ヒーミー 下川宏道さん 里美さん vol3

 

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ジュエリーブランド「himie」のデザイナーであり、社長である下川宏道さんと、奥様の里美さんに
ビジネスについてのお話を伺っています。

 

「himie」のジュエリーには物語があります。
「暮らしのおへそ vol18」で「ジュエリーを贈る」という「himie」のお客様の習慣を掲載したことがあります。
そこでご紹介したのが、裁縫箱から想を得たという、
針にダイヤモンド一粒が通っている「クチュール」シリーズ。
そのほかにも
「tegami」というネックレスには、封筒の中に金の手紙が入っているというデザインなどなど……。

最近では、「最古のダイヤモンドは、宇宙のくしゃみ(爆発)で生まれた」という説を受けて、
ダイヤモンドをより輝かせるための「ブリリアンカット」を一切施さず、世界最高峰の技術で磨き上げ
球体に仕上げた、という「qshami」(くしゃみ)シリーズも。

そこで、今回は「himie」のものづくりとビジネスの関係について伺ってみました。
デザイナーであり、経営者でもある下川さん。
つまり、クリエイターとしての頭脳と、ビジネスの頭脳のどちらもを持っていなくてはいけないという
ことになります。
どうやって使い分けているんですか?と聞いてみました。

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「お客様に求められるのは、やっぱり洋服に合わせやすいもの。
それを考えると、デザインって自然に絞られてくるんです。
でも、それだけでなく僕自身が遊べるチャレンジングなデザインも2〜3パターン用意しておく。
そうすると、どれかが売れていきます。
要するに商品構成が大事。
たとえば、アルファベットのシリーズを作るとして、
「X」なんて、日本人の名前にはいないんですよね。
でも、「X」を作っちゃう。そうすると「A」や売れていったりするんですよ。
「X」を作った方が「A」が引き立つっていうか……。
無駄が大事なんです」と下川さん。

 

え〜っ!と思わず身を乗り出して、食いついてしまいました。
不必要なものがあると、引き立つ……。
それって面白い〜!
いったいどうしてなんでしょう?

 

「なぞですね〜」と下川さん。
「でもね、不必要なものでも、僕にとってはみんなかわいいものたちなんです。
売れる、売れないは、作るモチベーションには関係無いんです」

「そうそう、作りながら『これは売れる』とは言わないよね。
いつも『かわいい〜!』って言うんです」と笑う里美さん。

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ジュエリーを作るとき、石の仕入れから始めることがあります。
今では、「himie」に合うものを、とディーラーさんが世界中で買い付けてきてくれ、
その中から気に入ったものを選んでいるそう。
その石が輝くようにと、「フレーム」を作るのがデザイナー下川さんの役目です。

1回に何百万円分もの石を仕入れるなんて、とてつもない冒険のよう。

「ギャンブルですね。
でもね、確率のいいギャンブルなんですよ。
仕入れには、コミュニケーションがすごく大事。
ディーラーさんのセンスにもよりますね。
でも、センスのないインド人に頼んで、失敗かな〜と思うものでも、
逆にそれを生かせることもあるんです。
考え直して、かわいくする。
僕には、そういうセンスはあると思います」と下川さんは笑います。

「インド人の石屋さんに行くとね、
『お腹すいてると集中して選べないでしょ』とカレーを出してくれるんですよ。
それがまたおいしくてね。
おもてなしがすごくて、なんとなく親切にされて嬉しくなっちゃうんですよ。
でも、そんな彼らとの付き合いもだんだん慣れてきました。
最近では、石がしゃべりかけてくるのがわかるんです(笑)」とふたり。

 

今は、たとえは世界最大の宝石のマーケット、ツーソンに仕入れにいったディーラーさんが
LINEで「こんな石があるんだけど?」と写真を送ってくれ、
ずいぶん、思い通りのものが手に入るようになったそう。

 

さらに下川さんはこう言います。

「そうやって、みんながうまく食べていけるのっていいですよね。
ディーラーさんも石屋さんも僕らも……。
向こうも買ってほしいわけじゃないですか?
僕らもいい石がほしい。
そうやって、みんなで底上げしている感じがいいんですよ」。

 

ビジネスの成功者にお話を聞くと、みんなに共通していることがあります。
それが、人の悪口を言わないってこと。
当たり前のようにも思えますが、
これはつまり、人との接し方が「プラス方向に向いている」ということでもあります。
つまり、誰かの悪いところにフォーカスして、
「あそこがダメ、もっとこうして」と言うのではなく
どんなにダメな人の中でも
「あの人のここがいい。だからそこをもっと生かして」
という思考回路を持っている……。

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vol1の冒頭でも書きましたが、私は下川さんに会うといつも
胸の内側があったかくなるような、ほっとするような、
もっと大げさに言えば、「人生っていいものだ」と思えるような
そんな気分になるのです。
本当に仏様みたい!
このことが、意外やビジネスに大きく関わっているようです。

次回は、「himie」のスタッフについてお話を伺います。

 

 

撮影/近藤沙菜

 

 

 

 


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