サボン・デ・シエスタ 附柴裕之さんvol5

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北海道で石鹸を中心にした会社「サボン・デ・シエスタ」を営む附柴裕之さんにお話を伺っています。
前回までは、石鹸以前=附柴さんが大学卒業後にベンチャーで会社を立ち上げるまでの
お話を伺いました。

会社を立ち上げたのち、附柴さんは退社して独立。
でも、高性能ジェルの実用化の道のりは、簡単でなかったと言います。
最先端の研究成果の実用化には、時間も専門性の高い人材も、資金もかかります。
まずは事業を存続させるための商品開発に舵を切りました。
でも、いったい何を作れば売れるのか……。

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行き詰まったとき、創業したメンバーと
「みんなで一緒にご飯を食べに行くのはやめよう」
と決めたそう。
つまり、それぞれが外に出て、新しい人脈を開拓したほうがいいってこと。
そんな中でひとりのスタッフが異業種交流会に出かけこんな話をしてきたそうです。
「ジェルっていったら保冷剤ですよね」
「うちでは、保冷剤はお弁当のフタに毎日つけてるんですよ。だって食中毒とか怖いでしょう?」
「だったら、フタが保冷剤でできていればいいのにね」

次の日、このやりとりを聞いた附柴さんは

「それだ!!」と飛びつきました。

ジェルでお弁当のフタを作って冷やす。
だから名前は「ジェルクール」!
さっそく試作に取り掛かりました。
数十回の試作と様々な試験を行い
ヒントをくれた方やその友人にもモニター協力をしてもらったそう。
たくさんの専門家の力を借り、1年がかりで製品化。

そして
「夏でもお昼までお弁当が冷たく保てます」
「サラダやフルーツも冷たくおいしく食べられます」
「食中毒の防止にもなります」
というセールストークとともに
デザインのいいお弁当箱を作り、発売するとこれが大ヒット!

発売前にすでにオファーがあり、1000万円近く予約を受けてから作ったといいますから驚きです。
発売後、百貨店などのお弁当箱売り場では、必ず売上NO1になりました。
グッドデザイン賞をはじめ数々の賞を受賞し、
札幌市や国からの支援も受け、
大学にも協力してもらって、社会科学の研究対象にもなって論文や書籍でも紹介。
この10年でおよそ100万個が売れ、海外でも人気だそうです。

お弁当箱に保冷剤をのっけるのではなく、
お弁当箱のフタそのものを、保冷剤にしてしまったのが、
「ジェルクール」の大きな特徴です。
使い終わったらフタごと冷凍庫で冷やして、セットするというわけ。

これは、雑誌を作るときにもそうですが、
「売れる」の影には、必ず「必要」があります。
ビジネス用語でいえば「ニーズ」というのですよね。

「暮らしのおへそ」の別冊「暮らしを、整える」は、現在13刷になりました。
「部屋と頭と心のお片づけ」というコンセプトが、きっとみんなに必要とされていたんだなあと思います。
誰かの「必要」とカチッとチャンネルがあったとき、
モノは放っておいても売れるんだなあと実感しました。
でも、この「必要」を見抜くのがなかなか難しい……。

以前何かの本で、今から十数年前、糸井重里さんが、
「コンビニで今までやったことがない、びっくりすることを企画してください」
と学生に言ったら
「コンビニでコンサートをする」など、壮大な企画があれこれ出たけれど
糸井さんが考えたのが、
「コンビニでカップラーメン用のお湯のサービスをする」だった……
と読んで、なるほど〜!とうなった記憶があります。
「必要」を見抜くということは、日常のごく当たり前の生活にある
「もうちょっとの何か」に気づくことでもあるのですね。

ちょうどその頃、奥様の彩子さんは石鹸を作り始めていました。(vol1にそのきっかけを綴っています)
附柴さんの会社が借りていた大学の研究室に彩子さん用の机1個を用意して、
そこで商品開発を始めました。
その後、薬事法の許可をとった施設に移り、そこで作った製品をインターネットで販売しはじめていたそう。

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「この事業で利益を出すためには、ある程度の量を作らないと、と考えました。
それまでは、彼女が自分の小遣いで作っていましたから、
そのままでは継続することが難しい。
そこで、当時の役員と相談し、会社の中で事業化することになりました。
量産するためにには、それなりの体制が必要ですから。

僕にはね、この石鹸でビジネスができる、という確信があったんです。
というのも、僕は科学者でもあるので、化粧品業界で何が使われているかも
よくわかります。
だいたいが、原材料費が10%未満のものを売っているんですよね。
広告費がその価格のほとんどを占めるものをみんな買っている……。
しかも、添加物を多く使っているので、必ずしも肌にいいと言い切れない。
そうではなく、自然栽培や有機農法、減農薬で作れれた本当にいい材料を使った
石鹸のほうが、絶対に体にいいはず。
妻は、肌が弱くて化粧品でかぶれていたのに、自分で作った石鹸なら大丈夫でした。
肌の調子がよくなると、暮らしもどんどん楽しくなって前向きになれる……。
彼女みたいな人はきっともっとたくさんいるはずだと考えたんです。

それと、石鹸というアイテムがすごくいいなと思ったのは、
毎日使うから。
弁当箱は、毎月は買いませんよね(笑)
でも、石鹸なら、洗顔で使ってよかったら、体も洗おうかなと考える。
自分が気持ち良かったら、家族でも使って、友達にもすすめる。
そうやって広がっていくと思いました。
商売の基本は、反復性、継続性があることですから」

 

実は石鹸作りは比較的簡単です。
だから、自宅で趣味で作る人もいるし、それをネットで販売している主婦の方も多いよう。
「でもね、薬事法上はちゃんと許可を取らないと販売してはいけないんです。
しかも、季節によって固まり方が違ったりと、安定供給することが難しい……。
そのみんなが『できないこと』をやれば、絶対に事業になると考えました」と附柴さん。

 

「サボン・デ・シエスタ」で販売している石鹸は、どれも1個1000円以上です。
今まで1個50円の石鹸を、あるいは300mlで200円程度のボディソープを買って
いた人に、どうやってこの値段の石鹸を買ってもらえるようになったのか……。

「石鹸を売っているんだけど、石鹸そのものを売っているんじゃないんです」
と附柴さんは語ります。

たった1個の石鹸からどうやってビジネスが立ち上がるのか。
次は、そんな石鹸1個の価値観についてお話を伺います。

 

 

 


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