福岡県糸島で、野草ハーバリストとして活躍する加藤美帆さんにお話を伺っています。
美帆さんは、いつ会っても溌剌としていて、
その笑顔を見るだけで、こちらまで元気になってくる……。そんな方です。
それは、きっと「今」が満たされているからなんだろうなあ。
でも、今回お話を伺って、美帆さんも私と同じ「真面目」で、「優等生」で
そこから抜け出すまで、とても苦しい思いをしたことを知りました。
横浜に生まれ、12歳でお父様の仕事の関係でニューヨークへ。
高校卒業まで7年間をすごしたそうです。
幼い頃から動物が大好きで、夢は「獣医さんになること」。
「犬や猫はもちろん、ハムスターも亀もサワガニもザリガニも、
『飼いたい」と思ったものは、なんでも飼わせてもらいました。
そして、生命の理というか、生理学、薬理学などに興味を持ったんです。
どうしてこの動物は病気になるのか……。
小学校の頃に飼っていたハムスターが癌になってしまった時は
一日中図書館に行って、病気について調べていました」と笑います。
幼い頃の「好き」ほど強いものはないと思います。
美帆さんのお話を聞いて、私も幼い頃、親に「寝なさい」と叱られて、
布団の中に懐中電灯を持ち込んで「4人の姉妹」や「小公女」などを読んだことを思い出しました。
もし、大人になって道に迷ったら、
あの頃の「好き」を思い出してみるのも、原点に戻って何かを見つけるきっかけになるかもしれません。
帰国後は、獣医大学に通い、卒業後は都内の動物病院で臨床医として働きました。
でも……。
「獣医であることが、どんどん苦しくなったんです」と美帆さん。
ちょうどその頃結婚。
夫婦ふたりで仕事を辞めてカリフォルニアへ行くことに。
「主人は、IT系の人間だったのですが、シリコンバレーに行って学びたいという気持ちがあったよう。
だったら、私はカリフォルニア大学で、獣医の栄養学をやっている学部があったので、
そこを目指すことに。
お互いにやりたいことをやってみようと思ったんです。
若かったんですよね〜。現金30万円と、片道の切符だけで行きました」
そこで、彼の同級生4人が起こした会社を美帆さんも手伝うことになりました。すると……。
「それが、すごく楽しかったんです。
アプリを作ったり、テストユーザーを集めたり、マーケティングリサーチをしたり。
会社の目指すところは、アメリカでいわゆるフリマアプリを立ち上げることでした」。
なんとなんと!
獣医を目指していた人が、ベンチャー企業の仕事を楽しいと思えるなんて!
「獣医さんの生活って、毎日『苦しい』『痛い』『悲しい』という人が来るわけなんです。
つまり、必然的に生まれてしまっているマイナスをいかにゼロや1に近づけるか
という側面が強い仕事なんですよね。
でも、ベンチャー企業を立ち上げて、
世の中には、ゼロを10にしたり、100にしたり、そういう幸せの増やし方もある、ということを
初めて知ったんです。それは、私の中で革命でした」
確かに、命にかかわる仕事は、「当たり前」をいかに守るかがミッションです。
一方ビジネスの世界は、新しい価値を生み出すのが仕事。
どちらもなくてはならないものですが、
美帆さんにとって、「今まで」どっぷり獣医の世界に浸っていたからこそ、
新たな「ヒジネス」の世界がキラキラと光って見えたのかもしれません。
子供の頃から、「獣医さんになりたい」と一直線!
その道が、どうやら「違うらしい」と気づいたときから、
美帆さんの本当の人生が始まったよう。
「カリフォルニアで、人生がガラッと変わりました。
私は真面目な家に育ったので、勉強ばかりしていましたし、ものすごく優等生でした。
自分にも他人にも厳しかったですね。
獣医になったのも、すごく忙しい病院に入って働き始めたのも、
栄養学の博士号を取ろうと思ったのも
『これをやったら幸せになれるんじゃないか』と思ったから。
でも、それって『外側のものさし』なんですよね。
だから、追っても追っても、幸せには届かない……。
ずっと生きているのが苦しくて、好きな獣医をやっていても苦しかった。
それが、カリフォルニアに行ったとたんに、初めて変わったんです。
『やりたいことって、内側にあったんだ!』って思いました。
当時、シェアハウスに住んでいて、ポーランドとかウクライナとかカナダとか、
いろんな国籍の人が住んでいたんです。
ある時『美帆も一緒にディナーに行かない?」って誘われました。
それまでの私なら
『行かないといけない』か『行かなくてもいい』か『行った方がいい」か、
という基準しかなかったのに、その時初めて
『行ってみたいから、行こう!』って思ったんです。
そして、ふと鏡を見たら、自分がすごくいい顔をしていました。
もしかしたら、自分のやりたいことって、自分で決めていいのかも。
そう思ったのを、今でもはっきり覚えています。
そこから、少しずつ、自分で選択をするようになったら、
見える風景が変わってきました。
私もずっと優等生だったので、美帆さんのこの思いは痛いほどよくわかります。
「自分がやりたいことは自分で決めていい」
この当たり前のことが、ストンと腹に落ちるようにわかるまで、
どれだけ回り道したことでしょう……。
でも、人はすぐにわからないことを持っている方が、
「わかった」ときの人生がより深くなるんじゃなかろうか?と思います。
そして、美帆さんはこう語ってくれました。
「自分が本当は何を望んでいるのか……。
それがわかるようになるためには、2輪で進むことが大事。
まずは、自分が辛いと思っていることをやめること。体が「ノー」と言っていることをやめるんです。
もうひとつは、「自分の心がやりたいです」と思うことを始めてみること」
次回は、美帆さんが、どうやって「やりたいこと」へストレートにアクセスできるようになったのか、
そのプロセスについて伺います。
撮影/亀山ののこ