ヒーミー 下川宏道さん 里美さん vol4

 

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ジュエリーブランド「himie」のデザイナーで社長、下川宏道さんと、奥様の里美さんに
ビジネスについてのお話を伺っています。

 

松屋銀座での売り上げをアップさせたきっかけは、
売り場に立っているスタッフの提案だったのだと言います。

「ブライダルリングを百貨店に探しにこられるお客様が多くて、
指輪が主力商品になってきました。
それでスタッフが『ブライダル用としてもっと
ディスプレイに力を入れた方がいいんじゃないですか?』と提案してくれて。
もともと、ブライダルリングを作ろうと思って
作り始めたわけじゃなく、
単純に指輪というアイテムが好きで作っていたんです。
ときどき、日頃おつきあいのあるお友達や常連客の方から
ペアリングや結婚指輪を作ってほしい、という依頼が少しずつくるようになりました。
自然に増えていって、松屋銀座で「ブライダル」として商品を見せるようになってから
売り上げが予想以上に上向いていったんです」と里美さん。

「それって、ブライダルリングは単価が高いってこと?」と聞いてみると

「それもあるけれど、需要の質ですかね」と里美さん。
「普通のジュエリーは、『買いたいときに買う』ものですが、
結婚指輪って、必要だから買うもの。
結婚する人たちが『道具』として買っていくものなんだなっていうのがわかってきました」

 

「今までのトータルで2000組は作っていますね。そのパワーはすごいです。
必要とされるものを作った方がいい。
でも、それってなかなか探し出せないものでもあるんです」と下川さん。

 

これは、私が雑誌や本を作るときに実感していることでもあります。
私たちは、「いい本を作りたい」と思うのですが、
いくらいい本を作っても、売れるとは限りません。
やはり、そこに「必要」がないと……。
つまり、誰かが生活の中で必要としていること。
ちょっとだけでも、誰かの役に立つこと。
これは、「売るため」だけでなく、
人間関係でも言えることなんじゃないかと思います。
自分が「いい」と思うことでなく、
相手が「してほしい」ことをする……。
まったくもって当たり前のことですが、
この発想のスイッチの切り替えは意外に難しい……。
下川さんがおっしゃる通り
「なかなか探し出せないもの」です。
自分がやろうとすることが、
子供の、夫の、親の、友達の「してほしいこと」に、
カチッとはまったとき、
私たちの日々の価値がぐんとあがって、輝き始める気がします。

 

松屋銀座に出店した1年後、伊勢丹新宿店の小さなブースでブライダルだけに絞って
出店するようになりました。

「一時期、冗談だと思うんですが、『ヒーミーさん、坪単価世界一ですよ』と担当者から言われましたね。
瞬間視聴率みたいなものです(笑)。
知らない人は『ヒーミーって誰?』って感じだったと思います」
と笑う下川さん。

 

世の中には、たくさんのマリッジ&エンゲイジリングがあるのに「himie」が選ばれるのはなぜなのでしょう?

 

「お客様の声を聞いていると『光ってないからいい』とのことでしたね。
ほとんどの大手のジュエリーブランドが鏡面仕上げなのに、その真逆の仕上げなんです。
意外に、『光っていない指輪』を求めているお客様が多かったっていうことですね。
それが、今から7年前ぐらい。
今はマット仕上げが、定着したように思いますけど」と里美さん。

 

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松屋銀座に出店後、下川さんは大きな決断をします。
それが、ラインナップをシルバーからゴールドへ完全に入れ替えたということ。

「そうしたら、卸先のお店がさ〜っと引いたんです。
セレクトショップなどへの卸しが自然消滅しましたね」と下川さん。

 

「松屋銀座では、18金を求められるお客様が多かったんです。
『これは18金でできないの?』って。
素材を変えることで、意識も変わりましたね」と里美さん

「シルバーのときは、どうしても壊れやすいので、毎日修理の依頼がきていたんです。
それが結構なストレスで……。
ゴールドに変えたら、強度もあるし、長く使えるし、変色もしにくい。
お客様にお金をいただくことで、次のステージに行けることもある……。
そう思いました」と下川さん。

「私たちは、銀座のお客様に育てていただきましたね」と里美さんも語ります。

 

商品の価格を決めるというのは、とても難しいことです。
商品ランナップの価格帯を一段あげる……。
それには、勇気と覚悟が必要。

でも、下川さんはその決断によって「次のステージにいける」と語ります。
たとえ、ビジネスをしていなくても
人には、「自分の価値を自分であげる」という人生の節目があるような気がします。
「自分の評価をあげる」と言うことでしょうか。
「今まで、ここまでしかできなかったけれど、
本当はもうワンステップあげたあそこまでできる」
と自分で自分のハードルをあげる……。

それは、あえてしんどい道を選ぶことでもあるけれど、
先にハードルをあげることで、
自然により高く飛ぼうとする意識が育つのかも。

こうして、十分に助走路を整えてきた「himie」が、
さらに飛躍をする……。
次回は「大阪店開店」とその後について伺います。

 

 


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