色彩プロデューサー 稲田恵子さん No1

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待ち合わせ場所に、さっそうとした白のロングシャツ姿で現れた稲田さん。
黒いスリムパンツ、スニーカー、シルバーのバッグ、金髪のようなヘア。
とても私より
ひとまわり以上上とは思えません!

稲田さんと初めてお会いしたのは、
東京青山の「ギャラリーワッツ」で開催した
「おへそ塾」で、でした。

(「おへそ塾」とは、私が編集ディレクターを
務める「暮らしのおへそ」から
派生したワークショップです。
「おへそ」とは「習慣」のこと。
あなたのおへそはなんですか?と問いかけ
それに対して答えていただくことで、
自分の中にあるおへそ=習慣を
自分で発掘してみようという試みです)

ワッツのオーナー、川崎淳与さんが声をかけて
くださって
広島からわざわざ来てくださいました。
ところが……。
「おへそ塾」が始まって
稲田さんは、大層居心地が悪そうでした。
「私、そんなにちゃんとした人じゃないし」
「そんな、丁寧な生活してないし」

どうも場違いなところへ
潜り込んでしまったかのように
モゾモゾ所在無げだったのです。

それなのに、私が稲田さんと
どうしてももう一度会ってみたい、
と思ったのは、
たったひとつのやりとりが、
とても心に残っていたからでした。

「何かをインプットするためのおへそ=習慣はなんですか?」
との問いかけに
「ああ、それなら答えられる」と稲田さん。
「それはね、孫と会うことですよ」と。

へ?
自分のためのインプットがお孫さん?
すると、稲田さんは
こんな風に説明してくれました。

「子供と話していると
『ね〜!』
って言うでしょう?
いい言葉だなあって思ったんです。
『ね〜』っていうのは、
人と人との確認と了解をとる最小の言葉。
『あのぞうさん、かわいいね』
『ね〜』
って。
そこから、私の仕事のコンセプトのヒントが生まれるんです」

なるほど!
っと私はその説明に、深く感動しました。
「ね〜」
という子供のたった一言に含まれる
単純だけれど、一点の曇りもない真実を
拾い上げる稲田さんの力は、
只者じゃない!
と思ったのです。

その方の語られた一言が
その人らしさを物語る。
それを捕まえるのも、
ライターという仕事の面白さだと思います。

もう一度、お会いして、お話を伺ってみたい……。
川崎さんにお願いして
ちょうど、上京された稲田さんと再会することができました。

色彩プロデューサー。
それが、稲田さんの肩書きです。
「自分でつけたのよ」
と笑われますが、
名前だけでなく、
今まで存在しなかった仕事を
ご自身で作り、育ててこられたのでした。

企業や病院、学校の施設などの
配色などを助言し、
アートを提案するのが
その仕事の具体的な内容です。
その中でも力を入れてこられたのが、
ホスピタルアートなのだと言います。

「院内の壁面に直接色を塗り、
その病院の特色を盛り込んだ
イラストレーションを展開する。
よりよい豊かな療養環境を
色と形で提案するのが
ホスピタルアートなんです」
と教えてくださいました。

たとえば、国立病院機構福山医療センターの
新病棟では、1階から7階までの壁面52方向に
四季折々の草花や木の実のアートが
描かれています。
テーマは「てくてく散歩」。
レンゲやタンポポが咲き、
蝶が舞う壁を見ながら
患者さんたちが、
「お散歩気分」に味わってもらいたい、
という願いを込めて……。

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独立行政法人国立病院機構 福山医療センター 

ただし、ここまでくるには、
長い道のりがありました。
病院という閉鎖された空間の
「白い壁」に色を塗る……。
ましてや絵を描く、ということは、
私たちの想像を超える「革命」であり、
「白い壁」という
常識への挑戦でもあったそう。

色によって人の気持ちを変えることができる。
人の心に寄り添うことができる。
という強い思いがあってこそ、
稲田さんは、この仕事を
作り上げてこられたのでした。

次回は、そんな稲田さんが専業主婦から
仕事をはじめる「第一歩」について
お話を伺います。


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