小さな確かさ

ぐっと冷え込んできましたね。
昨夜はゆたんぽを出そうと、押し入れを探しましたが
どこにもない!
あれ〜〜?とがさごそ、手前のものを出して、奥の箱を開けて……
と探し回ってもない!
諦めてベッドに入ったら、
夫が改めて押し入れを探索して見つけ出してくれ、
お湯を詰めてベッドの足元に差し込んでくれました。
やるやん!(笑)

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて。
私はこの週末は、拙著「父のコートと母の杖」のトークイベントで
広島、大阪に伺ってきました。

「暮らしのおへそ」の原稿をぎりぎりに書き上げ、1日早くまずは実家へ。
その日母が、定期検診のため病院に行き、父も付き添いでついていくというので、
神戸のポートアイランド内にある病院で待ち合わせをしました。
神戸から地下鉄に乗り、三宮につき、ポートライナーに乗り換えます。
そこで、父から電話。
「今どこ?」と……。
「だから〜! 12時半頃に着くって言ったやん!」
そんなこともすぐに忘れてしまうようになったよう……。

病院にやっと着いて父に電話をすると今度は出ない!
しばらくすると、ロビーの向こうに父の姿が見えました。
このごろ、歩くときに足がちゃんとあがらず、すり足のようになるので、
なんだか危なっかしい……。
そんな姿に胸が痛くなりました。

やっと終わってお茶をしてから実家へ。
夜は母が私の大好きな白菜鍋を作ってくれました。

食後、私が食器を洗っていると、
ベッドルームと父と母がなんだかゴニョゴニョやっているよう……。
何をやってるのかなあ〜?
「何か手伝おうか?」と覗きにいくと、
私のベッドに父と母がふたりそろって、
ボアのマットを敷いてくれておりました。
北側の部屋で寒いだろうからと、
ふたりで押し入れから毛足の長いボアのマットを取り出して
(年寄りふたりにとっては、押し入れから出すだけでも大変!)
それを、ふたりで協力して、シーツの上に広げてくれていたのでした。

そんな姿を見て、なんだか泣きそうになりました。
体力がだんだん落ちて、足元もおぼつかなくなって、
できることがだんだん減ってきているけれど、
「ノリコのために……」という親としての想いはずっと変わらない……。

思わず手を合わせたくなりました。

広島蔦屋書店、マルゼンジュンク堂書店梅田店でのトークイベントには
たくさんの方が来てくださり、
本当に嬉しかったです。
お休みの中、来てくださった方ありがとうございました!

直接こうやって読者の方々とお会いする機会はめったにないので、
イベント終了後にサインなどさせていただきながら、
ほんの少しですがお話ができて、
それぞれの方が「母が一人暮らしで……」とか
「両親がちょっと病気で……」
などのお話を伺うと、
本を手にとってくださったその向こう側に
それぞれの方の生活があるのだなあと実感でき、
その中で本を読んでくださることが、本当にありがたくて……。

本が出ると、やっぱりたくさん売れて欲しい!
と思います。
でも、こうやって私が書いた一文が、
目の前の方の暮らしの中に入っていく……。
そう感じると、
数なんかではなく、しっかりと一文一文を書いていかなくちゃなあ
と改めて思いました。

人はどうしても、「大きな成果」を求めてしまうけれど、
「誰かの役に立っている小さな確かさ」があれば、
それが積み重なって幸せになれるよなあと思ったのでした。

広島蔦屋書店さんにて

 

 

 

丸善ジュンク堂書店梅田店さんにて

一緒に来てくれて、MCを務めてくれた編集者の梅田さんは、
それぞれの書店さんとの連絡から、
資料づくり、そして、当日は時間キープをしながら
お話をリードしてくれて、
すべてのケアをしてくれました。
書店さんへ、さらには、お世話になった方へのお手土産など
細やかな心配りも完璧!
一歩引く黒子でありながら、
しっかりと支えてくれる……。
そんな力を感じた2日間でした。

広島ではお好み焼きを。
大阪では、ふたりが大好きな鴨鍋定食を食べて
いろんなおしゃべりをしたのも楽しかったなあ〜。

いろんな人に支えてもらい、温かな心使いをいただいた2日間でした。
たくさんのお手紙もいただき、
1通1通読ませていただきました。
ありがとうございました。

イベントで「ああ、これ話せばよかったなあ」と思ったことをちょっと書いておきます。
親のケアをしたり、
老いと向き合って胸が痛くなったり……。
でも、それはとてもパーソナルなことで、
あまり人に話すこともなく、
ひとり胸に秘めてもんもんとすることが多いように思います。

でも……。
私は、両親のプチ介護がひと段落したとき、
そのことをブログに書くと、
いろんな人が声をかけてくれました。
そして、「私もね……」とご自分のことを話してくれました。
今まで何度も会っていたのに、まったく知らないことばかり。
そして「わあ、そうだったのですね〜」と
話をしているうちに、
ちょっとだけ心が軽くなったことを覚えています。

誰かに話をしてみるって、すごく大きな力をもらえるんだと思いました。
自分のこと、自分の親のことを話すって、
なかなか勇気がいるかもしれないけれど、
ちょっとだけ話してみる……。
そうすると、そんな「ちょっとだけ」から
誰かと共感しあい、荷物が少し軽くなるかもしれません。

これは、親のことだけでなく、
仕事、子育て、人間関係……
どんなことにも言えるのかもしれませんね。

自分から心を開けば、誰かが助けてくれる……。
それを信じてもいいのかなあと思っています。

父のコートと母の杖」(主婦と生活社)
もしよかったらお手にとってみてくださいね。

みなさま、今日もいい1日を。

 


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