お金を見ないでビジネスする!?  SA-RAH 帽子千秋さん その1

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松山市内から車で1時間ほど。
大洲市は、伊予の小京都と呼ばれる小さな旧城下町です。
市内を緩やかに流れる肱川のほとりに、「SA-RAH(サラ)」はあります。
コットンやリネンなどの天然素材を使ったオリジナルの洋服を販売。
この店を営むのが帽子千秋さんでした。

 

帽子さんとは、兵庫県芦屋市で開いた「おへそ塾」で知り合いました。
その後、facebookで繋がり、
東京をはじめ、日本各地で展示会を開かれたり、
自社のイメージビデオを作り、そこにフラワースタイリストの平井かずみさんや、
「暮らしのおへそ」で取材したアコーデオン奏者の新井武人くんが出演していて、びっくりしたり。
地方発のファクトリーショップとして、どんどん活躍の場を広げていらっしゃる様子に、
帽子さんという方は、さぞかし敏腕のビジネスピープルに違いない!と思ったのでした。

そこで、早速取材のお願いをしてみたら……。
「あのね、私が大切にしているのは、『お金』を見ないことなんですよ」とおっしゃる。
「だから、ビジネスについてなんて語れないかも」。
そう言われれば、逆に益々興味がわき、お話を伺うことになったのでした。

最初にインタビューをお願いしたのは、鎌倉の雑貨店「モルン」で展示会をされるために
上京された時でした。

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まずは、一番気になっていた「お金を見ない」ってどういうこと?と質問してみました。

「私ね、原価率とか損益分岐点とかまったく考えないんです。
それどころか、家賃とかスタッフのお給料とか、どれぐらい経費がかかるかも計算したことが
ありません。
全部の数字がわかったら、押しつぶされてしまうから。
数字を見ながら仕事をするよりも、好きなお洋服を作ってワクワクして生きていけた方がずっといい。
数字を知らないまま、生きていけるかどうか、今実験中なんです」

 

「え〜〜!!ほんと?」
と思わずもう一度尋ねてしまいました。
本当に、経営者が数字を見ないでやっていけるものなのでしょうか?
収支のバランスが取れているかどうか、チェックしないでいいものなんでしょうか?

どうやら、帽子さんはこの「ビジネスピープルから贈り物」でお話を聞いてきた
どのビジネスマンとも違う思考回路を持っているよう。

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大洲生まれの大洲育ち。
短大を卒業してから、9年前まで地元の銀行で働いていたそうです。
「銀行員になって2年ほどして結婚。そこからパートに切り替えました」

実はこの銀行員時代から、帽子さんは「数字を見ない人」だったのだと言います。

「仕事はすっごく面白かったんです。
何をやっても楽しかったなあ。
窓口も、営業も、オペレーションも。
もちろん銀行員ですから、目標とかノルマはありました。
でも、私は全然気にしなくて(笑)
私ね、夢とか目標は、「制限」でしかない、と思っているんです。
そこを見てばかりだと、本当のことがわからなくなる……。

例えば、目の前のおばあちゃんが『500万円定期にしてあげるけんね〜』って
私のところにやってきたとしても、
私はその朝の新聞チラシで、もっといい利率の銀行を知っていたとします。
数字とか目標だけ見ていたら、絶対にこの500万円を自分が受け取るわけですよね?
でも、私は本当のことが言いたいんです。
『ああ、おばあちゃん、今はあっちの方がいいよ。あの銀行の窓口の女の子、
知り合いやけん、連絡しておくからね』って。

その結果、私のその日の売り上げは『ゼロ円で〜す!』ってことになる。
でもね、その代わり、信頼が買えるじゃないですか?
『帽子さんは、本当のことを言ってくれるから』とおばあちゃんが他のお客様を紹介してくれる
かもしれない。
数字しか見ていなかったら、せっかくあっちに赤い実があるのに気づかないんですよね」

 

なるほど〜!
それでも、銀行員時代の帽子さんは、極めて優秀な成績だったのだと言います。

「ただ、今日の売り上げは1000万円でした、って評価されても、
そこに喜びはありませんでした。
それは、今も同じで、
例えば、洋服が1枚売れた、2枚売れた、ということで一喜一憂するというよりも、
今日は、お客様とこんな話やあんな話ができて、すっごい楽しかった。1枚も売れんかったけど……
という方がずっと幸せ。

私ね、一番大事な自分の場所で一喜一憂したいと思うんです」。

 

どうやら、帽子さんが求めているものは、
ビジネスでの成功では全くないよう……。

でも私は、そこにビジネスにおいて、とても大切な何かが潜んでいるのではないか?
という気がしてきました。

今まで私が触れたことのない回路で、
ビジネスを、仕事を、暮らしを、生きることを見つめる
帽子さんのお話を聞くのが、どんどん楽しみになってきたのです。

 

次回は、帽子さんがどうしてお店を作ることになったのか、
「始まり」のお話を伺うことにします。

 

 

撮影/近藤沙菜

取材協力/moln http://cloud-moln.petit.cc

 

 

 


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