だんだんと、2025年が終わりに差しかかっています。
今年はどんな一年だっただろうと振り返ってみると、なんだかずいぶん久しぶりに「よく頑張ったんじゃない?」と思えてきました。

重たい研修を一緒に乗り切った同じ会社の女性たちと打上げ!私たちよく頑張った。
本業と副業、そしてプライベート。相変わらず会社仕事の比重が大きめですが、以前よりは割り切りやあきらめを意識しました。そうやって作った時間でずっと棚上げしていた問題に向き合い、具体的な行動に移したのは偉かった。30代最後の1年の始まりに向けて、人生の宿題に少しずつ取り組み始めたような日々でした。
こう書くとなんだかすごく前向きなようですが、新しい生活スタイルはなかなか定着が難しく、モヤモヤもぬぐえません。
早めに退社しようとするとき、読書を中断して病院や運動に向かおうとするとき、「これは私らしくない」という強烈な抵抗を感じます。得意なこと(仕事や読書)に集中していれば見なくて済むことがびっくりするほどクリアに目の前に広がっていって、自分に幻滅したり憂鬱になったりもしました。
そんな揺れ動くメンタルによく効いたのが、「書くこと」そして「話すこと」。
今の自分がどういう状態なのかを、定期的に棚卸して整理して書く。他人に読んでもらうことを前提にしているからこその「整理して書く」が、自分への鎮静作用があったように思います。この読書日記もそうですが、文章を書く場所があることのありがたみをしみじみ感じました。今年は新しいコラム連載も始まって(毎日新聞さんのHanasoneで「女性の曲がり角」をテーマに書いています)、また新しい切り口で自分(と本)に向き合うことができたと思います。

今年はリンゴの当たり年だそう。
そして、私にとって書くことよりもハードルが高いのが、「話すこと」。
いわゆるスピーチやプレゼンテーションは好きなのですが、ここで言っているのはもっとプライベートなおしゃべりです。自分が考えていること・感じていることを人と分かち合うのがなんだか苦手。話を盛ってしまったり、無理やりオチを作って笑い話にしようとしたり、自虐や他者へのいじりが混じったり。「あんなこと言わなきゃよかった」と後悔するのがイヤで、「ここまで」と決めた線と、定型化したストーリー展開を超えて話してしまわないように自分をできるだけコントロールしてきました。(もちろん、うまくコントロールできないこともあります)

お互いに出来栄えを競い合おうというわけではない。今自分たちに必要なのはじっと考えることと、耳を澄ませることだ。しかも考えるのは、いつになったら解放されるのかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと損なわれない過去だ。――『人質の朗読会』より
読書会は、「話下手」の私でも楽に自由に語れる場所。オンライン読書会、同世代女性が集まる「納屋の読書会」、そして今年発足した「あなぐらの読書会」。3つの集まりで、本を通して自分を語る楽しさに浸っています。
2025年最後の読書会は、「あなぐらの読書会」でした。メンバーは、元上司とその仲間たち、そして私と後輩女性の計5名。課題図書に選んだのは、小川洋子さんの『人質の朗読会』(中公文庫)です。

地球の裏側の山岳地方で、反政府ゲリラに襲撃された旅行ツアーの一行。ツアーガイドと参加者の計8名は人質としてとらえられ、3か月もの間監禁生活を送ることに。最終的には銃撃戦の末に全員が死亡するという最悪の結末を迎えますが、後に、監禁場所に仕掛けられていた盗聴器の録音データが公開されます。そこに収められていたのは、人質たちがそれぞれの人生を静かに語る「朗読会」でした。
勤め先からもらってきた出来損ないのビスケットを、変わり者の大家さんと分け合った日々。
優等生の中学生が出会った、路上でぬいぐるみを売る左目が見えない老人。
公民館の「B談話室」で開催されるイベントに、こっそり潜り込む校閲者。
非日常の極限状態にいるとは思えない、あまりにもささやかな人生の一場面。それぞれ、原稿用紙にして20枚ほどにまとめられたスモールトークです。
読書会のメンバーたちは、「もし自分がこの朗読会に参加していたら、いったい何を語っただろうか」に思いを馳せているようでした。仕事で華々しい成果を上げた瞬間とか、結婚とか子供の成長とか、そういうファンファーレが似合うような場面はむしろ選ばないのではないだろうか。そんな声があちこちで上がります。もう一押しで、私たちの朗読会が始まりそうな兆しを感じました。

おしゃべりが盛り上がったタイミングで、程よい酸味がきいたリンゴでクールダウン。
各々、自らの体には明らかに余るものを掲げながら、苦心する素振りは微塵も見せず、むしろ、いえ平気です、どうぞご心配なく、とでもいうように進んでゆく、余所見をしたり、自慢げにしたり、誰かを出し抜いたりしようとするものはいない。(中略)そのようにして人質は、自分たちの物語を朗読した。――『人質の朗読会』より
自分が負っている荷物、こっそり隠している傷あと。手のひらの中にそっと包んでいる思い出、希望。
複雑化する人生から逃げずに向き合っていくために、自分の中にある小さな物語を大切にしなければ。これからの自分にちゃんと期待してあげるために、これまでの自分をないがしろにしたくない。読書会でも、大切な人との語らいでも、「話すこと」をおろそかにせずにしていきたいな。文章を書くのと同じくらい、話すことにしっかり向き合いたい。来年の目標が一つ決まりました。
まだもう少し師走のあわただしさが続きますが、皆さんどうぞよいお年をお迎えください。