サボン・デ・シェスタ 附柴裕之さんvol6

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北海道で石鹸を中心にした会社「サボン・デ・シエスタ」を営む附柴裕之さんにお話を伺ってきました
今回はその最終回です。

「サボン・デ・シエスタ」では定番の石鹸以外にも、季節の限定石鹸を販売しています。
この春は、プリマヴェーラシリーズ。イタリア語で「春」という意味で、グレープルフーツ、オレンジ、サイプレス、ミントをブレンドし、使うたびに爽やかな香りが広がります。
石鹸は1個1512円。

「この値段の価値が、うちの石鹸にはあると信じています。
毎日毎日いいものを使い続けていると、気持ちが変わるし、それによって会う人も、
過ごす時間も、大きく言えば人生も変わると思います。

化粧品ってきれいになるためのものですよね。
一口に『きれい』と言っても、いろんな『きれい』があります。
汚れを落した『きれい』
健康状態をよくした『きれい』
心が『きれい』……。

僕たちは、汚れを落とすだけではなく、心をきれいにする石鹸を作ろうと思ったんです」

「サボン・デ・シエスタ」の石鹸の材料は、オリーブオイルやアボカドオイル、
豆乳や酒粕、アズキの粉末、白樺の芳香蒸留水に、ラベンダーや柚子など、
上質な天然のものばかり。

 

「石鹸は、いろんな人たちと一緒に作ることができる事業です。
いい原料を使うってことは、いい原料の供給者といい関係をつくること。
作るためには、たくさんの人手が必要です。
そんな人の手の暖かさを伝えたい。
ひとりひとりの想いも一緒に届けたい。
その目的のためにも、毎日使う石鹸はとてもいいんです。
石鹸は使い回数が多いですよね。
だとすれば、いいものを使ったときの、ユーザーが得るメリットはとても大きいと思っています。
自然と調和することが、人間本来のあり方です。
人工的な環境は、自然が本来もっているものの多くをそぎ落としてしまっています。
そこにストレスが生じ、心が緊張状態になります。

それをすっとリセットする『何か』が必要……。
肌の汚れと同時に、そんな日々のストレスまでをさっと洗い流す、というのが
『サボン・デ・シエスタ』のコンセプトなんです。

うちと似たような石鹸はたくさんあるかもしれません。
でも、使い続けてもらったら絶対に違います。
だって、会社の姿勢が違うんですから」。

 

「サボン・デ・シエスタ」の1個の石鹸の後ろには、
こんなにも多くの人と、大きな自然が繋がっていました。

そして、私は「ああ、そうだったのか」とここで深く納得したのです。
石鹸というひとつの商品の裏側には、附柴さんの
手間ひまを惜しまずに費やした時間と、
妥協をせずいいものを求め続けるかという強い意思と、
いい原料を使えば、きっと使ってくださる方が気持ちいいはず、と信じる心と
絶対にいいものを作るという覚悟がありました。
それをすべてひっくりめて「商品」というのだなと。
だからこの商品=石鹸が売れるのだなと。

 

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今、石鹸のレシピは、奥様の彩子さんが作っています。
「僕は、妻のセンスを信じているんです。
科学的研究データも大事だけれど、その数字に表れていないことをとても大事にする。
買った人がああ、よかったというものを、妻はキャッチできるセンスを持っています。
だた、石鹸だけだと収益性の高いビジネスができないので、
石鹸からスタートして、スキンケアを軸としたライフスタイル全般をカバーできる
事業展開にしよう思っています。その新規事業が僕の担当ですね」

 

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今は、最近注目を集めているモリンガオイルの販売を始めたばかり。
「高級化粧品に使われているオイルで、去年ぐらいから日本に入り始めました。
その中でも、生産背景まで考えているフェアトレードのオイルを
扱っているのは日本で1社だけです。品質も世界最高です。
そのモリンガオイル100%の美容オイルを作ったら、
ネットショップにアップするや否や瞬殺で完売しました。
これが売れると、原料産地で働く人の暮らしも、よりよくなる仕組みも整えました。
持続可能で、フェアトレードで、社会貢献性の高い事業になると思います。
この事業を国内だけでなく世界中に広げて、
これを100年後も継続していけるようにしたいと思っています」

ちなみにこのモリンガオイルは私も愛用中。
肌がしっとりもちもちになります。

直営店の「シェスタ・ラボ」では、石鹸とはまったく関係のない、
靴やアクセサリー、バッグやお菓子など、クラフト作家さんの企画展も開催しています。
石鹸から始まって、暮らしを楽しむモノやコトが広がっています。

 

そして、最後に附柴さんは、こんな話をしてくれました。

「みんな自分が好きなことを仕事にしたいと思って起業しますよね。
好きなことなので一生懸命頑張る。
でも、10年で95%が廃業する厳しい道です。
どうしてなのでしょう?

うまくいかない事業には、決定的に欠けていることがひとつあるからです。
それが、『誰かの課題を解決してあげる』という視点です。
つまり、『できなかったことをできるようにしてあげる』という視点……。
みんな好きなことを形にできたら、それで満足してしまいます。
好きなものを作っている人はいっぱいいるんです。
でも、趣味で終わってしまったり、フリマで終わったり。
でも、次のステップとしてそれを収益化しないと、長く続けることはできません。
そのために必要なのが「向き合う人を幸せにする」という想いです。
もしも、自分を満足させようとしているだけだったら、そのうち飽きられます。
そうすると、儲からないので、発展もしませんし、そもそも継続できません。

 

でも「誰かの課題」って、どうやったら知ることができるのでしょう?

「それはお客さんと真剣につきあうことでしょうね。
なぜ、私の商品を買ってくれたのか。
1個買った人に聞き、3個買ってくれた人に聞いてみる……。
その上で、その人たちを、より助ける方法を考えます。

『より助ける』ということが大事。
ひとりからふたりに。3人から10人、そして100人を。
それを繰り返しているうちに、いろんなことが見えてきて、
ビジネスがうまく回り出すはずです。
中途半端にやっていると、中途半端にしか見えてきません。
これを本気でやるんです」

なるほど……。
自分に当てはめて考えてみました。
たとえば私が料理の作り方を紹介する本を出したとします。
でも、世の中には、料理が嫌いな人もいるし、
仕事が忙しくて、作る時間が取れない人もいる……。
そんな「誰かの課題」を解決するために
「フライパンひとつでできる料理」の本を作ったり
「帰って15分でできるレシピ」の本を作る……
といった具合でしょうか。

 

大事なのは、自分がやりたいことを形にした後に
耳をすませてみる……ということ。
誰かがどこかで困っていないかな?
もっと本当に知りたいことがあるんじゃないかな?
もっと欲しいものがあるんじゃないかな?

それが、附柴さんが最初に語ってくれた
ビジネスに必要な『愛』なのかも。

この答えは、私にとってちょっと嬉しいものでした。
一見ビジネスとは真逆にあるような「愛」ということ……
誰かの望みを叶えたり、誰かが抱えている問題を解決してあげるということ……。
それを真剣に考えていれば、
お金はきっと後からついてくる。

そう信じることが、ビジネスなのだと。
ビジネスとは、実はとても人間的で有機的なものなのだと
教えていただいた気がします。

 


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