誰かの前で、ありのまんまの私でいること

朝晩に、虫の音が聞こえるようになりました。
お風呂に入る時、少しだけ窓を開けて耳を澄ますと
まだまだ暑い日が続くのだけれど、
少しだけ、秋の気分を味わうことができます。

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

先日、取材で知り合ったデザイナーさんが、
8月15日にNHKで放送された「昔はおれと同じ年だった田中さんとの友情」
というドラマのキービジュアルを担当されたと聞いて、
早速その夜見てみました。

田中さんは、神社の管理人をしているという81歳の老人。
境内の小屋のような家に一人で住んでいます。

その神社で、遊んでいたのが
小学校6年生の拓人と、その友達2人。
ひょんなことから、拓人は田中さんの家に手伝いに行くようになります。

そして、田中さんが戦争でお母さんと妹を亡くし
それが、今の自分と同じ歳だったことに衝撃を受けます。
以来ずっと一人で生きてきた田中さんに、
学校で戦争の体験を話してもらうことを思いつく……。

田中さんを演じる岸辺一徳さんが、それはもういい味を出していて。
拓人と一緒にお祭りの日にチョコバナナを食べます。
戦争体験を語る会の最後に
参加者からの質問を受けるシーンで
女の子が無邪気に「一番好きな食べ物はなんですか?」と聞くと
「チョコバナナです」と答える田中さん。

81歳と6年生の友情が、見事に描かれていて、号泣しながら見ました。

私がこのドラマを見ながら、しみじみと考えたのは、
本筋とはちょっと別のことでした。

拓人は、田中さんの家に遊びに行っても、
ずっと拓人のまんまでした。
そこがすごくいいなあと思ったのです。

私は幼い頃から、大人の前で「いい子」を演じる優等生でした。
ずっと年上の大人だから、自分より優れていて当たり前なのに、
その人に認められたい。同等に並びたい。
そんな気持ちがどこかにあったのだと思います。

大人はしっかりしていて当たり前。
自分より、知識も経験もあっても当たり前。
だったらそこで張り合ったりせずに、
もっと私は私のまんまでいればよかった……。
今ならそう思います。

田中さんも、拓人が、拓人のまんまだから、
その真っ直ぐさや、今どきのところや、いい加減なところや、自信なさげなところに
惹かれていったと思うのです。

大人の前だって、
「コーラうまいな」と言ってごくごく飲んだっていい。
「学校より、スケボーが楽しいねん」と言ったっていい。

人は、自分の中にある正直な思いに従って、ありのまんまに行動する時、
それが、他の誰とも違う個性となって、
輝くことができる……。

そのことに、もっと早く気づけばよかったなあ〜。

今でも、きっとそれは同じことで、
誰かに憧れたり、誰かを羨ましく思って、
「あの人みたいに……」と、無理をしたり背伸びをしたりするのでなく、
自分の中にすでにあるもの、
自分が「これ、美味しい!」「これ、きれい!」「これ、大好き!」
と思うものに、そのまままっすぐ向き合えば、
心と行動が一直線で繋がって、
一番パワーを出すことができるし、
一番ありのままに輝くことができる……と思うのです。

私のまんまで振る舞って、
それを相手がどう受け止めてくれるのか、
じっと待って観察してみたら、どうなるでしょう?
そこでは、自分でコントロールできない、
相手に託す時間が必要になります。

でも、きっと本物の私を差し出して、相手が返してきてくれた何かから
本当のコミュニケーションが始まるんじゃないかなあ?

そして、私自身も、そんな本当の私であり続けることで、
相手から受け取るものによって、
自分をゴシゴシと磨くことができるんじゃないかなあ?

一徳さんは、一徳さんのまんまだから、
その演技は、他の誰とも違う、一徳さんにしかできないものでした。
私も、そんなふうに歳を取りたいなあと考えた夜でした。

ドラマはNHKプラスで22日(木)まで配信中。
よかったらぜひ見てみてくださいね。

みなさま、今日もいい1日を。


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