獣医からWebデザイナーへ。出産を経て入院。本当にやりたいことってなんだっけ? 栖川佳世さん vol.1

どこかにひっそりと隠れている「私はここにいます。誰か見つけて!」
という思いを、誰かにお届けするお手伝いができれば……と始めたコンテンツ、
「私を見つけてプロジェクト」。

今回ご紹介するのは、Webデザイナーの栖川佳世さんです。

小さなお店や教室をオープンしたり、
自分で何かを作って販売したいな、と考えたり。
あるいは、普段の生活で感じたこと、考えたことを、
SNSでなく、もうちょっと詳しく書いて、発信したいなと思ったり……。

そんな時「自分のホームページがあったらな」
と考えたことがある方は、意外に多いのではないでしょうか?
でも……。
どうしたら作ることができるのか、わからない。
自分ではできないから誰かに頼みたいけれど、
誰に頼んだらいいかわからない、
というケースがほとんどなのでは?

実は、私がこのサイト「外の音、内の香」を立ち上げるときにもそうでした。
歳をとり、雑誌や書籍の仕事のオファーがなくなったとしても、
へ〜!ほ〜!と見たこと、感じたことを綴るプラットフォームが欲しい……。
幸い、取材で知り合った、Webデザイナーの方がいたので、
相談してみました。
こんなページにしたい、と希望を伝え、
見積もりを取ったら、びっくりするぐらい高かったことを覚えています。
後から、それは決して法外な値段ではなく、
常識的な価格だったと知りました。

でも……。
そこまで立派なホームページでなくてもいい。
インスタグラムやXより、ちょっと「自分らしいページ」になればいい。
そんな人ってきっと多いんだよなあ〜と思っていた時に、
このプロジェクトに応募くださったのが、
4歳と8歳の男の子を育てながら、
フリーランスでWebデザイナーとして活躍されている栖川佳世さんです。

とびっきりスタイリッシュでかっこいいホームページというよりも、
その人に寄り添って、身の丈にあったサイトを構築する……。
そのお手伝いをしてくれるのが、
栖川さんのウェブデザイナーとしての仕事です。

さっそくご自宅に伺って、いろんなお話を聞いてみました。
まずは、どんなところが栖川さんらしさですか?
と聞いてみると……。

「私が大事にしているのは、どんなことを伝えたいのか、
どんな思いで商品やサービスを作ったり、思いを発信したりしたいのか、
ということをちゃんとお聞きして、そこからホームページを作っていく、
ということなのかなと思っています」。

実は栖川さん、以前は獣医として動物病院に勤務していたのだと聞いてびっくり!

「人とのコミュニケーションが苦手で、動物が大好きだったので、
獣医になりたいと思ったんです」

学校を卒業した後、念願だった動物病院で働き始めましたが、
すぐに診察にかかわるようになり、
命を預かる責任が故に、
やりがいはあったものの、大きなストレスと隣り合わせだったそう。
さらには、時間的拘束も長くヘトヘトに。

「当時は、実力を磨いてもっといい獣医になろう!
立派になろう! 頑張れば幸せになれる、と信じていました。
でも、すごく忙しくて、だんだん仕事のために生きている感じがしてきて……。
動物はかわいいし、病気を治すことはやりがいがあるし、
お客様も喜んでくれるけれど、自分はクタクタで……」

それでも、30歳までは頑張って続け、その後転職して公務員に。
「獣医師枠という採用があるんです。市の保健所に勤めたのですが、
飲食店の営業許可を出すための確認をしたり、狂犬病予防のワクチンの接種や、
犬猫の苦情の相談にのることなんかもやっていました」

規則正しい生活を送ることができ、暮らしに余裕もできたけれど、
どこか物足りなさも感じていたそう。
それでも、元の獣医の生活に戻って、バリバリ働く勇気もない……。

そんな中で結婚し、仕事は続けながら35歳で第一子を出産。
さらに、その1年後に第二子を妊娠したのですが……。

「異常妊娠になってしまって……。
受精卵がどんどん増えてしまう胞状奇胎という病気でした。
癌のようにぱ〜っと増えてしまい、数値が下がらないので、
抗がん剤治療が必要になりました。
長男を夫に預け、半年ぐらい入退院を繰り返したんです」。

治療が大変だったのはもちろんのこと、
当時1歳だった息子さんとお父さんのふたりを自宅に残しての
入院生活は、どんなに心配で、不安だったことだろうと思うと、
今の栖川さんの笑顔が、一際輝いて見えました。

「普通の生活って、こんなに簡単になくなってしまうのだな……
と衝撃を受けました。
今までは、健康だったからこそ、自分を駆使して我慢したり、
頑張ったらなんとかなると思っていたけれど、
病気になってしまったらどうしようもない。
周りにも迷惑をかけるし、私のせいで家族がボロボロになっていると思うと、
人生はもっと大事に生きなければいけないって思ったんです」。

これが、ほんの7年半ほど前のお話。
ここから、栖川さんの中で、人生のスイッチが切り替わります。

抗がん剤の副作用で苦しんだり、免疫力が下がって肺炎にかかったり。
次から次へと、いろんなことが起こったけれど、
幸いゆっくり、少しずつ回復し、やっと退院。

「生きていて本当によかったと思えました」。

その後第二子を出産し、ようやく普通の生活に戻りました。

出産後は、「そんなに焦って復職しなくてもいいかも」と
2年間ゆっくり育休をとってみたそうです。
すると……。
「うすうす気づいていたのですが、
子供とずっと毎日向き合うのは、私には向いていないなあと
わかってきました」と語ります。

「ずっと仕事をがっつりやる人生を送ってきたから、
仕事が全くないという生活になんだか馴染めなくて……。
かといって、復職し、このまま公務員を続けて、子供を送り出して出勤して、
帰って夕飯を作って子供を寝かせて……。
そんな生活ってどうなんだろう?と考え始めました。
さらには長男が、次男が生まれたことで、癇癪を起こすようになって、
気がくわないことがあると、わ〜っと暴れ始め、
私はそれを押さえつけようと、さらに厳しくしていました。

仕事だったら、それなりに頑張って評価もされていたけれど、
子育ては全然うまくいかないと、途方に暮れていた気がします。
その時に、まずは私自身がやりがいを見つけて
しゃんとひとりで立たなくちゃ、と思うようになりました。
整理収納アドバイザーがいいかな?
ファイナンシャルプランナーもおもしろそうかな?と……考える中で
「デザイン」という仕事がおもしろそうかも、と直感的に思ったんです」。

もともと公務員として保健所の仕事を手掛けていた際も、
チラシや広報誌を作るため、
制作会社とやりとりすることが、とても面白かったそう。

「どこが面白かったのですか?」と聞いてみました。

「わかりやすく伝える、というところですかね」。

確かに、栖川さんはご自身のことを私に語ってくださるときも、
とてもわかりやすく説明してくれました。
ちゃんと筋を追ってストーリーを語り、
さらに、その時々の自分の気持ちを分析し、言語化することがとても上手です。

そこで、一旦公務員に復職してから、オンラインレッスンで、webデザインを学び始めました。
「朝、出勤する前と、土日曜日に勉強していました。
動画を送ってもらって見て、やってみて、
わからないところを質問すると、動画で操作の仕方を教えてくれるレッスン形式でした。
子育てや家事をしながら、自分の時間を見つけて学ぶことができたので助かりましたね」。

それにしても、2人の子供を抱えながら、公務員として働き、
さらには、自分の勉強までこなすとは、
なんて大変なことでしょう!
改めて、栖川さんの「自分が前を向くための何かが欲しい」
と考えた、当時の切実さが伝わってくるよう。

こうしてひと通りの講座を終了し、
Web制作会社「ねこのてデザイン」を設立。
ご自身の獣医師としてのルーツを大切にしたいという気持ちと
「猫の手も借りたいほど忙しいお客様の役にたちたいという思いから、この屋号にしたのだとか。
まずは知り合いのホームページの制作から取り掛かりました。

今は、ホームページの制作や、リニューアル、
さらには、自分でホームページを作ってみたい人へのサポート、
ちらしや名刺のデザインなどを手がけています。

何も知らないところからのスタートだったからこそ、
「知らない」ということが、どういう状態なのかを、
身を持ってわかっているところが、デザイナーとしての栖川さんの素晴らしいところ。

次回は、今栖川さんが、どんなサービスを行なっているか、
具体的にお聞きしてみようと思います。

もし、ホームページを作ってみたい。
でも、そんなに本格的じゃなくていい……。
でも、基本的な知識がまったくない……。
そんな「でも」で躊躇している方がいらしたら、ぜひ栖川さんに相談してみてください。

ねこのてデザインのホームページはこちらから。

ホームページ:https://paws-design.com/

 

撮影/黒川ひろみ

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