毎年6月と11月は、私の「おへそ繁忙期」です。
一田さんが取材で録音してきた音声データを受け取り、自宅でせっせと文字にして、
できあがったそばから一田さんへお返しして、また新たに届いた音声に取り組む。
受け取った球をいかに素早く正確に打ち返せるか、ぎゅっと濃密な時間が過ぎていきます。
今回も無事に全ての球を打ち返すことができましたが、実はお手伝いが始まって以来の大ピンチでした。
おへそを無事に終えるだけでも毎回ギリギリだったのに、
今回は「学校」と並行して完走しなければならなかったのです。
私は今、校正(こうせい)の学校に通っています。
校正という仕事を一言で言うなら「言葉の間違いを探して赤ペンを入れる人」でしょうか
(実際の仕事はもっと多岐にわたるものですが、一番わかりやすい例として)。
近年では『校閲ガール』(宮木あや子著、KADOKAWA)や『舟を編む』(三浦しをん著、光文社)
といった作品に取り上げられた、一冊の本ができるまでに欠かせない仕事です。
新型コロナウイルスの影響で開講が延期になったり一時休講になったりしましたが、
様々な対策と配慮のもと、無事に学びは始まっています。
週に一度、めまいがするような細かいルールの海に頭のてっぺんまで浸かって、
ヒーヒー言いながら宿題と復習に追われている日々です。
当初の予定通り学校が始まっていてもおへそ繁忙期と重なることは避けられず、
どっちもやるしかないと覚悟していましたが、実際のところは想像以上の混乱っぷりでした。
常に全力のトップスピードで打ち返してきた球はみるみるそのスピードを落とし、
積み重ねてきた自信は揺らぎ、家の掃除なんて二の次三の次、洗濯物は溢れ、夫とも大喧嘩。
「余裕がないのは当たり前、今までと同じようにできるわけがない、できなくて当たり前」
呪文のように言い聞かせ、何とか自分を保っていました。
意外だった発見は「忙しい時ほど洗濯は毎日した方がいい」というもの。
忙しさと雨を理由に溜めてしまいがちでしたが、溜めるから量が増えて面倒になる、
だったら少量でもなるべく毎日やった方がすぐ終わると気付き、
そんな小さな家事改革と夫の協力で、何とか峠を越えたのでした。
今学んでいる校正も、3年目になった文字起こしも、どちらもゼロから文章を書く仕事ではありません。
書くことが好きでも、私は自分が「書く人になる」というイメージがなかなか描けずにいました。
もちろん才能が足りなかった部分もあったと思いますが、逃げてるだけなんじゃないの?と
自分の中途半端さに嫌気がさしたことも数知れず。
でも、新たな学びが始まった今、その全てが繋がったように感じています。
書くことが好きだけど、実は自分にはもっと得意なことがあって、それが文字起こしだった。
その得意な道を進んでいったら、新たに校正という、より専門的な仕事に出会った。
もしかしたら、全部都合のいい後付けなのかもしれません。
でも今は「そうか、私こっちだったんだ!」って、長年の謎が解けたような晴れやかな気持ちでいます。
秋に学校を卒業してすぐに校正者として仕事を始められるかわかりませんが、
今後は文字起こしと校正の二足の草鞋で歩んでいくことになります。
きっとまた、余裕がなくなってドタバタになるのでしょう。でも、それも当然の歩みです。
「変化し続ける暮らしの中で、『今まで通り』が通用しなくなるなんて当たり前のことだ」
今回のひと山を越えたことで、前よりちょっとだけ腹が据わった自分がいます。
最後になりましたが、きときとノートは今回をもって連載終了となります。
今日まで見守ってくださったみなさま、素晴らしい場を与えてくださった一田さん、
本当に本当にありがとうございました。
これまでにいただいた感想は、一田さんのインスタグラムに書き込んでくださったものも含め、全て読んでいます。
嬉しくてありがたくて、心を震わせながらみなさんの言葉を受け取っていました。
連載は終了しますが、何者でもない私の物語は、これからも続いていきます。
私は私の得意を活かしながら、私の場所で、力を尽くしたいです。
ありがとうございました!