本当は何がやりたいの?と連れ合いに聞きました。 広川マチ子さん vol3

 

 

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吉祥寺で、ヴィンテージ生地や雑貨の店「Socks」、「Socks*ciao」を
その後、現代アートを展示する「A-things」、
セミオーダーの服を中心とした「A-materials」を営んでいた広川マチ子さんに
お話を伺っています。

西武百貨店で、商品企画のアドバイザーとして働き始めたマチ子さん。
そこで当時新入社員だった、後に連れ合いとなる林さんと出会います。
大学で、西洋美術史を学んだ林さんは、本当は西武美術館の仕事がしたかったそう。
でも、組織の中ではやりたいことをやるのはなかなか難しくて……。

マチ子さんと出会ったころ、「会社をやめてニューヨークに行こう」と決意。
すると「西武百貨店にもニューヨーク駐在があるから」と引き留められ、
フリーランス契約形で渡米することになりました。

 

そこで、マチ子さんも一緒に行くことに。
なんとなんと!
どこまでも、マチ子さんは自分に正直で、自由なのです。

「ニューヨークはね、空気が違うの。
道を行く見知らぬ人と『ハ〜イ!』で会話が始まるのよ。
水を得た魚のうように生き生きしましたね」。

そして、ここでもマチ子さんは知人から
「ニューヨークに行くなら、アンティークの買い付けをして欲しいっていう人がいるんだけど」と紹介され、
「『こういうのが欲しい』って指定された買い付けならやりたくない。
私が、『そのお店にこういうのがあったらいいと思いますよ』と提案し、
選択するということを任せてくれるならやります』って言ったの」と笑います。

蚤の市などをくまなく探して周り、まずは一箱分の古いものを送ると、
「素晴らしい!」と絶賛され、お店に並べても大好評に。
それが、下北沢で当時知る人ぞ知る雑貨店だった「Puri Chori」でした。

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一方で、マチ子さんはニューヨークで仕事を始めた林さんの様子をみて、こう尋ねたのだと言います。
「本当は何がやりたいの?」

すると

「僕は学問をやりたい」とおっしゃったそう。

「じゃあ、そうしましょう、って言いました。
でも、ここからがコーディネーターの腕の見せ所!
私たちは今、お金がない。
だから、まずあなたは出身大学の大学院に戻りましょう。そこでフルブライト奨学金をもらいましょう。
ちょっと回り道だけど、それでニューヨークの大学に行けばいい、って言ったんです」

 

一番身近にいる人が「本当はやりたいことをやっていない」と見抜いた目はさすが!
でも、それよりも、「その人が一番輝けることをすればいい」と大賛成し、
支えたマチ子さんの大きさ、
どうすれば「やりたいこと」が実現できるかと知恵を絞ったクレバーさに驚きました。

 

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(上の写真2枚は、ニューヨークのアパートメントを引き上げるときに、マチ子さんが泣きながら撮ったという写真で作ったアーティストブック「a dictionary of moving out」)

 

 

 

こうして二人は一旦帰国。
林さんはひたすら勉強し、見事大学院に入学。トップの成績で奨学金を獲得し、ニューヨークに留学。
奨学金がなくなる2年目からは
アルバイトをしたりあちこちの奨学金をもらいながら、10年かかって博士号を取得しました。

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その間、マチ子さんは買い付けをしたりと、楽しく仕事をしていたそう。

あちこちのお店のカラーに合わせて買い付けをしていましたが、
そのうちに、どこのお店にも属さない、自分の好きなものが見えてきたのだと言います。
「個性が強すぎたり、値段が高すぎたり。でも大好き!
だったら自分で引き受けるしかない」
とお店を開くことを考え始めました。

最初の店「Socks」をオープンさせたのは、手芸作家、下田直子さんとの出会いがきっかけでした。

「直子さんが、吉祥寺でアトリエをオープンさせたんです。
私は直子さんが大好きだったから、私も近くでお店を出そうかなあと言ったら、
直子さんが物件を探してきてくれたんですよね。
ある日ニューヨークのロフトにあるファックスがカタカタとなって
『マチ子さん、いい物件が出ました』って書いてありました。
直子さんが「いい」と言うなら間違いない、と思って、「うちの母親に契約しに行ってもらいます」って
お返事しました。物件を見もせずに決めたんです」

 

一旦帰国し、内装を整えお店をオープン。
「国民金融公庫でお金を借りました。
そして、またまた『好きなものしか置きません!』って決めて(笑)
半年間、何にも売れなくてもいい、そうなったら潔くやめようって思ったんです。
でも、これが意に反して売れたんですよ〜!
私が好きなものを好きな人っているんだ〜って思いましたね」

 

これが、マチ子さんが48歳の時のお話です。
ここから先はまた次回に。

 

撮影/清水美由紀
着付け/大野慶子

 

 

 


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