ノート9 落ち葉を掃いて、また掃いて

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都心部から郊外に越して3年目になります。
引っ越した翌朝、川の流れる音と鳥の鳴き声で目が覚めたことは、今でも鮮明に覚えています。
ここに来てから知ったのですが、鳥たちって、日の出とともにさえずり始めるんです。
空が明るくなってきたなと思ったら、ほとんど同時に鳥たちも鳴き始めます。
夏の夜明けは早いのでもう4時頃には声が聞こえますが、最近は6時を過ぎてやっとという感じです。
訪れている鳥の種類によるのかもしれませんが、
自然の中に暮らす鳥たちのリズムが感じられて嬉しくなってしまいました。

 

夫が庭に設置する鳥の餌台は、我が家の秋の風物詩に。
今年はホームセンターで見つけた観葉植物が入っていた容器を活用したそう。
朝、ひまわりの種をザーッと入れてあげると、鳥たちがどこからともなく集まってきます。
驚くのは、みんなちゃんと順番を守るということ!必ず一羽ずつしか食べに来ないのです。
たまにフライングしてぶつかりそうになる子もいますが(笑)、
基本はみんな柵や雨どいで順番待ちして、一羽が食べ終わるごとに次の一羽が飛んできます。

秩序ある鳥たちの世界、まだまだ人間が知らないルールがたくさんありそう。
橙色のお腹が可愛いヤマガラちゃんは、一番人懐っこいです。
夫が撮影に成功!お見事!

 

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秋が深まってきたなあと感じる瞬間がもう一つ。外の落ち葉を掃く時です。
我が家とお隣さんとの間に、大きなけやきの木が生えています。
夏には木陰として休息の場を与えてくれた葉が、秋の深まりとともにはらはらと落ち、
冬は凛とした枝だけの姿に。

今は落ち葉が一番多い時期なので、毎日とは言えませんが、できる時にせっせと掃いています。
ニット帽に手袋、ネックウォーマーにダウンコートの完全装備で外に出ますが、
寒い朝は、手袋をしていても竹ぼうきを持つ手がきーんと冷えます。

「うひゃ〜、寒いなあ。ぱぱっと終わらせてさっさと家に入ろう」なんて思うのですが、
毎回やり始めると夢中になってしまい、ふと気がついたら1時間以上外にいたことも。

落ち葉がカサカサと擦れる音や竹ぼうきでザッザッと掃く音が耳に心地よく、
最初はあれこれ考えていた頭の中が、いつの間にかしんと静まり返っています。

そうやって無心で落ち葉を掃いている時間が、とっても気持ち良いのです。
ちょっとした瞑想状態のような感じなのでしょうか。

秋の空気とお日様と、竹ぼうきと落ち葉と、そこにいる私。
ただそれだけなのに、何とも言えない満たされた気持ちになります。

 

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落ち葉を掃く時にいつも思い出す、料理研究家の土井善晴さんの言葉があります。

2016年に出版された「一汁一菜でよいという提案」に書かれていた言葉なのですが、
今でも読み返すたびにはっとします。
この本、シンプルな食生活を提唱している本かと思いきや、書いてあるのは料理のことだけではありません。

ご本人も本の中で、
「一汁一菜とは、ただの『和食献立のすすめ』ではありません。
一汁一菜という『システム』であり、『思想』であり、『美学』であり、
日本人としての『生き方』だと思います」
と述べられています。

私はこの本から、生きていく上での心がけや、こうありたいという姿を学んでいるように思います。
暮らしの寸法という章に書かれていたのが、こちらです。

 

掃除を終えて、またすぐに木の葉が落ちることがあります。
まるで何かの風刺漫画のようですが、掃除する前の庭に戻ってしまったのではなく、
掃き清めた新しい庭に、新しい木の葉が落ちたのです。
そこにまた、新しい庭が現れているのです。

 

掃いても掃いても、どうせまた葉っぱは落ちてくるし…と
少々投げやりな気持ちになっていた当時の私に、この言葉はまっすぐ響きました。

自分がうんざりしていた目の前の道路の眺めは、
一つの掃除が終わって、そこに新しく葉が落ちて、また新しい景色が現れただけのこと。

やったことは無駄ではないんだよ、そう言ってもらえたようで、
そこから私の落ち葉に対する意識はガラリと変わりました。

 

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土井さんの言葉が胸の中にある今は、どれだけ葉が落ちようとも、
たとえきれいにしたすぐ後でも、また明日掃けばいいじゃないって思えます。

掃いても掃いても無駄ではなく、掃くたびに新しい景色に出会える。
これはきっと、落ち葉を掃くこと以外にも当てはまる、
人生を生きる中で大切に持ち続けたい感覚だなあと感じています。

同じようで、決して同じではない景色。

新しい景色に出会う喜びを、しみじみと味わっている晩秋です。

 


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