夫と言い合いをして、あまりの価値観の違いに愕然とし、
やっぱり「わかり合うのは無理……」とあきらめる……。
だったら、「結婚」ってなんなのだろう?と思う……。
日々はそんな繰り返しのような気がします。
一方で、素晴らしい景色を見たら、夫にも見せてあげたいと思うし、
ふたりで、おいしいものを食べたら「ああ、これがいちばん幸せ」と思ったりします。
夫婦って本当に難しい……。
新しく始めたコンテンツ「夫婦って、なあに?」は
いろいろな方に夫婦の在り方を伺っていく予定です。
第一回は「kuboぱん」という店を今年6月で閉店されたばかりの久保輝美さん。
Vol2では、苦しい専業主婦時代を経て離婚。その後再びご主人と暮らし始めた
日々について伺いました。
夫婦関係がやっといい方向へ向かい始めたかに見えたのに、
もう一歩踏み込もうとした途端、夫の考え方の違いに愕然とし、
久保さんはまた失意の中へと入り込んでしまいます。
「初めて義母から逃れて、やっとふたりで向き合えただけでした。
がっつり向き合ってみたら、夫は何にもわかっていなかった……ということにがっかり。
彼は相変わらず仕事一筋で、周りがまったく見えておらず、相手への思いやりがない。
私はいろんな本を読んだり、人の話を聞いたりして、
どんどん自分が進化していくことを実感していました。
なのに夫は何も気付いていない。以前とまったく変わっていない。
何を言っても響かない。これはダメだと思いました」。
本を読んだり、誰かに会って話を聞いたり。
そこで、常に自分を変化させ、バージョンアップする。
女性はそんな「自分の更新」にとても興味があるものです。
でも……。
男性は意外に融通が効かず怖がり。
一度自分の価値観を打ち立てると、なかなかそれを変えることができないよう。
「ねえねえ、今日こんなことを知ってさ」
と夫に話しても「ふ〜ん」と興味を持ってもらえない……という経験は
誰にでもあるのではないでしょうか?
久保さんは「もうやっていられない」と再び離婚をつきつけたといいますから
驚きです。
私も離婚経験者なので「別れる」という行為が、どれほど
自分を消耗するかがよくわかります。
でも、久保さんは、相手にぶつかり続けるパワーを持った方。
それはつまり、諦めない=愛がある、ということなのだと思います。
すると、今度はご主人が「ちょっと待ってくれ」と言ったそう。
『何ができていないのか、教えてくれ』って言ったんです。
『言われないとわからないから』って」。
こうして、久保さんは改めてご主人に向けて語り始めました。
毎日夜の23時ぐらいから、自分が得たこと、考えたことをコンコンと話し続けたそうです。
それは、「幸せ」って何か、ということだったり、
「生きる」ってどういうことか、ということだったり。
「少しずつ彼が変わってきたんです。
仕事のこと、自分のことだけを考えていたエリート社員だった彼の中に、
『輝美のこと』を考える隙間ができた。
少しずつ、何をすれば私が助かるか、と考えてくれるようになりました。
そして、『自分を変える練習』として、家事全般をすべてやってくれるようになったんです。
朝ごはんを作ったり、トイレ掃除もお風呂掃除も『全部やるから』って」。
なんと!
コンコンと話し続ける久保さんもすごいけれど、
変わろうとするご主人もすごい!
こうして、42歳の時に再婚しました。
この頃、久保さんは新たな場所を借り「kuboぱん」をオープンさせました。
教室をメインに、週に2〜3日だけお店をオープン。それが43歳のときのこと。
夫に何かを求めるだけでなく、自分は自分で行動を起こし、着々とその土台を築く……。
一方ご主人は札幌から岡山勤務を経て、昨年東京へ戻りました。
すると……。「『俺、会社辞めるわ』って言い出したんですよ。
やっと言ったか!って思いました」と笑う久保さん。
会社に対して忠誠心が強かったご主人ですが、
ここ1〜2年の間にいろんなことが起こりました。
体に不調があり、今も半年ごとに検査に通っているそう。
「私はずっと言い続けていたんですよね。
『忠誠心は素晴らしいけれど、あなた今、体にメッセージがきてるよね。
『あなたのワクワクはどこにあるの?』『やりがいはどこにあるの?』
『あなたはどうありたいの?』って、ずっと問いただしてきました』。
今年6月、なんと久保さんは「kuboぱん」をクローズしてしまいました。
「私はパン屋をやりたかったわけじゃないんです」と聞いて、
「え〜!」と思わず声をあげてしまいました。
あんなに自身を支えるものとして、作り上げた場所だったのに……。
「パン教室を開きながら、実際にやっていることといえば、
生徒さんの悩みを聞いたり、私の体験談をお話ししたり。
あ、私がやりたいことってこっちだわ、ってわかったんですよね。
ベーグルは、誰かに何かを伝えるためのツールだったんです」。
これからは、自分が悩んだり、立ち止まったり、落ち込んだりした中から、
やっと抜け出せた経験を、周りにいる人たちに伝える仕事をしていきたいそう。
時間をかけて、少しずつ歩み寄ったご夫婦が、最終的に選んだのは、
すべてをリセットし「ゼロ」地点に立ち戻る、ということでした。
自分が何者なのか、何を望んでいるのか、そしてどこへ行きたいのか……。
久保さんは、常にそれを考え続けられてきました。
そして、同時進行で夫婦の在り方も壊しては積み上げ、また壊して……
と、自分が自分でいられる「夫婦関係」をコツコツと探し続けてきた……。
そして、今は「ふたりの意見がぴたりと重なるようになったんです」と語ります。
そっか。夫婦で生きるって、自分で生きるってこととイコールなんだ……。
久保さんのお話を聞きながら、そう感じました。
次はいよいよ最終回。久保さんの「これから」について伺います。
撮影/近藤沙菜