南さんがアーティストやクリエイターのマネージングやアートギャラリーの運営を手がける
「nomadica」を立ち上げたのは2010年12月のこと。
翌年2011年3月に、ギャラリーのオープニングとして
知り合いのフランス人キューレターとともに
欧州の写真と彫刻の展示をしようと計画していたのだといいます。
ところが、あの東日本大震災が起こり、中止に。
「がっかりしたでしょう?」
と聞くと
「全然!」と南さん。
「運営に精一杯で、震災で被害を受けた方にわずかな支援しかできず、
こういうときに貢献できる会社にしよう、と一緒に立ち上げたスタッフたちと話しあったことが忘れられません」。
未知の世界に踏み出そうとしているとき、
うまくいくかどうか、不安と期待でいっぱいいっぱいになり、
他者のことなんて、二の次になりがちです。
なのに、こんなふうに語ることができるなんて……。
南さんは、とても静かな空気を纏った方です。
「社長」になんて見えない(失礼!)し、
声高に何かを主張することもありません。
でも、どこかにシンとした強さを感じる……。
決して揺らがない大地のような落ち着きと、
冷静な情熱を秘めていて……。
ときどき、こんなふうに年下なのに、
しっかりした女性に巡り会うと、
何かが起こる度にオタオタする自分が情けなくなります。
うまくやろうとしすぎるから、オタオタするんだよな。
もっと堂々と構えて、失敗したらそのときはそのとき、
って思えばいいじゃないか。
いったいあの人が持っていて、私に足りないものってなんなのだろう?
と考えます。
誰かに話を聞いてみたい、
と思うときは、たいてい
自分の中に欠けている何かを、他者の中に見つたいと思っているのかもしれません。
そもそも、どうしてアートを紹介したり、アーティストのマネイジングをしたいと
思うようになったのでしょう?
まずは、そのきっかけから聞いてみました。
撮影 近藤沙菜
「中学2年生のときに、テレビで、日本人のミュージシャンのコンサートの舞台裏をルポする
ドキュメンタリー番組を見たんです。
もう、それはそれは感動して……。
ケータリングのお姉さんやイベンターのような、ミュージシャンを支える
一員になりたいって思いました。
高校に入ってすぐに、音楽業界に入るための学校などを全部調べ、
高校2年生ぐらいからは実際に学校を見て回りました」。
たったひとつのドキュメンタリー番組が、中学生の女の子の人生を決めてしまうなんて!
それにしても、「どこに」そんなに感動したのか。
「何が」そんなに南さんを突き動かしたのか、もうすこし詳しく伺ってみました。
「説明が難しいんですが、
ライブって、一度に驚くほどたくさんの人たちが、感動したり、元気になったり、笑顔になったりするでしょう?
一瞬で「場」も「人の心」も変えられるミュージシャンってすごい!って思ったんです。
そして、私はそのミュージシャンを支える人になりたい、って思ったんですよね」
確かに、多くの人の心を音楽だけでさっとひとつにまとめてしまう。
みんなが一瞬で、「ここ」でない世界に行ける。
会場に来るまで、どんなことがあったとしても、そこですべてがくるりとひっくり返り
涙し、笑い、元気になれる……。
私もわずかながらそんなライブで、心から感動し、音楽の力をかみしめたことがあります。
驚くのは、南さんが中学2年生のときに、心に灯った小さな小さな火種を
ずっと消さずに、大切に抱え続け、
形はすこし違っても
今につなげているところです。
多感な中学、高校時代の夢は、限りなくピュアです。
私はかつて、小学校の先生になるのが夢でした。
残念ながら、教育学部の 受験に失敗失敗し、文学部へ進学。
こうしてライターになったわけですが、
今でも、小学校のそばを通ると胸がキュンとします。
子供達の、できないことができるようになっていく姿ほど
感動することはない……。
そう思っていた頃のことを思い出します。
まったく違う業種に進んだけれど、
あの思いの片鱗は、どこかに残っているような気もしています。
子供に限らず、人が何かに気づき、変わっていく姿に私は感動する……。
それを今、私は「書いて」いるのだなあと思って。
人はみな、大なり小なりピュアだった頃の夢を
心のどこかに持ち続けているのかもしれません。
南さんの姿を見て、自分の中に眠っていたあの頃の思いが
少し動き出した気がしました。
それにしても、どうして南さんは、
音楽の力、舞台の力に感動したのに、
ミュージシャンではなく、「それを支える人」になりたいと思ったのでしょう?
主役ではなく、脇役になることを選ぶ……。
そこにはどんな意味があったのでしょうか?
学校では、著作権の勉強をしたり、コンサートの作り方を学んだり。
同時にOBのいるテレビ局でADさんのお手伝いやレコード会社、コンサート会社でのアルバイトも経験したそう。
卒業後はすぐに業界に入ったのかと思いきや……。
次回は、南さんの学び方についてお話を伺います。