2016年11月から全12回に渡り、交わしてきた「いちだ&さかねの往復書簡」を卒業してもらうことに
なった坂根美季さん。
前回は、どうしてライターになりたいと思ったのか、
その経緯を伺いました。
そのずっと以前……。
料理教室を営む会社を辞めたものの、社員ではなくフリーランスの枠で働くようになり、
再度「社員にならないか?」と誘われて復職したそう。
「結婚し、子供が生まれて育休に入った時に、
自分から何かを発信したい、って思ったんですよね。
小さな子供がいながらできる仕事ってなんだろう?と考えて、
ベビーマッサージの資格を取りました。
ずっと自分で仕事をしたい、って思っていたのに、
フリーランスになることが怖くて会社が辞められなかったんです。
私、『よし!』と決心したら行動は早いんですけど、
決心するまでは、結構小心者でビビリんぼなんです(笑)
そんなとき、父が病気になって、余命がわずかだと知り
やっとやめる決心がつきました」
その頃からライターになりたいと思っていたものの、
どうしたらいいのか皆目検討がつかず、
まずは自宅で料理教室とベビーマッサージを開始。
「ちょうどその頃ホームページを立ち上げました。
そこで、文章を1日1回書けば、20年ぐらいしたらなんとか形になるかも、と思ったんです。
今の私の中の葛藤を描いておかないとソンだ!と思って(笑)。
娘が1年生の時に、登校が怖くて通学路で泣きじゃくっていて…。
私は毎日一緒に学校まで通学していました。
そして、何日めに行けるようになるか、記録しよう、って思ったんですよね。
泣かずに、私がいなくても登校できるようになったのが64日目でした。
そんなことも書いておかなくちゃ忘れちゃう。
大変なことや、イヤなこともあって、今がある。
人生って、ちょっとずつ何かを克服しながら進んでいるっていうか……。
だから、その記録をとっておきたいと、
毎日朝目が覚めたら布団の中で、スマホで記事をアップするんです。
朝4時ぐらいから、うっすら目覚めて『なに書こうかな〜』と考えて、
降ってくるまでは書きたくないので、とりあえず『おはようございます』とか『寒いですね』とか書く。
そうすると、だんだん思い浮かんできて、それをパパパって書くんです。
寝坊して6時すぎに目覚めて、鬼の形相で必死に書いていることもありますけど(笑)」
それにしても、20年後に形になるかも、なんて、随分ロングスパンの考え方なんだね、と聞いてみました。
すると……。
「20代の頃は、短期スパンでものごとを考えすぎて後悔しているんです。
焦って後先考えずに行動して……。
もう30代だし、もう少し長いスパンで考えられたら視点が変わるかもと思って。
若い頃は、父の畑を見ていても、もっとさっさとやっちゃえばいいのに!
なんて思っていたんです。
淡々と仕事をする父の姿がもどかしくて。
もっとラクしてやればいいのにと思ったり。
でも今はやっと「毎年毎年少しずつ」と思えるようになりました。
父はよく『一番大切なのは土なんだ」と言っていました。
自然農法でやっていたので、どうしたら植物はよく育つのか、ゆっくり時間をかけて研究をしていました。
私はそんな父に反抗していたのに、巡り巡って今、やっぱりそこにたどり着いた気がしています。
20代の頃の自分からは想像もつかないぐらい、
じっくりゆっくりというペースになってきました。
でも、いかに早く、とガツガツしていた自分がいたから今があると思っています」
坂根さんの中に、そんなお父様との思い出が詰まっていたなんて初めて知りました。
きっと、苦い後悔に涙されたことと思います。
でも、そんな痛みがあるからこそ、坂根さんはお父様が残された、「本当に大切なのは土なんだ」
という言葉に含まれる真実を拾い上げることができた…….
これからお父様と共に生きていかれるのだなあと思いました。
人は誰でも見えているのに気づかないふりをしたり、
大切なことの前を通り過ぎてしまったり。
でも、重要なのは、後からそのことに気づいたとき、
どう心を正すか、なのだなあと
今回教えてもらいました。
昔の方が今よりずっと暗かった、と笑う坂根さん。
自分とは何かということをいつも考えて悶々としていたそう。
「歳を重ねるごとに、その苦しさが少しずつなくなってきました。
今、取材でいろんな方に話を聞くと、こういう落ち込みをする時には、
こんな心構えになればいいんだ、と学びます。
取材をさせていただきながら、そんな生き方のエキスを1滴ずつ吸収している感じ。
それは、とても幸せですね。
だから、そんな幸せを『書く』ことで少しでも読んでくださる方におすそ分けしたいんです」
「書く」という仕事は、
そこに、自分が何かを「わかっていく過程」を含めることができるから、
楽しいのだと、私は思います。
そんな楽しさを、坂根さんと共有できたことを、
これからも一緒に何かを発見していけることを
とても幸せだなあと思います。
撮影/前田彩夏