石鹸じゃなくてもよかったのかもしれない。「ゆくりね」樽谷直美さん vol.2

名古屋の下町で、石鹸屋さん「ゆくりね」を営む樽谷直美さんにお話を伺っています。
第一話では、テレビ局のディレクターとして働いていた樽谷さんが、
石鹸屋さんになるまでの、お話を伺い
私が「石鹸生活をしてみるぞ!」と心に決めたエピソードをご紹介しました。

実は樽谷さん、前職の時に仕事がハードで寝る時間もほとんどなく、
25歳を過ぎたときに子宮内膜症がひどくなり、手術をしたそうです。

「当時は生理痛がひどいのが日常で、道端で倒れたり、トイレで気を失ったり、救急車で運ばれたり。
でも、最終的に開腹手術をしなくてはいけなくなり、
仕事を1か月休むことになりました。
そして、手術の時に『生理が続けばまた同じことが起こるかもしれない』と言われたんです。
『そういう体質だから』って……。
『体質だから』という言葉が衝撃的でした。じゃあ、よくなることはないってこと?
体質を変える方法はないんだろうか?と調べてみたら、
経皮吸収の影響を受けやすく
デトックスが苦手な体質であることがわかりました。
体に直接触れるものに気を配るようになり、
髪の毛を染めることをやめ、シャンプーをやめ、生理用品も布ナフキンに変えたら
まったく生理痛がなくなったんです!」

これが樽谷さんが、石鹸生活を始めるきっかけ。

石鹸を作るようになると、
周りの友人たちから、「私にも作って」とどんどん依頼が増えたそう。
「肌の弱いお子さんたちや、ご自身の肌の悩みを抱えるお母さんたちが、
みんな愛用してくれるようになったんです」と樽谷さん。

さて、私はというと……。
とまどいながら、石鹸を使い始めました。
するとわからないことがいっぱい!

今の我が家の洗面所

まずは、石鹸をバスルームにどうやって置くのが正解なのか、がわかりません。
石鹸置きを買った方がいいのかな?
と悩んで、樽谷さんに聞いてみると……。

「顔を洗うときに、泡立てるネットがありますよね。
それに入れたまま、吊るしておくんです。
すると、カラッと乾きますから」
と教えてくれました。
数日後、石鹸と一緒に樽谷さんから「これ、使ってみて!」とネットが届きびっくり!

次に、石鹸で髪の毛を洗うって、どうやるのかがわかりません。
ネットで泡だててから、泡を髪の毛ののせるの?
これまた聞いてみると、
なんと、直接生え際のあたりから石鹸をこすりつけるのだとか!
さっそくやってみると……。
髪の毛で石鹸がめちゃくちゃよく泡立ってびっくり!
「ゆくりね」の石鹸は、とてもなめらかなので、
決めの細かい泡がたち、さらにいい香りに頭中が包まれて、幸せな気分になります。

泡切れがいいのも、石鹸を使ってみてわかったこと。
泡だてて洗ってから、シャワーで流すと、
驚くほどすぐにさっぱり泡が消えていきます。
シャンプーだと何度もすすがなくてはいけないのに、ささ〜っと洗い流せてラクチンなこと!

石鹸で洗うと、髪の毛がキシキシすることがあります。
「頭皮と髪が石鹸で洗われることに慣れてきて指通りがよくなります。
ただ、髪質も十人十色、その人の髪に合う石鹸もそれぞれ違います」と樽谷さん。

私は、「ゆくりね」のいろいろな石鹸を試してみて、
自分の髪に合うものと、合わないものがあるのを発見しました。
「これはちょっとキシキシするな」というものもあれば
「おお!これはキシキシしないし、しっとり髪が落ち着くわ!」というものも。

「椿とヘナのシャンプーバーを使ってみよう」
「今度は、マルセイユ石鹸のアーモンドバーにしようかな」
「次はカレンデュラ石鹸にしよう!」
こうして、自分の体に合うものを探して、
あれこれ石鹸を使ってみる時間自体にワクワクします。

「無理に石鹸だけで洗おうとしなくても、
最初は、1週間に一度はシャンプーにするなど、
自分に合うスタイルを見つけていただければと思います」と樽谷さん。

樽谷さんのご自宅のバスルームの様子

「手作り石鹸は、保湿力が高いんです」と樽谷さん。
コールドプロセス法という昔ながらの製法で作っているのだとか。

「オイルとカセイソーダを合わせることで、工程の中で天然のグリセリンが発生します。
昔の石鹸は、汚れを落とすことだけが目的だったので、
グリセリンを抜いて販売していました。
手作り石鹸では、グリセリンがそのまま入っています。
今の美容では保湿というものがどんどん大事になり、
石鹸にも保湿が求められるようになりました。
うちで作っているマルセイユ石鹸は、いちばんしっとりするタイプのものです。
オリーブオイルがたっぷり入っているので、
肌をいちばんいい状態にしてくれるんですよ」

「ゆくりね」では、石鹸づくりの教室も開いています。
そこで、私も石鹸づくりを体験させていただきました。

オリーブオイルなどの植物油を温めカセイソーダを加えると、化学反応が始まります。
だんだんとドロっとした状態になるので、
ここに好きな精油(アロマオイル)を加えます。
「この状態では、強アルカリなので火傷をする危険があるから気をつけて。
カセイソーダは、植物油と出会うことで、肌にいいものへ変わっていくんです。
ここがすごく面白くて、私は石鹸づくりにはまったんです」と樽谷さん。

型に流し込んで、1か月の熟成と乾燥期間を経たら
もう肌に触れても大丈夫。
同じ材料なのに、時間の変化によって危険な物質が、肌に優しい石鹸に生まれ変わるなんて!
石鹸って、なんだかナチュラルで、ほっこりとしたアイテムだと思っていたのに、
「化学変化の賜物」だったんだと、改めて実感させていただきました。

手袋をして作業開始

オリーブオイルなどの自然油にカセイソーダを混ぜて

型に流し込みながら、天然クレイでグラデーションを

自分の手で石鹸を作ってみると、不思議なことに、
今まで生活の中であまり使ったこともなかった石鹸への
愛着がどんどん増していきました。

「キッチンでも石鹸がおすすめですよ」と樽谷さん。
「ゆくりね」のキッチン用ソープはリピーターが一番多く、
「一度使うと、液体洗剤に戻れない!」と言ってくれる方が多いのだとか。

また、泡切れがよく、愛犬がストレスを感じず洗うことができる、
というDogソープは、犬の毛並みや肌にも優しい成分を使っているので、
安心して使うことができるそう。

これがキッチンソープ

「石鹸を使い始めると、生活がすごくラクになるんです。
顔も体も髪の毛もボーダレーレスで洗えるから、〇〇用石鹸、〇〇用洗剤と、
あれこれ買わなくても大丈夫。
石鹸ひとつあれば、全身洗えるし、食器も鍋も、洗濯もできます。
キッチンソープをバスルームに置いておいて、シャツの襟ぐりを洗うのに使ったり、
キッチンソープをピーラーで削って、精製水を入れたボトルに加えてよく触って、
浴槽の掃除にも使ったりします。
旅するときにも石鹸1個でいいんです。
ソープバーケースという、濡れた石鹸を入れると次の日には水が完全にきれている
っていう優れものがあるのでおすすめですよ」。

樽谷さんが「ゆくりね」を通して、みんなに伝えたかったのが、
この「石鹸ひとつでいい」というシンプルさです。

あれもこれもと用意しなくていい。
いい香りの、石鹸ひとつを使う気持ちよさ。
余分なものが入っていない安心感。

「もしかしたら、石鹸じゃなくてもよかったのかもしれません。
たまたまそこに石鹸があっただけ」と樽谷さん。

頑張りすぎて、体を壊したあと、
本当に必要なものってなんだろう?と考えたとき、
そこにあったのが石鹸でした。
そしてその石鹸1個が、人生で必要なものはそんなに多くない、と教えてくれた……。

『ゆくりね」のいちばん新しい石鹸は、
昨年10月にできあがった「ゆくりねスタンダード」です。
たくさんの種類の石鹸がある中で「どれがいちばんおすすめですか?」と
聞かれる度に困っていたそう。
シンプルで、いちばんベーシックなものを作ろう、と
顔、体、髪にボーダレスに使えるこの石鹸が生まれました。
しっかりとした泡立ちで、肌がもちもちする保湿感があります。

私は今、これで髪の毛を洗っています。
キシキシしないし、翌朝髪のまとまりがすごくいい!
顔や体はいろいろな香りのものを「次はこれにしよう」とあれこれ変えて楽しむようになりました。

「ゆくりね」では、石鹸だけでなく、おやつやコーヒーなども販売していて、
ゆっくりとスイーツタイムを過ごすこともできます。
今の季節はトウファがおすすめ。お灸やものづくりのワークショップなどイベントも開催。
お店には、樽谷さんの人柄に惹かれて多くの人が集まります。

実は私が石鹸に興味を持ち始めた頃、
「コレも使ってみてください!」
「今度はこれも!」
とどんどん石鹸を送ってきてくださいました。
誰かの思いを知ったら、自分の損得なんて考えず、
その人のために動き出さずにはいられない!

今回樽谷さんに会って、いちばん感じたのは、そんな男前な自分の差し出しっぷりでした。

お店を営んでいたら、どうしても利益のことを考えなくてはいけません。
なのに、樽谷さんは頑張ってビジネスを走らせながらも、
片方で、いろんな人にお裾分けをしまくっているのです(笑)
だからこそ、スタッフみんなが樽谷さんのためなら!と全力で支えてくれる……。

「私の仕事が忙しくなると、スタッフみんな自分ができることはなにか?と
めきめきやる気が出て、いきいき楽しそうに仕事をしはじめて活気が出るんです。
お店ができて、チームができて、私が作った石鹸を、私よりも上手に販売してくれるスタッフがいたり、
上手にパッケージをデザインしてくれるスタッフがいたり。
そんなチームで働けていることが、いちばん嬉しいですね」
と教えてくれました。
この「私を見つけてプロジェクト」の記事も
取材からアップするまで、ずいぶん時間が経ってしまいました。

「遅くなってごめんなさい」と連絡する度に
「ぜんぜんです!ワクワクして待ち遠しい日々が伸びて嬉しいです!」
とお返事をくださる……。

ああ、これが樽谷さんが多くの人に愛されて、
「ゆくりね」にたくさんの人が集う理由なのだなあと思いました。

左上から、「スミ」「アーモンドミルクマルセイユ」「 塩」
下の段左から「豆乳ヨモギ」「カレンデュラ」「梅酒」

「ゆくりね」の石鹸は、
ただ体や髪の毛を洗うだけでなく、
自分に本当に必要なものってなんだったっけ?
ということを教えてくれます。

肌に直接作用するものだからこそ、
顔を洗い、体や髪の毛を洗って、石鹸を実際に暮らしに取り入れて使ってみることで、
「あれ? 必要なものってこれだけでいいんだ」
というスイッチがオンになる気がします。

「1回でもいいから使ってみて、石鹸を使うという選択肢があることを知って欲しい。
もし、生活に合って、あなたに必要なものだったら買ってほしい。
今いる場所から抜け出すことは、みんなもたぶんすごく苦手なことだと思うけれど、
そこから抜け出して、自分の体で実験してみるのは、
すごく楽しいよって、お伝えしたいですね」

まずは好きな香りの石鹸をひとつ手に入れてみてはいかがでしょう?
石鹸ひとつが持っている力は、意外にすごいのです。

 

「ゆくりね」の石鹸に興味をお持ちの方は、こちらから

「ゆくりね」
名古屋市瑞穂区平郷町2-9-4
Open/火水木金土【11:00-16:00】 火曜は不定休石鹸の購入はこちら
インスタグラム @yukurine

撮影/黒川ひろみ(一田自宅写真を除く)

 

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