手を繋いで、夢の世界に連れていってくれる。

朝起きると、ひやっとした空気が心地いいこのごろです。
昼間は、ちょっと汗ばむこともあって、
何を着て出かけるかに悩みます。
みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて!
先日、銀座の「無印良品」で開催されている
福岡の家具や雑貨、洋服のお店「クランク」「マルチェロ」店主、
藤井健一郎さんの展示会「MOTHER」に行ってきました。

藤井くんと出会ったのは、今から19年ぐらい前。
まだ今の立派なショップの前、福岡の警固に小さなお店「マルチェロ」があった頃でした。
そして、2005年に初めて出した私の著書「扉をあけて。小さなギャラリー」で取材をさせていただいたのでした。
最初のページに、こんなふうに書きました。

「幼い頃、絵本を眺めて描いた夢、初めて観覧車に乗った時に見上げた空。
そこには、ちょっと不安で、ちょっと楽しい空気が流れていたはず。
店主の藤井健一郎さんと輝彦さん兄弟がつくりたかったのは、そんな遊園地みたいな店。
フランスの田舎町を巡り、自分たちが大好きなものだけを持ち帰ります。
だから、この店の道具や小物には、どこか楽しげで、
でもちょっと悲しげな奥行きがあるのです」

今、仕入れに出かける先は、オランダ、ベルギー、バルト三国と変わり、
仕入れてきてから、自分たちで手を入れて、生まれ変わらせるなど
その手法は少しずつ変化しているけれど、
藤井くんが「大好き」な世界はずっと変わりません。

今回展示会に出かけて、そのことをもう一度再認識させていただきました。

もうね、どの展示にも、
私たちが、現実の忙しい世界では忘れかけている「夢」があるのですよ〜。

「夢」って、永遠に広がって、
私たちを自由な世界に連れて行ってくれます。
でも、役に立つわけでも、絶対に必要なわけでもない。

藤井くんは、19年前からずっと変わらず、
その夢を見続けている人です。
そして、その夢の世界へ、手を繋いで連れて行ってくれる……。
福岡に出張に行くたびに、
どんなに時間がなくても「クランク」に立ち寄りたくなるのは、
そんな藤井くんの用意した「装置」の中に潜り込み
見られなくなった「夢」に、すっぽり包み込まれる心地よさを
味わいたいからなのかもしれません。

今回の展示会は、そんな「クランク」の装置を
東京のど真ん中で体験できるというわけです。

少女の姿の古い蝋燭立てを箱の中に入れて、
ガラスの天井にひとつひとつ作ったという星を散らすと、
女の子が、空から降ってくる星を受け止めている風景が浮かび上がります。
わあ、女の子は、どんな星をもらったのだろう?
と見ているだけで心が満たされます。

はしごの上に立った女性の頭上には、
よ〜く見ると、光の十字架が。
藤井くんの影と光の演出は、ほんとうに素晴らしい!
そこにないのに、確かにある。
そんな世界を見せてくれます。

1匹しかいない鹿なのに、
2つのライトの距離を変えて、2方向からあてることで、
壁には、2匹の姿が浮かび上がります。
まるで親子みたい。
今ここにいる自分の後ろには、
母なる存在が確かに在る。
そんな確かさを感じさせてくれます。

このほかにも、心をひたひたと満たしてくれる展示があちこちに。
しばし、時を忘れて、夢の世界の中で遊ぶことができます。

そして、今回のために作ったというこの冊子が素晴らしい!
作品の写真と共に、藤井くんが綴った文章が並んでいます。
最後の後書きには、
「クランク」「マルチェロ」の始まりの物語がありました。

しばらく、この本を部屋に飾って
どこかに置きっぱなしにしてきてしまった、自分の「好き」を
本を見るたびに、思い出してみたいなあと思っています。

展示は11月24日まで。
お近くの方はぜひ!

みなさま、今日もいい1日を。

 

 


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