「絶対好き」じゃなくて「好きかも」でいい。甲斐みのりさん Vol.1

昨年、「喫茶いちだ」というコンテンツを立ち上げたものの、わずか1回しか掲載できませんでした。
今年は、もう少しこまめに、喫茶を開店したいと思います。

そして、今年初のお客様は、文筆家の甲斐みのりさんです。
(この取材をお願いしたのは、去年の10月でした。事実関係は当時のものとなります)

実は、甲斐さんにお会いする前、私とは違う世界観を持っていらっしゃる方だなあと思っていたのです。
包装紙、パン、お菓子、レトロな建築…。
ちょっとガーリーで可愛いものが好き、という甲斐さん。
対して私は、シンプルでマニッシュなものが好き。
こんなに好みが違うとなると、果たして話が合うだろうか……。

そんな心配をちらりと抱きながらも、
なぜか「甲斐みのりさん」という方が気になって、
2024年の「暮らしのおへそ vol37」で取材をお願いしたのでした。

甲斐さんの仕事場に伺って、お話を聞き始めるや否や、
これは面白い!!とすぐにその内容に夢中になってしまいました。
いやはや、甲斐さんって楽しく、愉快で、しかもなんて示唆深い方なんだろう!
ガーリーなものがお好きだけれど、
その行動力は男前で、話せば話すほど
「え〜〜!」「ほんとに〜〜!」とびっくりすることばかり。
刺激をビンビンと受けて帰ってきたのでした。

できれば、もう少し詳しくお話を伺ってみたい……。
そこで「喫茶いちだ」にお誘いしたというわけです。

どこか修道女のような、真っ白なブラウスを着て、我が家に来てくださった甲斐さん。
手土産に、と持ってきてくださったのは、
なんと、あの「マッターホン」のバームクーヘンでした。
お店に行ってもなかなか買うことができないという幻の品。

さすが甲斐さん!
と大喜びしたワタクシ。
「後で一緒にいただきましょうね〜」と言いながら、
インタビューを始めました。

今回、私が甲斐さんに聞いてみたかったことは2つ。

ひとつは、どうしたら、あんなにも熱心に追いかける「好きなもの」が見つかるのか?
ということ。

もうひとつは、そんな「好き」を、どうやって仕事に結びつけてこられたのか?
その仕事を、どうやって「続ける」ことができているのか?ということ。

まずは近況から伺ってみました。

「もうすぐ本が2冊でるんです。ひとつは『愛しの京都純喫茶』という京都だけの喫茶店の本。
もうひとつは、東京の文学にまつわる『東京文学的喫茶」。
偶然、喫茶の本が2冊続いちゃって……。
明日は、和歌山県の高校に講演に行く予定で、その翌日が母校の大阪芸大に授業に行きます」

すご〜い!
どうやら最近の甲斐さんのお仕事は、文筆だけにとどまらないよう。

「自治体さんのお仕事が多くて。
観光パンフレットとか、学校や図書館での講演やワークショップとか。
あとは、監修ですね。
お菓子やパンにまつわるカプセルトイやミニチュアを作る監修をしたり。
それから、建築ツアーのツアーガイドをやるときもあります。
東京建築祭とか、京都モダン建築祭など。
最近いろいろな建築祭が開催されていて、
そこで食事を兼ねて建築巡りをするツアーガイドをやらせていただいています」。

ひゃ〜、なんて幅広くご活躍なんでしょう!
「今までご自身が拾い上げてポケットに入れてきたものがすべて、お仕事につながっているんですね」
というと
「今、やっとそういうふうに繋がってきました」と甲斐さん。

「建築巡りのツアーガイドって、いろんな専門家もいらっしゃる中、
ちょっと気後れしたりしませんか?」
と少し意地悪な質問をしてみました。

「すごくします」と甲斐さん。
「『お邪魔します』。みたいな感じで行っていますね」。

その上でこんなふうに語ってくださいました。

「建築の世界で、いろんな学問や学会がある中で、
それとはまったく違う視点で、
いたって普通なお散歩視線でガイドさせていただいています。
この建築家さんは、他にこんな建物を手がけていますよ、とか
この建築には泊まることができたり、お土産が買えますよとか、
この手すりが美しい角度で写真を撮れますよとか……。
あまり専門用語を使いすぎず、見どころをお話するんです」

一応その建築について勉強されるのですか?
と聞いてみると……。

「勉強はめちゃくちゃします。
それを、いかに説明や解説通りではなく翻訳できるか、
ということを心がけながら伝えますね。
専門の方は、きっと建築を構造的に見ると思うんですが、
私は階段とか、手すりとかタイルや窓枠を
『なんて愛らしいんだろう』と感じるところから始まって……」

なるほど〜。
甲斐さんは、興味を持ったものに対して正しく解説する、というよりも
ご自身がワクワクしたポイントを伝えていらっしゃるよう。

でも……。
世の中には、ワクワクポイントが自分でわからない人もきっといるはず。
そういう私だって、
いつも「いかにちゃんと仕事をするか」ばかりに気を取られ
いったい自分が何にワクワクするのか、わからなくなってしまったひとりです。

「私は基本的には一目惚れをするというか……。
惚れっぽい、トキメキ体質なんです。
経験が浅いから、とくかくいっぱいものを見てみようと思って。
いっぱい見たら、いっぱいときめかれるでしょう?
よく『ワクワクできないんです』と相談を受けることがありますが、
まずは、そのジャンルにちょっとでも興味があるなら、
いっぱい行ってみることをお勧めします。
それでもワクワクできないなら、それがその人の個性だから、
ワクワクできなくたっていいと思うし」

なるほど!
甲斐さんのお話を聞くうちに、なんとなくわかってきました。
ワクワクするって、筋トレみたいにたくさん行くと深まっていくのかもしれない……。

「そうそう、トキメキ体質になるって、訓練だと思います」と甲斐さん。

今でこそ、こんなに明るい甲斐さんですが、
大学時代、自分がいったい何が好きなのかがわからなくなって、
家に引きこもっていた時代があったのだと言います。

「就職活動を目前にして、これからどう生きていけばいいのか
わからなくなってしまったんです」。

そんな状態から抜け出すために始めたのが、
「好きノート」を作ること。
ノートを1冊用意して、自分が好きなことを書き留めていき、
1冊すべて埋められたら、きっと自分はかわれるんじゃないかと思ったそう。

「神様に祈るような気持ちで、書き始めました。
どうやって自分を変えたらいいかわからなかったから、
じゃあ、自分で勝手におまじないを作っちゃおう。
それが『好きノート」だったんです」。

するとどうでしょう!!
「『好き』っていうスイッチを入れたら、
毎日歩いている道なのに、『なんかこの看板素敵!』とか
『このお店に入ってみたい』とか、どんどん街並みの色彩が鮮やかになって、
見えなかったものが見えてきたんです」。

甲斐さんの「すきノート」の作り方、使い方を甲斐された「『すきノート』のつくりかた」(PHP研究所)

ここで、私は今回いちばん聞いてみたかったことを質問してみました。

自分で本当に好きかどうか、自信が持てないことだってありますよね?
自分が好きなんだって、どうやったらわかるんでしょう?

すると、甲斐さんはニコニコ笑いながら、こう語ってくれたのです。

「あのね、嫌いじゃなければ『好き』に分類するんです」。

え〜〜〜!

「最初は、『好き』の基準を低く、低く、設定しました」。

なるほど……。
どうやら甲斐さんは「好きかも」という小さな光を灯し、エンジンをかけて、
どんどん加速して、疾走しているうちに、
知らない間に「好き」という気持ちが、2倍、3倍に膨らんで、
気がつけばめちゃくちゃ好きになっていた!
というプロセスを、楽しんでこられたよう。

 

そっか「好き」って確信できなくたっていいんだ。
これは、私にとって大きな発見でした。
優等生体質で、どこか完璧主義の私は
「好き」と口に出すためには、「絶対好き!」と自信を持って言えないとダメ、
と思い込んでいたのです。

でも、最初から「好き」の確信なんて、なかなか持つことができません。
だからこそ、私「好き」なものなんて見つけられない……。
私の「好き」って、なんて少ないんだろう……。
と、自分の堅物さにコンプレックスを感じていたのでした。

もっといい加減でいい。
もっとゆる〜くていい。
「好き」の始まりのハードルを下げることで、
世の中が、次第にキラキラしてくるなら、
「好きかも」をたくさん集めてみよう!
そう思えるようになりました。

「好きかも、でいいんです」
この甲斐さんの魔法の言葉で、私の「好きワールド」の扉が開いた気がします。

 

次回は、そんな「好き」をどう結びつけてこられたかについて伺います。
お楽しみに〜。

撮影/黒川ひろみ

 

 

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