「直せばもっとよくなる」と知ることで、未来の時間が変わってくる。金継ぎ、漆継ぎ「山鳥」主宰 清水真由美さん vol.2

金継ぎ家として「うつわ継ぎ 山鳥」を主宰する清水真由美さんにお話を伺っています。

第一話では、金継ぎとは、ただ器を修理するだけでなく
「何を直して使いたいか?」と、
ものを選ぶ目が生まれ、「これから先」が変わってくるもの、
というお話を伺いました。

14年前から独学で金継ぎの仕事を始め、2015年に「うつわ継ぎ 山鳥」
という屋号を立ち上げた清水さん。
それまでは、ふたりの子供たちを育てる専業主婦でした。
教師を目指していたものの、
「普通に就職して、普通に結婚してほしい」という親の思いにしたがって、
会社員を経て24歳で結婚。
30歳で第一子を出産した時、とても落ち込んだのだとか。
「私自身が親との距離感に苦労したので、
それを自分がやるのか……と怖さの方が先に立ってしまって」。

やりがいのある仕事がしたいのに、
親は安定した道=結婚を望む……。
それは私もまったく同じでした。
私は、親の望む結婚を跳ね除け、
駆け落ち同然で好きな人と東京に逃げてしまったけれど、
清水さんの気持ちが少しだけわかる気がしました。

育児休暇が明けること第二子を出産。
ほどなく夫の転勤が決まり、そこから15年間は専業主婦に。

そこで出会ったのが、近所の古道具屋さんでワンコインで器の欠けを直してくれる人でした。
興味を持って、「金継ぎってなにかな?」と調べてみると、
たまたま近所で教えている教室を見つけ、通い始めました。

同じ頃、よく立ち寄っていたのが近所の器屋さん。
「そこで沖縄の器や丹波焼などを知って、民藝の器と出会うことになって……。
そこから、自分の好きなものと日々使うものがピタッと一致し始めました」

ある日、その店主さんに言われたのが、
「清水さん、お財布の中にあるお金でものを買ってはダメだよ」
という一言だったそう。
「お財布の中のお金でポッと買えるものもたまにはいいけれど、
それ以上のものを、ちゃんと選んで買うことが大事。
うちでは、月々決まったお金を入れてくれればいいから」。

そこで木工家、黒田辰秋さんのお弟子さんが作った家具や、
陶芸家、河井寛次郎の流を継ぐ丹波の作家の方と出会いました。

「自転車で、子供2人が昼寝をしている間に、
買い物途中で立ち寄れる距離に、その器屋さんがあったんです。
家事と育児でいっぱいいっぱいで、
そこに通うのが、何よりの息抜きであり、エネルギーのチャージでしたね」

最初に習い始めたのは、
阪神淡路大震災や東日本大震災の経験から、
接着剤などを使って器を継ぐ「現代継ぎ」を提唱している先生が教える簡易金継ぎだったそう。

その後、清水さんは漆を使った本金継ぎを独学で習得していきました。
こうして2015年に「うつわ継ぎ 山鳥」を立ち上げたというわけです。
並行して、どうしてもわからないことは
蒔絵師に師事したり、漆研究所に通ったり。

「若い頃、折り合いが悪かった親によって刈り取られてしまった枝葉が、
少しずつ復活して、芽吹いてきたという感じでした」
と語ってくれました。

継いだ民藝の器で日々のご飯を

 

金継ぎで、きちんとお金をいただけるようになり、
教えられるベースも整った……。
でも……。
金継ぎがブームになる昨今、
「私がやりたかったことって、何なのだろう?」
ともう一度立ち止まったのだと言います。
「私が満足できることって、何なのだろう?」と。

その時、じっくり考えて導き出したのが、「継承」という日本の文化でした。

「何を選んで、何を使い続け、
子供に限らず、何を誰にバトンタッチしていくのか。
文化として、自分がいいと思ったもの、
親から引き継いだり、先輩から受け継いだものを大切に手渡すような
暮らしがしたい。
そう考えた時、必要なのが、やっぱり修理=金継ぎだったんです」

清水さんのお宅の廊下には、
貝を施した螺鈿の古い箱が飾られていました。
今もまだ修復の途中だそうです。

「朽ちかけていたものも、
直したらすごくよくなるんだよなっていうことを、
金継ぎをやると、理解ができるようになってくるんです」。

清水さんが継いだ器たち

 

 

ガラスも継ぐことができる

最後に、清水さんに金継ぎの様子を見せていただきました。

「本金継ぎでいちばん難しいのは材料作りなんです。
小麦粉で、うどんの生地のようなものを作って、
そこに漆を混ぜていきます。
漆は、固まるまで時間がかかるんですが、
澱粉のりと混ぜることで、最初の固定を助けてもらう。
最初はでんぷんが支えて、そのあとは漆が追いかけて固まるという仕組みです。
小麦粉のグルテンと漆が合わさることで、強度が上がる、という性質もありますね」と清水さん。

こんなにバラバラになってしまった器も継ぐことができる

 

まずは小麦粉に水を1〜2滴加える

よく練って

ここに、小麦粉の約3倍の漆を加えて、さらに練る

空気と反応してどんどん生漆の色が濃くなっていく。ダマがなくなり、硬化して粘り気が収まる。「トルコアイスみたいに伸びるようになったら完成です」と清水さん

器の断面に漆を塗りつけ、かけらとかけらを貼り合わせる。貼り合わせたあとに、さらに隙間に漆のパテで撫でるように、ぴったりと塗り込む。繰り返し埋め込んでから、はみ出したものを拭きとり、研いで、湿気のあるところで乾かす

接着剤を使う簡易金継ぎの方がずっと簡単ですが、
本金継ぎとの違いは、なんなのでしょう?

「私は簡易金継ぎを否定しているわけではなく、
使い分ければいいと思っているんです。
でも、本金継ぎは、使うほどに馴染み、そこから経年変化を楽しむことができます。
一方、簡易金継ぎは、完成した瞬間がピークで、そこから劣化していく……。

本金継ぎの金がはがれたときに、漆だと自然な質感が出ますが、
接着剤だと割れ目が目立ってきます。
なので、私は、使えば使うほどよくなるのが本金継ぎだと思っています。

清水さんのご自宅の作業机

 

清水さん宅の食器棚には、素朴な民藝の器がぎっしり詰まっていました。
キッチンには、棚にかごが並んで、食材が仕舞われています。
飴色の木の家具、ガラスの容器、陶器の器……。
便利でも、使っていくうちに劣化するプラスチック用品は、ほどんど使わないのだとか。

その暮らしの空間まるごとが、
清水さんの生きる姿勢を語っているようでした。

ChatGPTで、すぐになんでも検索でき、
安くて新しいものが次々に発売され、
すごいスピードで、流行りが移り変わっていく昨今だからこそ、
何を自分の軸に生きていったらいいのかが、
見えにくくなっています。

清水さんが読んでくださっていた雑誌「和風が、暮らしいい」
を作っていた1999年から27年が経ち、
私はあの頃の思いをすっかり忘れていました。

人生後半は、ものが少ない方がいいと、
ものを減らし、シンプルに暮らす方向へ。
「ものを手放すモード」に入っていた私にとって、
清水さんの「ものを手放せない暮らし」「手放せないものしか持たない暮らし」が、とても新鮮に映りました。

ものを繕って、使い続けるには、手間も時間もかかります。
効率や、ラクする生き方ばかりに目を向けがちだった自分が、
なんだか大きな忘れものをしてきた気がします。

清水さんの食器棚に並んだ民藝の器たちは、
日々清水家のおかずを盛り付け、食卓に並べ、
そして洗って、拭いて、しまわれる……という繰り返しの中で、
暮らしに馴染んだ美をたたえていました。

自分が本当のものさしで選んだものは、
決して古びることがなく、
使うごとに、美しく変化し、毎日を支えてくれる……。

今、少し欠けてしまっている我が家の器たちを、清水さんにお願いして、
継いでいただこうかなあと思っています。
欠けた器に本漆で描かれた、修復の軌跡は、
きっと、これから先に、どう過ごしていいかを教えてくれそう。

金継ぎの美しい模様は、食器棚から取り出す度に、
ここからどう時間を過ごしていったらいいかを、
私たちに教えてくれるものなのかもしれません。

清水さんが主宰する「うつわ継ぎ 山鳥」のHPはこちら。
インスグラム @utuwatsugi.yamadoriはこちら

 

撮影/黒川ひろみ

 

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