「doux.ce」を主宰するフラワースタイリストの谷匡子さん。
これまで長男(26歳)、長女(23歳)、次男(17歳)、三男(12歳)の
4人のお母さんでもある谷さんに子育てについて伺ってきました。
最終回は、前回「“心”が思うからこそ行動する。行動を積み重ねることで夢は叶っていく。谷匡子さんVOL.5」に引き続き、
谷さんのお仕事についてのお話を伺いました。
お姉さんが無事に出産された後、
再びスタートラインに立たされた谷さん。
フラワーデコレーターの濱田由雅先生を知人に紹介してもらい、
弟子にしてもらいたいと頼みこみます。
念願叶って濱田先生の元でアシスタントとして働きながら、
生活のために別のお花屋さんやホテルでもアルバイトをする日々を送りました。
「その頃、自分の活けたお花を色んな人に見てもらいたくて、
バイト先で知り合った友人と3人で、
お花の生け込みの営業を始めたんです。
ようやく1件仕事が取れたのですが、
1件の生け込みを3人でしていたら花材費と人件費で赤字に。
それで、他の2人から、1人でやれば利益が出るからと提案され、
その仕事を1人ですることになりました」。
その時、花市場でお花を仕入れるために屋号が必要になり、
本屋でフランス語の辞典を引いたとか。
「心温まる」という意味の「doux.ce(ドゥーセズ)」を見つけて、
コレだと閃いて決めたそう。
後に、友人から「doux.ceは“心温まる”ではなくて、
甘いとか温かいという意味じゃないかな」と指摘され、
読み方も変えて現在の「ドゥセ」になったそうです。
それからは、花屋のアルバイトと並行しながら営業の日々。
生け込み先はどんどん増えて行き、
21歳になる頃にはアシスタントを抱えるようになります。
生け込みは大体がお店の営業が終わった後にするもの。
仕事が増えたのは喜ばしいことですが、
閉店後に一軒一軒お店を回って生け込みをしていると、相当な時間がかかります。
終電を逃すことも度々あったそう。
何があっても諦めず、常にクライアントの求めるものに応え続ける。
そうやって谷さんはお店との信頼関係を一つ一つ築き上げてきました。
若い頃はお花をスタイリングして色々な人に見てもらうのが目標だったという谷さん。
時が経つと共に「自分の表現」が中心ではなく、
花そのものが持つ命の尊さ、季節が生み出す美しさを、
少しでも多くの人に伝えることが自分の使命だと思うようになったそう。
そんな谷さんに、「お花を生ける上で大事にしていることは
何でしょう?」と聞いてみました。
「花を生けるには、技術はもちろん大事です。
でも、心がクリアで体調がいいことが、何より大事。
元気な人がクリアな心で生けた花をみると、
きっとその花を見た人も元気になる。
その時の体調と心の在り方は花生けに出てしまうので、
自分を整えることが大事です。
そして、お花を生ける時の緊張感は大事にしていますが、
それ以上に大事にしているのはリラックスすること。
力をふっと抜いた時にいいものができるんです」。
お花を活けるときには、できるだけ「形」に合わせないそうです。
外側から形を整えるよりも、
自分の中に溢れるものを素直に表現する方が
ずっといいものができると……。
でも、自分を整えるって一体どうすればいいんでしょう?
「昔は寝ないで無理を重ねていたこともありますが、
今は受ける仕事を見極めています。
大事なのは、やる決断よりもやめる決断。
引き際だけは見逃さないようにしています。
引き際はいつも子供達が教えてくれました。
さらに、自分の子供だけではなく、目の前にいる人や周りの人を大事にできるかどうかを考えるようにもなりましたね。
周りを大事にできることと、
自分を大事にすることは同じことだと思うんです。
仕事の良し悪し、収入で判断するのではなく……。
迷うことも度々ありますが、一旦決めた事に対してはブレません。
できるだけ先の心配をせず、
現状だけを見て素直な心で判断するようにしています」。
そして、そんな素直な心は、花を育て、
家で料理を作り家族で食卓を囲んでいると生まれてくるそう。
自分を整えるには、何も特別なことをする必要はなく「当たり前の日常が大切」という谷さんの言葉を聞いて、深く納得したのでした。
子育てをしていると、
仕事をする上で、やむを得ない制約はあります。
でも、繰り返される日々の中で、子供達と精一杯向き合うことで、
素直な心で大事な判断を下すことができる……。
これは、子育てと仕事の狭間で
いつもアップアップしている私にとって、
宝物のような言葉でした。
お話を伺う前、谷さんは、
普通の人が努力しても身につけることができない
優れた豊かな感覚が元々備わっていたのだ、
と勝手に思っていました。
でも、これまでのお話を振り返ってみると、
コツコツと経験を積み重ねていくことも、
途中でどんなハプニングが起きようとも、
決して諦めずに続けていくことも、
また一つの才能なのだと思わずにはいられませんでした。
もし、やりたいことが見つかったら、
それはとてもラッキーなことです。
でも、ちょっとした嫌なことやハプニングが起きると
「私には向いていなかった」と簡単に手放してしまう……。
もちろん、諦めて別の道を模索するのも、
一つの方法だと思います。
でも、谷さんのお話を伺って、悩んだり、不満を言ったり、
諦めてしまう前に、いまひとつ、やることがある……
と教えていただいた気がします。
環境や人のせいにせず、
本当にやりきったのか、他の方法はなかったのか……。
と立ち止まって、もう一度、自分の胸に問い直してみる。
そうすれば、子育てに、仕事に、ドタバタと駆け回っている私にも
この先に続く路が、かすかに見えてくるのかもしれません。