多すぎず、少なすぎず、人生のバランスをとるということ。パーマネントエイジ 林行雄さん、多佳子さん vol,5

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兵庫県西宮市で、セレクトショップ「パーマネントエイジ」を営む
林行雄さんと多佳子さんにビジネスのお話を伺っています。

 

vol4では、伝説のお店「イショナル」を立ち上げたあと
会社を去るまでのお話を伺いました。

2000年9月にオープンした「パーマネントエイジ」は、
すぐに注目を浴び、多くのお客様が集う店になりました。

行雄さん:
「オープンした翌日から想像以上に売れたんです。
ものすごかったですね。
それは、やっぱり『イショナル』を含めて、これまでやってきたことが大きな財産になっていたから。
単に、『たまたま服が好きでオープンした』というお店ではなかったんです。
今以上の売り上げでしたねえ。
興味本位も含めて、あちこちから人が見にきてくれて、それが話題にもなって。
商品が全然足りなくなるぐらいでした。
店を始めるにあたって、国民金融公庫から借りたお金も、その年で全部返しました」

当初は、セレクトした商品のみで、オリジナルはなかったそうです。

行雄さん:
「オリジナルをやるつもりはなかったんです。
でも、私たちが欲しいような、
いたって普通の丸首のTシャツが、どこへ行ってもないんですよね。
だったら作るしかない、と作り始めました。
その代わり、一年で売り切らなくちゃいけないような、流行りにのったものは作らない。
だからセールもしない。
そういう形で作ろうと思ったんです」

 

 

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オリジナルを作った方が儲かるのではないんですか?
と聞いてみると……。

多佳子さん:
「そうとも限らないんです。仕入れでも、儲かるものは儲かりますから」

どこかから仕入れると、売値と仕入れ値の差額が利益になるだけだけれど、
自分の会社でオリジナルを作れば、原価率を調整して、利益が出せるのではないのでしょうか?

 

行雄さん:
「数字で見るとそうなんですが、
結局は、仕入れようが、作ろうが、売れなかったら意味がないんです。
お客様に買ってもらわなければお金に変わらない……。
ちゃんとお客様のニーズを見極めて、
それに見合うものを仕入れて買っていただければ、それで利益が出るんです」

どちらも同じように売れたとしたら、オリジナルの方が利益率は高いですか?
とさらに聞いてみました。

行雄さん:
「それは高いです。
ただし、仕入れの場合は、極端に言えば1枚から仕入れることができる。
ところがオリジナルの場合は、一枚というわけにはいきません。
そうすると、売れても必ず在庫が出るんです。
だから、売れるものを、どれだけリピートできるかが大事。
つまり、『売れるもの』で利益を稼ぐんです。

さらに、大事なのが、売れないものを「処分する」ということ。
実はこれが難しい。
売れるものでしっかりと利益を得ていれば、
処分することもラクになります。

アパレルで難しいのは
利益があるときに、売れないと思われるものを処分することなんです。
早めに見切って、常に在庫状況をきれいにしておくということです。
本当は処分なんてしたくない。一番残酷なことです。
でも、処分しても利益が出ている、という状態を作れば
新しいことができるんです。
よくないのは、『処分したい』「でも利益も出ていない』『だから在庫をなんとか売って利益を出す』
という形。
そうすると、在庫利益は出ても現金がありません。
つまり資力がない。
「在庫をなんとか換金したい」。「売れないと赤字になる」という状態だと
在庫をさばくに捌けない。処分することができない……。これが末期症状です」

多佳子さん:
「決算書を見たらすぐにわかりますね。在庫が利益みたいなところは、やっぱりダメですね」

 

なるほど、「在庫」を常にチェックして処分する……。
そして、手元には「売れるもの」だけを残す。
そんな循環が、ビジネスには必要なのだと初めて知りました。

 

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「パーマネントエイジ」をオープンしてからは、「身の丈」にあっていたこともあり、
仕事がとても楽しくなったそうです。

行雄さん:
「そのときに、しっかりと自分たちで決めていたのは、
もう多店舗展開はしない、ということ。
この店だけをしっかりと続けていけばいい、と思っていました」

多佳子さん:
「お客様も、打ったら響く方が多かったので、すごく幸せでしたね。
自分たちが選んできたものを面白いと言ってもらえたし、
そこはすごく励みになりました」

オリジナルの商品を作り始めたのは2年目から。
最初に作ったのはバッグでした。
洋服ではまずはTシャツを。

行雄さん:
「ずっと売っていくものだったら、自分たちで作ってもいいと考えたんです。
飛ぶように売れる、という感じではなかったですが、
セールもしないし、
当時は卸もしていませんでした。
でも、みんながどこからか『オリジナルも作ってるじゃん』と知って、
少しずつ卸し始めました」

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パーマネントエイジでは、
半袖Tシャツ1枚が、4900円です。
そのほか、パンツやセーターも、驚くほどリーズナブル。

お二人とも、いいものを散々見て、着てきたのに、
失礼ながら、もっと高価な商品を作ってもいいのでは?と思えてきます。

行雄さん:
「うちのオリジナル商品は、原価率が高いんです。
価格が抑えめなのは、僕らが考える、『買える価格帯』はこれぐらい、ということです。
そこはすごく考えますね」

多佳子さん:
「私も、スタッフも、もうちょっと高く売りましょうよって言うんですよ(笑)」

 

原価率が高くても、値段を抑えた方がたくさん売れる、ということなのでしょうか?

行雄さん:
「僕が買ってもらえると思う値段なんです。
何が基準なのかといえば『自分だったら買える』か、『自分として自信を持って販売できる』かどうかです」

 

ご自身はもっと高いブランドの洋服も買われますよね?
とちょっと意地悪な質問をしてみました。

行雄さん:
「ハイブランドの商品が高いと言うのは、
ブラインドのネームバリューとか信用をもっての値段だからです。
でも、ちょっとだけ生意気を言わせてもらえば、
素材ということだけで見たら、ブランドを外せば同じものもある。
それぐらいは見抜けるぞ、と思う。
見抜くというトレーニングというか、皮膚感覚があるので、
納得価格が見えてくるんだと思います。
素材そのものの価格として、あれこれのっけないで売りたいということです」

多佳子さん:
「ここで20年近くお店をやっていますが、
ずっときてくれているリピーターの人たちは、
すごくお買い得なんだってことが、わかってもらえているんじゃないかと思います。
『安物だね』って言われるのはイヤですが、『安いな』と言って買ってもらえるように。
そういうところは徹底していますね。
ただ、私は、林さんの設定価格にはいつも『あと1000円あげてほしい〜』って正直思いますけど(笑)」

 

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行雄さん:
「僕が一つだけ自慢できるのは、
20年近くやってきて、このお店以外に在庫がないということなんです。
これは当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、
すごいことをやっていると思っています。
つまり、ゴミがないんです。
綺麗に掃除をしてきているから。
小さな会社ですが、こんないい会社はないと思います。
利益がしっかり出ている時に、処分をするということを
みんなに知ってもらいたいです。
特に服が好きな人は、もう見切るとか、処分するとか、胸が痛いですよね。
でも、それをできるだけ早くお金に換えないと大変なことになる」

 

最後に、これから自分がやりたいことを始めたいという若い人に
ビジネスの面で何かアドバイスをするとしたら、どんなことでしょう?と聞いてみました。

行雄さん:
とにかく資金が大事です。
お金に困ったら、親父に助けてもらえって言いたいですね(笑)

”親父”がお金を持っていない人はどうしたらいいのでしょう?

 

行雄さん:
「自分で貯めるとしたらすごく時間がかかりますよね。
そのお金ってものすごく大事でしょう?
だからまず、それやるのをやめたら?って言いますね(笑)。
始めちゃったら、現金がどんどんなくなる。
その覚悟をしろよ、ってことです。

成功する人は何が違うかと言ったら、
やっぱりチャンスを掴めるかどうかです。
これがチャンスだ、と見抜くトレーニングをしておかないといけない。
『これだ!』というところでパッと動けないとダメです。
そのためにも毎日のトレーニングが大事。
自分が好きなことや、やりたいことを常に自分の中で確認する、ということかな」

 

林さんのビジネスのお話は、
想像以上に堅実でした。
一段階段を登るたびに、リュックの中を点検し、整理して、不要なものを手放す。
そして、身軽になってまたもう一段階段を登る。
大事なのは、上へ上へと登ることでなく、
常に自分の「今」を把握し、
身の丈の歩み方をすること……。

そして、行雄さんも多佳子さんも、
「今」を楽しむ達人でした。
いつもお話を伺うと、仕事以外にも旅に出かけたり、
ライブや落語に足を運んだり。
そして、いつ会ってもワクワクと楽しそう。

そんな幸せを生み出しているのが、
「欲張らない」という身の丈のビジネスだったよう。

よりたくさん、より大きく、だけがハッピーになる方法じゃない。
行雄さんと多佳子さんが教えてくれたのは、
人生のバランスをとるということでした。
多すぎず、少なすぎず、
自分の適量の荷物を持ったとき、
人は、豊かな毎日を歩き出せるのかもしれません。

 

撮影/藤岡寿美


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