことから始め
なんと、イギリス版Yahoo知恵袋のような質問サイトに
「誰か教えてくれませんか?」と投稿し……。

1冊の本を作っていく過程と、
島田さんの過去から今への歩みが、折り重なって展開される1冊は
「大事なことってなんだったっけ?」という
土台をもう一度思い出させてくれました。

 

四苦八苦して作られた島田さんの会社の紹介文はこんな感じ。

「夏葉社は1万人、10万人の読者のためにではなく、
具体的なひとりの読者のために、本を作っていきたいと考えています。
マーケティングとかではなく、まだ見ぬ読者とかでもなく、
いま生活をしている、都市の、海辺の、山間の、
ひとりの読者が何度も読み返してくれるような本を作り続けていくことが、小社の目的です。
どうぞ、末永いおつきあいのほど、よろしくお願いいたします」

 

そして、私がいちばんぐっときた文章はここでした。

「ぼくは思う。
好きな作家がいて、ほしい本があって、それをいつか手に入れたいと願う。
こうしたことが、かけがえのない、幸せなのだ。
手に入るか入らないか、その尺度になるのではなくて、
ほしいものがある、好きな人がいるということが、
すなわち、生きることなのではないか、とすら思う」

 

純粋に好きなものがある、欲しいものがある、会いたい人がいる、って
素晴らしいことなんだ。
それを忘れていたなあと思います。

これは価値がありそうだから、これは売れそうだから。
本当の「望み」の周りにあることばかりに
私は振り回されているのかもしれないなあって……。

そうしたら、たまたま糸井重里さんのこんな文章に出会いました。

「『求められる』よろこびはもちろんあるわけだが、
それは『求める』と表裏のひとつのものだ。
限りなく『与える』ことが美徳のように語られるが、
そこに同時に『求める』ものがなかったら、
ほんとうは反則なのかもしれないと思うのだ」

 

 

私は、いったい心のそこから何を「求めて」いるのかな?
ともう一度点検してみたくなりました。

 

 

みなさんが、今いちばん欲しいものはなんですか?

 

 

今日もいい1日を!


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