急にぐぐぐい〜っと涼しくなりましたね。
こうなると、すきま風だらけの我が家は急に寒くなり、
廊下のひだまりが、なにより心地よく感じられます。
早めに出して後悔した厚手の布団に、やっとすっぽり潜り込んで眠ったり、
お風呂に長めに浸かったり、
温かい紅茶が一層おいしく感じられたり。
なんでもないことが、なんだか嬉しい今日このごろです。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
さて。
坂口恭平さんのご著書「生きのびるための事務」(マガジンハウス)を、遅らばせながら一気読みしました。
いやあ〜。面白かったなあ〜。
坂口さんを知らない方のために、ちょっと説明を。
大学で建築を学び、路上生活者の家を収めた写真集「0円ハウス」を刊行。
就職せずに生きる方法を模索し、
今は、文章を書き、数々の本を執筆。そのどれもがハッとするテーマばかりで、
多くの人に読まれています。
さらに、絵を描き、それがもう本当に素晴らしくて……。
xでは、時々絵をアップされているので、ぜひ見てみてください。
ギターを奏で、CDも発売。
さらに、躁鬱病であることを公表していらして、
2012年からは、「死にたくなったら電話して」と、ご自身の携帯電話の番号を公表し
「いのっちの電話」という電話サービスも。
私は、これまでのご著書やnoteなどを読むたびに
「なるほど、今度はそうきたか〜!」とびっくりするやら、感動するやら。
そんな坂口さんの今回の本は、なんとマンガ。
しかも、テーマが事務!
いったい何についての本かわからずに、
読まないまま月日が経ち、
周りにいる人が、「読んだよ〜」と知らせてくれて、
やっと手にとった次第です。
物語は、主人公坂口恭平さんと、
坂口さんちに居候しているジムとのやりとりで進みます。
「僕のように注意力散漫で、飽き性な人間は放っておくと
何をやろうとしていたのか分からなくなり、混乱してしまいます。」
「だからこそ事務が必要だったのです」
「まず僕にとって一番重要な事務は二つあります」
「一つがスケジュール管理。もうひとつがお金の管理です」
一見「破天荒な人」にも見える坂口さんが、
大事にしていたことが「事務」だったなんて!
しかも、スケジュールとお金の管理なんて!
そして、どうスケジュールを管理し、どうお金を管理していくかが、
具体的な方法として語られていきます。
事務はまず現場把握から始まります。
今、何にどれだけお金を使っているかを書き出したり、
今のタイムスケジュールを書き出したり。
次に理想の暮らしを設定します。
どれぐらいお金があったらいいなと思うか。
10年後、どんなタイムスケジュールで暮らしていたいか。
ああ、私が苦手なやつだ……。
と思いました。
10年後の理想の暮らしなんて、今わからないもの……。
が!この本は違ったのです。
この本で解説されているのは「将来の夢」ではなく「将来の現実」でした。
坂口さんが考えた10年後の理想の暮らしは
朝5時に起きて9時まで執筆。
9時から10時までは、コーヒーを飲みながら読書。
10時から午後2時までは絵を描いて
12時〜13時コンビニまで散歩へ
13時〜17時まで作曲
というものでした。
あとは、これを実際に毎日「やる」ということです。
ジムはこう言います。
「恭平もこれからは作家になりたいなんて口走るのではなく、
毎朝5時に起きて、9時まで原稿を書き続けたい、と言えばいいんです」
「作家になるってそういうことです」
「本を書いてお金を稼ぐことじゃありません。それは断じて違います」
でも……。
坂口さんはジムに質問します。
「オレ、何を書いたらいいか分からないんだけど……」
するとジムはこう答え、やりとりが続きます。
「いえ、何を書くかは10年後の現実の設定に入っていないから」
「なんでもいいから書くってこと?」
「そういうことです。
考えずに書くということが”やり方”なんです」
「『何を書くか』に悩まず、ただ書く”やり方”を実践するってことだね。
それなら取り組める気がするよ」
説かれていたのは、「できないこと」ではなく「できること」を「今やる」
ということでした。
なるほど〜!
と目からウロコがボロボロ落ちました。
私たちは、理想とか夢とかを考えるとき、
すぐに「でも……。できるわけないし……」と考えてしまい、
結局何も始めないまま、になってしまいます。
そんな「夢」をふんわりした物語ではなく、
「10年後の1日のスケジュール」という現実に落とし込む。
それは、夢がかなった場合の1日ってことです。
叶うか叶わないかわからないけれど、
叶った場合の1日を想定して、
その通りに今日からやってみる……。
え〜!ほんとにそれで大丈夫なのかな?とつい弱気になります。
それを乗り越える大きな力が、
上の裏表紙に書いてあるジムの一言なのだと思います。
「事務は『好きな物事」を進めて行く上でしか上手く機能しません」。
つまり、どうなるか結果が見えないことでも、
「好き」だったら、「信じて」「毎日」コツコツ続けていくことができるってこと……。
実際に坂口さんはこの方法で原稿を書き、絵を描き、
それがやがて本になり、展覧会を開き、
本はたちまちベストセラーとなり、絵はすぐに完売し……。
それは坂口さんが才能がある人だからだよ……と言いたくなります。
でも……。
よ〜く考えてみると、
才能があってもなくても、
「今日できること」は、自分で見つけるしかないってことなのだと思います。
この本が教えてくれるのは、
「できない」こと=結果
をコントロールしようとすること
をやめて、
「できること」=今日のスケジュール
を粛々と進める、ということでした。
坂口さんと、マンガを担当された道草晴子さんの対談もとても面白かったです。
道草さんは、「いのっちの電話」に実際に電話をして、
「生きのびるための事務」のように、アドバイスをもらったのだとか。
道草さんはこう語っていらっしゃいます。
「この本は、幸せになるために進むべき方向ではなくて、
その人がすでに決めた方向に進むためには何が必要で、
どう段取りをしていくべきかがテーマになっていますね」
読むと、目の前の風景の輪郭がくっきりしてくる。
そんな1冊でした。
みなさま、今日もいい1日を。