旅先で新たな文庫本を読む幸せ

長野に来ています。
昨日の朝、東京を出たときにはまだまだ暑かったけれど、
こちらに着くと、驚くほど涼しい空気。

あちこちに栗の青いイガが落ち、
りんご畑には、愛らしい赤い実がみのり、
なんて美しい秋の始まりの風景なんだろう!とワクワクしています。

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

こちらに来る荷物の中に大切に入れてきたものがあります。

それが、はまじこと浜島直子さんの新しい文庫本「蝶の粉」
発売より一足先に、送っていただいておりました。
2020年に単行本が出たときに、
あまりに美しい文章に感動し、
このブログにも感想を書かせていただきました。

今回、文庫化にあたって
「新しく1編を書き足したんだよ」
と先日会ったときに、聞いていたのです。

旅先で、ぜったい読もうと連れてきたこの本を
ホテルの窓辺で開きました。

「けむり」と名付けられた巻末の一編を読みはじめると
たちまち引き込まれて
気がつけば、おいおいと泣きながら読んでいました。

この人は、どうしてこんなにも日常の小さな風景を
こんなに美しく綴ることができるんだろう……。

以前飼っていた愛犬ぴぴちゃんを見送り、
新しくやってきたぴこちゃんと受け入れるまでの
家族の物語が綴られています。

でも、それだけではなくてこの出来事の裏側には
はまじが心の底に封じ込めてきた思いがあり、
ご主人が硬く閉ざしていた扉があり、
息子さんの無邪気さの奥にあった本心があった……。

そんなそれぞれの、家族にさえなかなか見せなかった
心の柔らかな部分を、
ぴぴちゃんとぴこちゃんの2匹が
そっと開けて、
家族がもう一度ひとつになるまでの物語が綴られているよう。

命を見送り、新しい命を迎える……。
その境目に立った家族が
自分と向き合い、隣にいる人と心を合わせ、
少しずつ溶け合い、ひとつになる……。
そのプロセスを読んでいると、
いつもばバタバタしている日常の奥には、
こんなにもすばらしい水脈があるんだと、
なんだか心がひたひたと満たされていくようでした。

これは、はまじの家族に確かに起こったドキュメンタリーなのだけれど、
そして、その様子をとても丁寧にすくいとり綴ってあるのだけれど、
それ以上に
見えるものと、見えないものが背中合わせになって、
何か大切なことを教えてくれる
まるで小説のような、美しい物語でもあるのです。

それは、はまじが日常を過ごしている視点そのものなんだろうなあ。
いつ会っても明るくて、ガハハと笑って。
でも、その奥で本当のものを静かに見つめ、すくいあげている……。
そこには、毎日が素晴らしきものであるはず、という
信じる心のようなものが感じられます。

私なんて、
夫が〇〇してくれない。
仕事で〇〇がうまくいかないと、
マイナスを数えることが大得意だというのに、
はまじはいつも
夫を「なんて優しい人なんだろう」と言い、
仕事で出会う機会を「なんてありがたいんだろう」と感謝します。

「幸せがここにある」という人生の大前提が、
つらいことの中に本当に大切な輝きが宿っていることを教えてくれるし、
日々のささやかな風景がなにより愛おしいと気づかせてくれる……。

私も私の日常をもっと愛してみよう……。
「けむり」を読み終えてそう思いました。

この「蝶の粉」改訂文庫版は、10月3日発売予定だそう。
amazonでは予約が始まっています!

単行本を読んだ方も、きっと新しい気持ちで向き合えるから、
ぜひぜひ読んでみてくださいね。

みなさま、今日もいい1日を


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