秋がはじまったというのに、なかなか自分が「まとまり」ません。
春はソワソワ居心地悪く、夏は暑さでへばり思考は散漫に。秋になるとほっとして自分らしさを取り戻し、冬は100%の自分で過ごす。私の四季は、例年こんな感じなのですが。

神保町に行くときはなるべく寄るようにしている東京のこんぴらさん。

おみくじをひいてみたら吉でした。
8月・9月をほとんど体調不良の状態で過ごし、それが尾を引いているのでしょうか。本だけは欠かさず読んでいますが、目はページを追っていても心は上の空。なかなか深い思考に潜れず悶々とする日々です。
そして、どんなときでも本で解決しようとするのが「本の虫」。
頭と心と身体がばらばらで、思考がとっちらかってしまっているとき、どんな本が効くだろうか……。そんな風に考えを巡らせていた夜、ポストにこの本が届きました。
『飼い犬に手を嚙まれる』(彬子女王著、ほしよりこ絵/PHP)
必要なときに必要な本が差し出される。私が本の神様に愛されていると思うのはこんな瞬間です。実際は、のべつまくなし本を買っているので(注文しているので)、普通の人より奇跡の打率が高いだけの話。彬子女王の新刊も、いつかどこかで予約注文をしておいたのでしょう。グッジョブ、過去の私。
昨年文庫版が発売された大ヒットとなった、『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(彬子女王/PHP文庫)。話題になっていることを知って手に取り、なんて端正でユーモアあふれる素敵なエッセイなんだろうと感動しました。こんな女性が、いえ書き手がいたなんてと鉱脈を発掘したような胸の高鳴り。早速他の著作も読み、ウェブの連載も追いかけておりました。
彬子女王は1981年生まれの43歳。三笠宮家ご当主で、天皇陛下のまたいとこにあたります。学習院大学在学中と卒業後に、イギリスのオックスフォード大学に留学されて、女性皇族として初めて博士号を取得されました。今は京都に住まわれ、京都産業大学日本文化研究所特別教授をつとめる他、一般社団法人心游舎総裁として、子どもたちに日本文化を伝える活動をされています。

幸せ三冊セット。
オックスフォード大学での留学生活(想像以上に“ガチ”な博士号取得に向けた修行の日々)を綴った『赤と青のガウン オックスフォード留学記』、留学から戻った後日本各地を巡って出会った「日本の美」を一つ一つ丹念に書き留めた『日本美のこころ』。
そして最新刊である『飼い犬に腹を噛まれる』は、京都に暮らす彬子女王の日常風景を中心に描いたエッセイ。
「ぼん」と「ぼんぼん」の違いを京都のぼんに追求する彬子女王、豆大福を買いに行ってお財布を忘れる彬子女王、甲子園が好きすぎて年に2回ポンコツになる彬子女王……。ほしよりこさんの優しいイラストと共に、彬子女王の自然体な姿がいきいきと伝わってきます。
帯には、「くすっと笑えて、ほんわかする47のエッセイ&挿絵」とあります。それは確かに間違いなく、疲れた顔をした友人がいたら、そっとバッグに差し込んであげたいような一冊。でも、私がこの本を読んで一番強く印象に残ったのは、彬子女王の「集中力」。
ただ、昔からテストに出ないとわかっていても、気になることは調べてしまう子どもだった。――『飼い犬に腹を噛まれる』より
前作2冊でもいかんなく発揮されていましたが、彬子女王の「知りたい」「調べたい」に対する集中力は筋金入り。本書の中にも、四季それぞれにいただくお菓子のこと、心游舎の活動で出会った米作りの話、地方に根付いた言葉の由来についてなど、好奇心の赴くままに楽しそうに探究される彬子女王の姿が各章ごとの登場します。
また、「教養のある人の知的エッセイ」に漂いがちなそこはかとなく高飛車な香りは微塵もなく、あくまでゆったりとチャーミング。巻末の対談コーナーでほしよりこさんが描く、京都の職場での彬子女王のお仕事ファッション(ブラウス×パンツ×下駄!)にもトキメキが止まりませんでした。
皇族の方の人生など、私には想像もつきません。しかし、丹念に磨かれ、整えられた文章から、彬子女王がご自身の置かれた環境と選択肢を、静かな情熱と集中力でもって、ひとつひとつ自分のものにしていかれたということはよく分かりました。
でも、人生つまらないよりは、絶対楽しい方がいい。私は日常の中で、楽しいこと、おもしろいこと、嬉しいことを探して歩いているのかもしれないと、友人に言われて初めて気付いたのだった。――『飼い犬に腹を噛まれる』より
私ももっと、今自分が目を向けていることに集中しないと。もともと「選択と集中」をモットーに生きてきたはずなのに、最近はなんだか欲張りになり過ぎてしまって、すべてが散漫になっていた気がします。
私にとってのゴールデンシーズンを前に、彬子女王を心に宿せたのは僥倖の極み。「集中しなさい」と自分に言い聞かせながら、コツコツと進んでいこうと思います。

久しぶりに美術館にきました。戦後80周年を記念する企画展「記録をひらく 記憶をつむぐ」に会期ぎりぎりにすべりこみ。企画された方の研ぎ澄まされた知性と闘志を感じ、見終わった後はしばしぼーっとしてしまいました。