私は三日坊主で、飽きっぽくて、ひとつのことが長続きしない性分です。
なにか事を起こしたら、すぐに結果が出ないとイヤ!
若い頃、ずいぶんこの性格で悩みました。
「いちださんって、すぐ飽きるからさ」と言われたこともありました。
どうして、根気がないのだろう?
どうして、じっくりゆっくり温めて成熟させられないのだろう?
でも、どう努力してみても、性格を変えるということは無理でした。
その後、とある人に言われて救われた思いがしたのを覚えています。
「飽きたっていいじゃん。
編集者って、飽きるから新しいことが見つけられるんじゃない?」
この言葉で、私は
「そうか、『欠点』って裏側から見れば『長所』になることもあるんだ」
と知り、ちょっとほっとしたのでした。
彼女には本当に感謝しています。
そして今、この年齢になってわかります。
人には努力で変えられることと、変えられないことがある……。
さてさて!
そんな飽きっぽい私が、奇跡的に飽きずに長く心に温める……ってことがたま〜にあります。
正確にいえば、ずっと忘れていたんだけど、
ふと、心にひっかかっていたあのことを、ずいぶん後になってぽっかりと思い出すってこと。
上の写真は、2011年のギャラリー「みずのそら」さんのDMです。
イラストレーター波多野光さんの絵です。
この絵を、私はずっと以前に「men’s LEE」という「LEE」のメンズ版を作っていた時期に取材に行った
スタンダードトレイドの渡邊謙一郎さんのお宅で初めて見たのでした。
渡邊さんといえば、「暮らしのおへそ」第1号で取材をさせていただいてからの縁。
横浜の素晴らしくかっこいいご自宅のリビングのサイドボードの上に
伸びやかな植物の葉っぱの絵が飾られていて、
「どなたが描かれたのですか?」と聞いたら波多野光さんだと教えていただいたのでした。
そのすぐ後ギャラリー「みずのそら」に行ったら、たまたま波多野さんのDMを見つけてびっくり!
残念ながら個展が終わったばかりでした。
私はいつかこの方の絵が欲しいなあと思い、
書斎の壁に鴨居に貼り付けておいたのでした。
そして………。
年月は流れ、鴨居のDMのことなんてすっかり忘れていた頃、
今年になって「DEES HALL」で波多野さんの個展があると知ったのです!
これは、なんとしても行かねば!
最終日、ギリギリ滑り込みセーフ。
そうして1枚の絵を買いました。
他の絵は、ほとんど額装してあったのですが、
私が選んだのは、たまたま額装がなく、
「どうしよう?」と波多野さんにご相談したら、
なんと、額は「スタンダードトレイドの渡邊さんに作ってもらっているんだよ」とのお話!
そして、「今日、搬出に合わせて来るよ。そのまま額装頼んでおこうか?」と言ってくださったのでした。
これは何かの縁!
すぐにお願いすることにしました。
その後、渡邊さんから緻密な設計図を送っていただき、完成したらわざわざ自宅まで届けてくださいました。
こうして、我が家にやってきた額と絵がこちら!!
じゃ〜〜〜ん!!
もう嬉しくて、嬉しくて……。
白と黒だけで描かれた植物の絵は、
確かに植物なんだけど、その生命感を活かしながら
有機的な匂いをちょっと引き算して
モダンなアートになっている……ような気がする。
そこが好きです。
そして実はこの額、すごい技でできているんです。
まずは、壁にこの角材を取り付けます。
そこに、額の裏側の横に渡した板をカパッとひっかけて固定するというわけ。
渡邊さん曰く、これは日本に昔からある技法なのだとか。
このスタイルでかけると、壁にピタッとすいつくように絵が固定されるので、
ひもで吊るすのとは違い、
絵が壁の一部のようになるのです。
プロの技、恐るべし!
こういう見えないところのこだわりこそ、スタンダードトレードがスタンダードトレードである所以!
10年以上前からの渡邊さんとの縁
波多野さんの絵との縁が、まあるくつながって輪が閉じ、
今、我が家の壁を彩ってくれています。
その絵を眺めながら思いました。
こんな飽きっぽくて、忘れっぽい私の心にずっとあったものだかこそ、
本当に好きなものだったんだなあって。
そして、私は人生の後半、
こうやって無理したり、頑張ったりせずに
知らず知らずのうちに心に残るものだけで暮らしていければいい、
と思ったのでした。