お母さんがまんなかにいる暮らし 枦木百合子さん vol.1

 

「この人でよかったのかな?」「どうしてわかってくれないの?」
夫婦にまつわる物語を、本音で語ってもらうこのシリーズ。
今回から、主婦として2人の娘さんを育てる枦木百合子さんです。

小学生の頃から優等生だった私にとって、いちばん大事なのは、先生に褒めてもらうことでした。
勉強でいい成績を取ることも、クラブ活動で頑張ることも、友達に親切にすることも、
行動の基準は誰かに褒めてもらうため。

フリーライターになると、今度は「早く一人前のライターとして認められて、
お仕事をバンバンもらいたい」と思うようになりました。
仕事の依頼が増えれば増えるほど、それは私が「評価」されているという証拠。

でも、その間いつも不安でした。私はいったいいつまで頑張ればいいのだろう?
いつになったらこの不安がなくなるのだろう、とずっと胸の奥で感じ続けてきた気がします。

そして、褒められたいという思いは家の中でも同じ。
ご飯を作れば「おいしいね」と言って欲しいし、部屋を片付ければ、気づいて欲しい。

人一倍「褒められ欲」が強い私は、
いつか専業主婦の方にじっくりお話を聞いてみたいと思っていました。
ともすれば「やって当たり前」と言われる家事や育児。
どんなに丁寧に掃除をしたところで、毎日ご飯を作り続けたところで、
誰も褒めてくれなかったりします。
そんな日々の中で、いったいどうやってモチベーションを保っているのでしょうか?

そこで、私がいつも撮影でお世話になっている、カメラマンの枦木功さんの妻、百合子さんに
インタビューをお願いしました。
枦木さんは、「暮らしのおへそ」でもよくお世話になり、
私の著書「かあさんの暮らしマネジメント」でも撮影をお願いした方です。

 

枦木さんと一緒に仕事をしたとき、百合子さんのことをポツポツと話してくれました。

学生時代に知り合って、奥様は結婚前に看護師として働いていたこと。
出産してからは、専業主婦として10歳の花乃子ちゃんと6歳の日菜子ちゃんを育てながら、
家を守ってくれていること。
花乃子ちゃんが生まれたばかりの頃、髄膜炎を患い入院。
夫婦でたくさん泣いたこと……。
そんな話を聞きながら、ちゃんと心と心がつながった、なんていいご夫婦だろうと思ったのです。
いつだったか、我が家で開いた「おへそパーティ」に家族で来ていただいたこともありました。
静かで控えめだけれど、しっかりとした芯を持っている方だなあと感じたことを覚えています。

ご自宅は築64年という風情ある一軒家。
訪ねた日、枦木さんが玄関外の掃き掃除をしていました。
周りでは、娘さんたちが飛び回って遊んでいて……。
「わあ、一緒に仕事をしている時には見えないけれど、
ちゃんと“お父さん”をしているんだなあ」となんだか感動してしまいました。

 

 

部屋に入ると、リビングの向こうには小さな庭が広がり、
渡り廊下でつながった「はなれ」があるという不思議な間取りです。
時を経て味わいのある古いものが好き、というご夫婦の趣味もあって昭和の時代にもぐりこんだよう。

家族4人がソファに仲良く座る姿も、なぜかひと昔前の時代の家族のようでした。
どうしてそう感じるのだろう……と考えてみると……。
そこには、私たちが子供の頃に味わった、「お母さんのいる空気感」があるからなじゃなかろうか、
と思い当たりました。
共働きが増えた今、家の中は、家族があっちへこっちへと出かけては戻ってくる
「通過点」になっています。
でも、枦木さん宅では、暮らしの中心に百合子さんがいつもいて、
そこから暖かい光で家族を包み込んでいるよう。
お母さんがいる安心感って、こういう感じだったよなあと、
今まで忘れていた大切な何かを思い出させてもらったような気分になりました。

次回から、そんな百合子さんに夫婦についてのお話をゆっくり伺おうと思います。

 

 

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「どうにもならなさ」が、夫婦で生きるといういことを、
面白くしているんじゃなかろうか? と思うようになりました。
自分と違う人間を自分の中に取り込むことで、
人生は太く奥深くなり、予想外の方向へと転がり出す……。
それが、ひとりでは得られない、共に生きるとおいうことの
味わいなのだと7人の方のジタバタが教えてくれた気がします。

「おわりに」より

 

 

 

撮影/近藤沙菜


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