エヌ・ワンハンドレッド 大井幸衣さん No4

 

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「100年たってもずっと好きなものを」
とカシミヤを中心としたブランド「エヌ・ワンハンドレッド」を
立ち上げた大井幸衣さんに
ビジネスとお金にまつわるお話を伺っています。

 

40歳のときに、「マーガレットハウエル」をやめた大井さん。
その後10年間は、大好きな「ジョンスメドレー」や「ジョンストンズ」
のお手伝いをしたり、
「サザビー」の新ブランドの立ち上げに関わったり。

「不思議なんですが、会社を辞めても大丈夫、という根拠のない自信がありましたね。
ありがたいことに、いろんなところからオファーをいただいたんです」

 

実はこの1年前。39歳から大井さんは「生まれて初めて」という貯金を始めたそうです。

「年間200万円貯めようと、毎月17万円の天引き貯金を始めました。
でも、これだけの金額を引いても、なんら以前と生活は変わらなかった。
けちってないし、タクシーもバンバン乗ってたし……。
そして、これまた生まれて初めて家計簿をつけてみて、
実際自分がどこで何にお金を使っているのか
40歳にして初めて学習したんです。

そして、使えるお金が少なくなって、生活をひとまわり小さくしても
自分の暮らしを十分楽しめる、ということがわかりました。

以前は見栄も張っていたし
洋服もどんどん買っていた。

でも、年をとれば、結婚式などの出費もほとんどないし
自分でご飯を作れば、
いい素材を使っておいしいものを食べられます。
結局2年間で500万近く貯まったかなあ。

フリーランスって、やっぱり不安定。
そしてなにが怖いかって、病気になって働けなくなることですよね。
でも、2年間働かなくても暮らしていけるお金を貯めれば
安心だなと考えたんです」

 

なんとなんと!耳が痛いお話!
今でも大井さんは若い人たちに
「貯金はちゃんとしておいたほうがいいよ」とアドバイスするそうです。
自分を自由にする方法……。
そのひとつが「貯金」なのだと教えていただきました。

 

そうこうしているうちに、「エヌ・ワンハンドレッド」の前身「n (エヌ)」につながる仕事が舞い込みます。
オンワード樫山からマーガレットハウエルへと、
長年に渡ってお世話になっていた
長野の工場さんからの、ニットの日(2月10日)のイベントを
手伝ってくれないかという依頼でした。

その後、大井さんからファクトリーブランド設立を提案
それが「n」の始まりでした。

展示会を開いたら、友達やプレスの方などが250人も来てくれたそうです。
でも、結局ワンシーズンで終わり、
じゃあ、今度は自分たちでやろうと、『エヌ・ワンハンドレッド」を
立ち上げました。

この時大井さんは
どうしてこのブランドを作るのか、なんのために作るのか
ということを書き出して、とことん考えたそう。

「絶対に失敗しない。絶対に利益が出る

というやり方を考えました。

それが完全に受注生産するってこと。
オーダーをいただいて、
それを作って納めれば、利益しか残りません。
すごく大きな利益は出ないかもしれないけれど、
その代わり在庫はないから、リスクゼロです。

ずっとアパレルの世界で仕事をしてきたからこそ
アパレルが決してやっちゃいけないことを、
やらないようにすればいい、と考えた結果です。

だから、セールもしないと決めました。
だって、次のシーズンも同じものを欲しいと思ったら、また作るし
それをシーズンが終わるごとに値引きをしていたら、
誰もプロパーで買ってくれなくなるでしょう?
その結果、価格競争という枠からも外れることができたんです」

 

「エヌ・ワンハンドレッド」のコンセプトは
100年たっても欲しいものを作る。

「それはね、『マーガレットハウエル』のときに
岡戸絹枝さん(「オリーブ」「クウネル」の編集長を経て、今は『つるとはな』を手がける)
が展示会に来てくれて、毎年同じ形のワンピースを注文してくれたんですよ。
私はそれを「岡戸さんの100年ドレス」って呼んでいたんです。
それが頭にあったから、じゃあ、100ってつけようって思って」。

そしてこう語ります。

「これで売れるな、と思いました。
だって、『エヌ・ワンハンドレッド』っていう名前に
コンセプトが全部わかりやすく入っているし……。
これ、売れちゃうよ!
ってほんとに思っていましたね。

必要としてくれる人が5人いれば、量産できると思いました。
私と、橋本と、橋本の双子の妹たまちゃんと、私の弟の嫁と……。
そして、私たちは、工場さんにそんなに負担をかけずに作る方法知っている。
たとえば、丸首のセーターは2サイズ作りました。
私は橋本のサイズは着れないし、橋本は私のサイズは着られない。
じゃあ、真ん中のサイズと取ろう、とやりがちだけど
そうしたら、どっちも着ない服になる。
だから小さいロットのくせして、
34と36の2サイズを作ったんです。
襟ぐりだけ一緒にすれば、着丈とか身幅だけ変えるのは
そんなに大変じゃない、とわかっていましたから」

 

 

私が大井さんから学んだのは
「次の一歩のためのヒントは、自分が歩いてきた道に落ちている」
ということ。

私たちは、なにかを始めようとするとき、「新たになにかを学ばなくちゃ」と焦ったり
「まだ何も知らないし」と自信が持てなかったり。
でも、誰もが自分が歩いてきた道で、拾った種を持っている……。

大井さんとお話をすると、ものごとの道理がぐんとシンプルになる気がします。
自分を整理し、考え、まとめれば、きっと次の扉が開く……。

次回は、「エヌ・ワンハンドレッド」のプロモーションについて伺います。

 


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