子育てがひと段落した時。
がむしゃらに頑張ってきた仕事の足をふと止めた時、
そろそろ人生の第二ステージへ踏み出したいのに、
どっちを向いて歩いていったらわからない……。
そんな悩みを抱える人の悩みや戸惑いのリアルな姿をお伝えしようと
「女の再起動」というテーマで、特集を始めています。
前回からご紹介しているのが、藁谷恭子さん。
次女のそよちゃんを出産後、派遣の仕事に復帰せず、専業主婦に。
「私にできることってなんだろう?」と考え始めたそう。
お子さんと向き合って、日々ご飯を作る今の生活は楽しいですか?
と聞いてみました。
「う〜ん、楽しいのかなあ? いや〜、わかんない。
何かもうひとつ、足らない感じ。
幼稚園のママたちとも、よくそんな話をするんです。
働く? 働かない? って。
家でできる仕事があったらいいよねって言ってますね。
でも、結局やらないんですよ(苦笑)
本当に何かやろうと思ったら、きっともう動き出しているだろうし……」
若い頃、目指していたピアノの先生をする、という選択肢はなかったのでしょうか?
「そうなんですよね〜。でも、離れてしばらくたっているので、
最近では、考えてもみなかったです」
じゃあ、したいことって何があると思いますか?
と聞くと、しばらく沈黙してしまった藁谷さん。
「何がしたいんだろう………。
たぶん、自己表現がしたいんだと思います。
もしかしたら、それは仕事じゃなくてもいいのかもしれない。
今、ふとそう思いました」
この正直なつぶやきは、きっと藁谷さんの本音のしっぽだった気がします。
自己表現がしたい……。
それは、自分がここにいる、と実感したいということ。
自分の「できること」を何かのために使いたいということ。
誰かの役に立ちたいということ。
「実は、今回一田さんがいらっしゃることになって、
パパと一緒に襖をはずして全部はりかえたんです。
貼るシートタイプのものがあるんですが、すごくきれいにできたんですよ!(笑)
ずっと気になってはいたんですが、大家さんに聞いたら、1枚六千円で、
裏表を貼ったら全部で3万円ぐらいかかるって言われたんです。
まだ子供が小さいから破く可能性もあるし、
もうちょっと大きくなってからの方がいいんじゃないですか?
って言われたんですが、
いい機会だから自分でやってみようと思って。
一生懸命 You Tubeなどを見て貼ってみました。
それで、さっきの自己表現の話なんですが、
今回襖を貼ったらすごくすっきりして……。
思い返してみたら、この襖みたいに、毎日ちょっとずつ我慢していることってあるなあと思ったんです。
私、本当はこうしたいけれどやめておこうとか、
気になるけれど、やったら失敗しそうだからやめておこうとか……」
なるほど!
藁谷さんは、襖の張り替えの話を、目をキラキラさせながら語ってくれました。
襖1枚でも張り替えると、1日が変わる、そして人生が変わる!
「そうなんです。
やってみないとわからいよね、ってパパとも話をしました。
やらなかったら一生気付かなかったし、
業者に頼むっていう選択肢しかなかったから……。
今回の経験で、やってみてわかることってめちゃくちゃたくさんあるんだね、って
夫婦で話しました」
そして、仕事についてこんな風に語ってくれました。
「仕事でも、なんでも、毎日少しずつ我慢していることが
きっとあるんじゃないかと思ったんです。
もしかしたら、私はそんな大それたことをやりたいわけじゃなくて、
毎日『本当はこうだったらいいな』と思いながら、
できそうなことを放置していて、
そのことにモヤモヤしているだけなのかなって思って」
私は、藁谷さんのこの話を聞きながら
なんだか感動してしまいました。
もしかしたら、何か、新しい仕事を始めることより、
今の自分の状態に気づき、分析し、
何かを見つけることの方が、
ずっと大事なのかも。
じゃあ、仕事がしたいわけじゃなくて、「なにかしら満足」がしたいのかな?
と聞いてみると……。
「たぶんそうなんだと思います。
まずは自分の小さな望みを叶えてあげることの方が大事。
大きなことってそんなにすぐには思い浮かばないけれど、
毎日感じている「こうだったらいいな』があるとしたら、
それをやっていく方が大事なんじゃないかって気づいたんです」
きっと藁谷さんの中では、すでに何か始まっている。
そう感じました。
仕事という「形」にはすぐには結びつかなくても
どうしてモヤモヤするのだろう?と考え始めたときから、
すでに、藁谷さんの毎日は、昨日とは違う方向へ
進み始めている気がします。
人が変わるきっかけは、こんな風に、ほんの些細なことなのかもしれません。
それを少しずつ大きな変化へとギアチェンジするには、一体どうしたらいいのでしょう?
最終回は、これからの藁谷さんのことを伺います。
写真・近藤沙菜