「あれをすれば、これができない」「これをすれば、あれができない」を両方叶えるために

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少しずつ日差しに春を感じられる今日このごろです。
私は、「大人になったら着たい服」の校了作業を進めつつ、おへそ別冊の準備に取り掛かっております。

さて。
原田マハさんの「デトロイト美術館の奇跡」を読みました。
短い小説なのであっという間に読めてしまいますが、これがよかったんだよな〜。
途中何度も涙がつ〜っと流れました。
(お風呂で読むから、端っこがクシャクシャですが……)

デトロイト市の財政破綻によって、年金受給者の救済をするために
DIA(デトロイト美術館)のコレクションを売却するかもしれない……
そんな危機の実話を下敷きに書かれた物語です。

ストーリーはポール・セザンヌ作の「マダム・セザンヌ」という1枚の絵を巡り
4人の人物が描かれます。
ひとりは、溶接工として自動車会社に勤務しリタイアした老人、フレッド・ウィル。
亡くなった妻が、月に1度だけの贅沢として「マダム・セザンヌ」を見に行っており、
今は代わりに彼が彼女に会いにいく……。

もうひとりは実在の人物で、アートのコレクター。
自身のコレクションすべてをDIAに寄贈したロバート・ハドソン・タナヒル。

そして、3人目がDIAのキューレター、ジェフリー・マクノイド。

4人目は、連邦裁判所の裁判官、ダニエル・クーパー。

それぞれの人物にとっての「マダム・セザンヌ」が描かれて、
その先に、「DIAのコレクションの売却」という結末が迫ってくる……。

解決するきっかけとなったのが、キューレータ、ジェフリーの母からの教えでした。
「それだけは絶対に実現させたいと思っている何かがあったら、
思っているだけじゃなくて、そのために行動してごらんなさい。
そうすれば、必ず実現するわ」。

結果としては、ジェフリーとダニエルが立ち上げた「資金調達キャンペーン」によって
アメリカを代表する財団からの寄付を募り、それを成功させて
珠玉のコレクションが世界中に散らばってしまうのを防ぎます。

 

私が一番「なるほど〜!」と思ったのはダニエル・クーパーの提案でした。
「年金受給者を救済することも、コレクションを救済することも
等しく重要だ。
どちらかをとってどちらかを切ることは決してできない。
となれば……。どちらも救済する方法を考えればいいじゃないか」

一般の人の考えとはまるで真逆。
年金受給者を救うために、DIAのコレクションを売ろうとしたわけです。
DIAのコレクションを売らないなら、年金受給者を見捨てることになる……。

この相反する利害関係を、両方両立させようと考えたのがすごい!
私たちの周りには当たり前と思い込んでいる因果関係があります。
「あれをすれば、これはできない」
「これをすれば、あれができない」。

それはたとえば、
「仕事をすれば、家庭のことがおろそかになる」
ことだったり、
「掃除をしたら、趣味の時間がなくなる」
ことだったり。

でも、ど〜しても「どっちもやりたい」「どっちも大事」と強く思い続ければ、
どちらもを手にできる方法がきっと見つかる……。

それは、きっと今までと同じレベルで2つのことを横に並べて考えるのではなく、
目線をひとつ上にあげて、
まったく違う方向から、相反する2つを見つめてみる、ということなのかも。

今まですごすごと諦めていたことを、
もう一度「できるかも」という目で見つめなおしてみたくなりました。

ストーリーの展開だけでなく、
その間に語られるアートと人間の豊かな関係に、
映画を見ているように、心地よさを感じる1冊です。

みなさまよかったら読んでみてください。

 

 


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