【カナのお暇】episode_3 カナ、ステイホーム?

皆さま、こんにちは。
ライター塾6期生の川阪果奈です。

この連載『カナのお暇』では、私の退職話を漫画『凪のお暇』に重ねながら、人生リセットストーリーとして綴っています。

さて、私がハマっていたドラマ『波うららかに、めおと日和』は最終回を迎えました。
海軍の真っ白な軍服を着て帰還した夫・瀧昌さまの「ただいま」に、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の稔さん、『あんぱん』の千尋を重ねて、大満足、大感動でした。

そんなドラマ大好きっ子である私が、今から数年前、ドラマの撮影現場に遭遇したことがきっかけで、退職を決意し、退職間際に第2子を妊娠したという前回「episode_2 カナ、大損をする?」からの続きです。

よろしければお付き合いください♪

 

蓮の花

不遇の時代を乗り越えて美しく咲き誇る目黒蓮くんの姿と蓮の花が重なり、すべての蓮を「目黒蓮」と呼んでいます。

 

隙間を埋める、不安

3月末で退職し、4月、最初の緊急事態宣言とともに、カナのお暇が始まりました。

漫画『凪のお暇』の凪ちゃんは、仕事も自宅も家財道具一式も彼氏も捨てて、都心から郊外のアパートへ引っ越し、心機一転の「しばし、お暇いただきます」でしたが、私の場合は、あれ?私だけでなく、全世界がステイホーム?

「家にいる時間がほしい」と思って退職したのに「ステイホーム」って何?!
これは、会社をやめなくてもステイホームできた可能性が高い。高すぎる。
しかも、絶対に無理だと思っていた在宅勤務もできるようになった?
私が欲しかったものは会社をやめなくても手に入ったのかもしれなかったってこと?!

我ながら・・・残念すぎる。

 

花まつりのゾウさん

2020年春。花まつりの白象さんもステイホーム?

 

得体の知れないコロナ禍の上、無職の無収入になり、さらに妊婦・・・。
退職によって空いたスペースは瞬く間に「不安」で埋め尽くされました。

しかし私は、在職中もずっと不安でした。やめても不安、やめなくても不安。田村でも金、谷でも金。
どのみち不安なんだったら、会社やめてもやめなくても同じじゃん!

とはいえ、もうやめてしまったのだから仕方ない。

この時の私の気持ちは、大きな船から一人で降りて、小さな小舟に乗り換えたような気分でした。
私が乗っていた船は、大きな船に比べたら小さい船でしたが、降りてみるとなんと立派な船だったか。
うっかり泥舟に乗ってしまった!と思ったこともあったけど、15年も乗らせてもらえた。
なんとありがたいことだったかと思います。

小さな小舟で大海に乗り出し、日に日に、あの大きな船から遠ざかっていく・・・。
会社をやめるってこういうことかと思いました。

 

1人で小舟を漕いでいるイメージは、中学生の頃に聴いていたPUFFYの『愛のしるし』によるものかもしれません。

少し強くなるために 壊れたボートで一人 漕いでいく

ドンドン!ドンドン!と威勢の良い太鼓の音がする、行進曲のようなメロディーのこの歌を思い出すと、背筋は伸び、視線は真っすぐに前を向き、腕を振って足を上げてワン・ツー、ワン・ツー?ズンズン進んでいけるような気持ちになります。

 

望んでいたのに何かスースーする中、これまで「時間がなくてできない」と思っていたことを一つずつ始めました。

ステイホーム、望むところじゃ!
kindleで本を読んだり、Amazonプライムで映画やドラマを観たり・・・。

たいして真面目な性格でもないくせに、こういう娯楽的なことをするのも罪悪感があり、なかなか自分に許可ができません。
「やりたいこと」ではなく「やらなきゃいけないこと」を探してしまう。
次の仕事のことを考えたり、〇〇の勉強をした方がいいかな、〇〇の資格があったらいいかな、とか。
そんな真面目な性格だったか?
15年培ったものを手放したいのか手放したくないのか?よくわかりません。

凪ちゃんも、それまで「読む」ものだった空気を吸って、「空気、おいしー」と言いながらも、平日の昼間に外に出ると「社会から断絶された感」を感じて、路地裏に入って迷子になっていました。
「この生活 楽しんでやる とか言ったくせに、根っこは結局変われないの?」と。

 

マスクをする娘

長い長いマスク生活のはじまり…

 

日本人は「やめる練習」がたりてない 

この頃、『日本人は「やめる練習」がたりてない 』(野本響子著)という本を読みました。著者のキャリアの変遷やマレーシアでの生活、子育てについて書かれた本です。

「石の上にも三年」と言われるように、長く続けて初めて見えることも確かにあるだろう。ただし、私があのまま大企業にいたら、ストレスと退屈さのあまり、他人を攻撃する側に回っていたかもしれないと思う。
おそらく、すごく嫌なお局になっていただろう。自分の人生をあきらめ、辞めようとする人の足を引っ張って、意地悪したり他人の粗探しをしたりする人生だったかもしれない。
(中略)
中学、高校、大学と、寄り道や途中で辞める経験もない。自分で「何かを選んで失敗する」という経験もほとんどしていない。「自分と向き合うこと」を小さいころに済ませておかなかったツケは大きかった。

『日本人は「やめる」練習がたりてない』 (野本響子著) より

新卒入社した会社をやめた時の、野本さんの心境が手に取るようにわかります。

私がオニババ化しそうになっていたというのはこういうことでした。
ストレスと退屈さのあまり、他人を攻撃する側に回る・・・
自分の人生をあきらめ、人の足を引っ張って、意地悪したり他人の粗探しをしたりする人生・・・

まさにこれ!野本さんは入社数年でこれに気づいて退職されましたが、私は15年もかかっちゃった。
今さら、無理?もう遅い?

そして、自分で「何かを選んで失敗する」という経験もほとんどしていない。というのもまさにそう!

私は会社をやめたことで、「負け」とか「失敗」とか「脱落」と自分で自分を責めていたのですが、これって、初めて「やめる」を経験したからなのでは?私は何か大きなことを自分の意志でやめたことがありませんでした。
学生時代のアルバイトすら、卒業までちゃんと続けて、ちゃんと卒業してきた。
ちゃんと、ちゃんと、ちゃんと・・・。
私は、「やめる練習」が圧倒的に足りていない!
だから今、こんなにスースーしているのか。
これが「自分と向き合うこと」なのか?・・・ツケが回って来たのか~。

 

絵具でお化粧ごっこ

ちょうどよい高さの椅子を見つけた娘。絵の具でお化粧ごっこ。

 

『僕らは奇跡でできている』

連続ドラマの配信を一気に見たりもしました。
特に良かったのが、高橋一生さん主演の『僕らは奇跡でできている』です。
もっと早くに見ていればよかった~!と思いましたが、在職中のこじらせまくった私が見てもまったく響かない上に、自分には関係のない話だと一笑に付していたでしょう。
本当は、「お前のことだよ!」みたいな話でした。

このドラマの主人公は、高橋一生さん演じる動物行動学者の相河先生。このマイペースな相河先生と関わることで、周囲の人々や相河先生自身も変わっていく・・・というドラマです。

「お前のことだよ!」は、榮倉奈々さん演じる歯科医の育実。
歯科医として、患者の相河先生と知り合うのですが、育実のこじらせっぷりが他人とは思えず、自分を見ているようで衝撃でした。

「やらなきゃ」と次々に色んなことに手を出し、いつもイライラしている。
「私、間違ってますか?間違ってませんよね」?
まだまだ足りない、もっと成長しなければと頑張っているけどまったく楽しそうではない・・・。

これは、身に覚えがありすぎる。私は、医者でもエリートでも榮倉奈々でもないけども。

そして、相河先生にこう言われてしまいます。
「やらなきゃいけない」って言うから、やりたくないのかと思いました。
自分をいじめてるんですね。
本当はどうしたいんですか?

 

リカちゃん人形

メーキャップアーティストの手によって、リカちゃんもこんな姿に…

 

新解釈?「うさぎとかめ」

相河先生は動物行動学者なので、動物の話がたくさん出てきます。
育実と「うさぎとかめ」の話になり、育実は自分のことを「かめ」だと評します。
なぜなら、自分はコツコツ頑張るタイプだから。

しかし、相河先生の見解は異なります。
「亀は全然頑張ってません。競争にも勝ち負けにも興味がないんです。亀はただ道を前に進むこと自体が楽しいんです」。
亀は亀にしか見られない、地面から数センチの素晴らしい世界を楽しむためだけに前に進むのだと話します。

そして、育実はうさぎっぽいと。
うさぎは、何のためにあんなに頑張って走ってるんですか?

「うさぎは亀を見下すために走るんです。自分はすごいって証明したいんです」。

がーん。

育実に自分を重ねていた私もショーック!
亀を見下すために走る?人を見下すために頑張る?
『うさぎとかめ』の物語が、「他人を見下したい」競争大好き勢 vs「自分の世界を楽しみたい」競争どうでもいい勢の話になってしまった!

自分はコツコツ頑張るタイプだと思っていた育実の、足元がグラグラしてきました。
父親から継いだ歯科をもっと大きく、患者さんにもっと喜ばれる病院にしたいと日夜頑張っている。
ブラッシュアップしてキャリアアップしてステップアップしたいと願うのは、他人を見下し、自分はすごいって証明したいだけ・・・?

後に、かつて相河先生も、人から「すごい」と言われる快感に取りつかれたうさぎだったことが明かされます。
「すごいことをやらなきゃ」と思っているうちに大好きだった生き物の観察が楽しくなくなり、つらくなり、眠れなくなり・・・。
「やらなきゃって思うならやめればいい」という言葉をかけられて、うさぎ的な生き方をやめたのです。

 

自宅でマクドナルド

フライングタイガーのテントで、マクドナルド。

 

誰でもできることは、できてもすごくないんですか?

相河先生の率直な物言いに傷つき、反発しながらも育実は変化してゆき、ドラマは進みます。
ある日、育実の歯科で、相河先生と小学生のコウイチくんが出会います。

コウイチくんは、絵を描くのが大好きな男の子で勉強が苦手。そんな自分をお母さんに否定され、自分に自信がありません。
そんな姿を見た相河先生は「僕はコウイチくんのすごいところを100個言えます」と自信満々。

出会ったばかりの相河先生に、自分の何がわかるのか?しかも、100個も?
何を言い出すのかと思ったらこんなことでした。

時間を守ります、歩くのが早いです、よく食べます、箸を上手に使えます、会った時にコンニチハって言います・・・。

なんだ、そんなことか。それって、誰でもできることなんじゃないですか?

「”誰でもできること”は、できてもすごくないんですか」?

育実もコウイチくんもコウイチくんのお母さんも、「自分はダメだ」「あれもできない」「これもできない」と思って自分を責めています。
しかし、誰でもできることは、できてもすごくないんですか?いう相河先生の言葉によって、自分にもできていることはたくさんあると気づかされるのです。

私も同じでした。あれもできていない、これもできていない、頑張っても報われない。本当は「できている」もあるのに、それは誰でもできることだから、他の人もできるからとずっと無視してきました。なんと不毛な!誰でもできることであっても、「できている」には変わりないのですよね。

それは、夫にも子どもにも向かっていたように思います。あれもできていない、これもできていない、もっと何かを手に入れなくては。みんなが持っているものは最低限、手に入れなくちゃ。
「幸せ」や「正解」の形をこしらえては遠くに置いて、あそこを目指すのだ!とやっていました。不毛すぎるぞ!

 

中学時代、体育館の壁に「人に優しく、自分に厳しく」というバレーボール部のスローガンが貼られていました。
それが人として理想的なあり方のように思えてずっと心の中にあったのですが、土台無理な話ですね。
自分に厳しい人は人にも厳しくなるし、人に優しくしたければ、まずは自分に優しくしなくては。

会社をやめてできた空間は、瞬く間に不安で埋め尽くされそうでしたが、新しい風も入ってきました。

 

続く

 

公園

だーれもいない海♪ならぬ、公園。

 

川阪果奈

川阪果奈 / KANA KAWASAKA

大学卒業後、保険会社の一般事務職として15年勤務し、第二子妊娠中に退職。その後、デジタルハリウッドSTUDIO吉祥寺にてWebデザインを学び、現在はブログサイトの運営などを行う。夫と娘と息子の4人家族。ライター塾6期生。

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