夫には、言ったことを実現する力がある、と信じていました。枦木百合子さん vol.2

 

「この人でよかったのかな?」「どうしてわかってくれないの?」
夫婦にまつわる物語を、本音で語ってもらうこのシリーズ。
主婦として2人の娘さんを育てる枦木百合子さんにお話を伺っています。

vol.1では、「お母さんがまんなかにいる」枦木家の様子をご紹介しました。

結婚前は看護婦として働いていたという百合子さん。
きっかけは、マザーテレサさんの生き方を知ったからなのだといいます。
「私はずっと優等生だったんですが、大学受験のときに
「あれ?どうして私、こんなに勉強しているんだろう?」ってわからなくなって。
そんな時、マザーテレサさんの人生を知り「こんな生き方もあるんだ!』って感動したんですよね。

そこから本を読みあさって、どうやったら自分もあんな生き方に近づけるんだろう?
と考えたときに、看護師という職業が浮かんできました。
私も仕事をするなら、少しでもいいから誰かの役にたつことをやりたい。
『自分』だけしかいなかった世界に、
「誰か」の存在を加えてものごとを考えるようになった大きなきっかけが
マザー・テレサさんでした。
同じ活動をしたいわけではなかったけれど、その末端だったらできるかもしれないって思ったんです」。

この時感じた「誰かのため」が、
今「家族のため」に在るという百合子さんの原点なのかもしれないなあと思いました。
こうして大学の看護科に進み、最終的に専門として選んだのは小児科です。
「興味があったのは、ホスピスや終末医療だったんですが、
実習をしていくうちに、未来がある子供達と一緒に過ごすのもいいなと思って。
すごく悩んだんですが、いろいろ考えた結果、子供達のそばにいたいと小児科を選びました」。

 

さて、いよいよ夫の枦木さんとの出会いについて聞いてみました。
「大学生の時、20歳で出会いました。
高校の担任の先生が、アートが好きそうな生徒に声をかけて、
行きつけの画廊に連れて行ってくれたのですが、大学になってもそこを時々訪れていました。
その画廊のオーナーさんが、美大生が活動できる場をと、
小さなギャラリーを作っていて、そこにパパも足を運んでいたんです」

枦木さんのことを「パパ」と呼ぶ百合子さんに、
ああお母さんなんだなあと自然に笑みが溢れました。

改めてどこが一番好きですか?と聞いてみると……。

「う〜ん、生きていく力が強いところですかね。
この人と一緒にいれば、どんな時でも大丈夫だろうって思えます」と百合子さん。

「生きていく力」ってどんな力なのでしょう?

「私は学生時代、勉強ばかりしてきたけれど、
勉強って大人になったらあまり意味がなかったりするじゃないですか(笑)?
そこから先の、ひとりの人間として生きていく力というか、人との関り方とか、自分の歩み方とか……。
そういう力がこの人にはすごくあるんだなと感じましたね」。

美大卒業後、枦木さんは映画の仕事をするために上京。
百合子さんは久留米市の病院に就職します。つまり、遠距離恋愛が始まったというわけ。

「本当は私も一緒に東京に行って、東京で就職したかったんですが、やはり家族に反対されて……。
『結婚もしていないのに、功くんについていって、そこでダメだったらどうするんだ?』と父に言われました。
でも、その時父は、まだ何者になるかもわからない彼のことを
「功君は、なんだかわらかんが生きていく力はすごいと思う。
だからきっと大丈夫だろう」とも言ってくれたんです」。

 

 

自分の道を切り開いていく人は、ともすれば自分のことで目一杯で、
彼女のことまで考えられなくなるものです。

不安はなかったのですか? と聞いてみました。

「彼は、映画の仕事をするつもりで上京したのですが、
実際に行ってみると、ちょっと違うかも、と感じたようです。
自分で目標を変えてカメラの道へ進みました。
でも、自分が撮りたい作品を撮っているだけでは、生活していけません。
だったら生活するためには、どんな仕事を選べばいいのかを常に考えて、自分で扉を開けていくんです。
そういうところが、『生きる力』なんだろうなあって思います。
話を聞いていると、遊んでいる暇もお金もない感じで(笑)。
私さえ待っていれば大丈夫って、思っていました」。

それにしても、枦木さんが東京で成功するか、
ちゃんと食べにいけるかどうかは、まったくわからない状態だったはず。
にもかかわらず「なんとかなるだろうって思っていました」とにこやかに語ってくれた百合子さん。

「私も看護師だから、最悪どうしようもなくなったら、働くことができますから」と。
でも、「食べていけないとはまったく思わなかった」と言いますからすごい!

「言ったことを実現する力があるんです。夢物語で終わらせないで、
考えて行動しているんだなと常に感じさせてくれましたから」。

私などは、つい「自分の力」をいかにアップさせるかとか、
「自分の力」をいかに活かす仕事を見つけるか、と
自分に矢印を向けてしまいます。

でも、百合子さんの自分が選んだ人を信じる力の強さは、
本物だったのだなあと改めて思いました。

そばにいる人の力を信じて待つ。
そんな生き方を教えてもらった気がします。

 

次は、いよいよ上京してからの新婚生活について伺います。

 

撮影/近藤沙菜


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