「何を繕うか?」で、ものを選ぶ目が育つ。金継ぎ、漆継ぎ「山鳥」主宰 清水真由美さん vol.1

割れたり、壊れたりした器を漆で継いでまた使う。
日本にはそんな文化があります。
金継ぎ家として依頼を受けたり、教室を開いていらっしゃる清水真由美さんのお宅を訪ねました。

どこかにひっそりと隠れている「私はここにいます。誰か見つけて!」
という思いを、誰かにお届けするお手伝いができれば……と始めたコンテンツがこの
「私を見つけてプロジェクト」。です。

実は清水さんからこのプロジェクトに応募のメールをいただいた時、
「う〜ん……」と頭を抱えました。
私自身が本当に「いい」と思えること。
そんな人や「こと」をご紹介したいと、このコンテンツを続けてきました。
でも、私自身の生活に「金継ぎ」や「漆継ぎ」が入り込んではおらず、
果たして「いい」と思えるのだろうか……。
そんな一抹の不安があったので。

まずはzoomでお話を聞いてみることにしました。

「はじめまして」のご挨拶をしたあと、清水さんは突然こんな話をしてくれました。

「私、一田さんが取材をされていた『和風が、暮らしいい』という雑誌に
ものすごく影響を受けたんです。
私の出発点というか……。
今日、こんな風にお話しでできているのが夢のようで。
こんな日がくるんだって」。

「和風が、暮らしいい」という雑誌は、1999年から
「美しい部屋」の別冊として出版されていたもの。
私自身もこの本の取材がワクワクするほど楽しくて、
この本を通して、安藤雅信さんや三谷龍二さん、辻和美さんなどの作家さんを知り、
当時少しずつ見かけるようになった、
古い道具を、シンプルにセンスよく並べたギャラリーを巡るのが楽しみでした。
そんな時代から雑誌を見ていてくださったなんて!

それでも、「和風が、暮らしいい」と金継ぎ、漆継ぎがどう関わってくるのでしょう……。
それは、清水さんのお宅におじゃましてみるととすぐにわかりました。

ちょっと懐かしい、昭和の香りを残す一軒家。
中には、国籍を問わず使い込んだ古い家具が並び、
小さな古い道具を利用して、花が生けられていたり、
愛らしい飾りが並んでいたり。

「うわあ〜、この雰囲気、なんだか懐かしい……」
と、あの取材に駆け回っていた30代の頃が一気に蘇りました。

飴色の椅子に座って、じっくり清水さんのお話を聞いてみることにしました。

「金継ぎ教室の生徒さんによく
『これは直すべきものなんでしょうか?』と聞かれたり
『これは直すほどのものではないんですが……』と言われます。
でも、本来はそうではなくて、
自分自身が、この器とどうつきあいたいか、が優先されるべきなんですよね。
『自分で直せる』という手段を手に入れると、
『壊れても直せるから、納得ができるものを選ぼう』
と思えるようになるんです。
それを続けていくと、
気づいた時には、自分の身の回りが納得のできるものばかりに変わってきます。
そして『金継ぎが似合うもの』『漆が似合うもの』を選びたくなってきます。
金継ぎは、直すことがゴールではなくて、
その先の生活をつくるためのものなんです」

この言葉を聞いて、深く深く感動してしまいました。
私の周りには、金継ぎを習っている人も多いけれど、
それは、欠けた器を補修できて便利!
だからなのかと思っていました。

でも、「金継ぎは、その先の生活をつくるためのもの」
という言葉を聞いて、
「なるほど!」とすとんと何かが胸の奥に落ち、納得できた気がしたのです。

「漆はとても力強い素材なので、直していくうちに
『金継ぎが似合うもの』『漆が似合うもの』を選びたくなってくるんです。
漆の視点でものを見ると
『直してよくなるもの』が見えてくるんですよね」

それは、高価な器という意味ではないよう。
清水さんが、ご自身が継いで使い続けている器を見せてくださいました。
まずは、小鹿田焼の大皿。
私には、それがちょっと意外でした。

金継ぎといえば、ツルッとした質感の磁器が中心で、
さらに、ある程度高価な器を、と思い込んでいたので、
民藝の素朴な器を継いでいらっしゃることにびっくり!

「実は民藝の器って、漆がすごく似合うんです。
たとえば小鹿田焼の土は、川の流れで自然に作られるもので、生成されすぎていません。
自然の土はなめらかで、漆と合わせたときに、
カチッとはまる感覚があるんですよね。
レゴブロックみたいに、ピタッとはまる感じです。
そして、土ものは、自然に力が抜けたような割れ方をするので、
そこに漆が入ると、自然と自然が合わさって、とても美しいんです
作家ものは、完成形として作られているので、
金や銀で装飾しますが、
民藝の器は、土そのものに力があるので、
漆だけで継ぐといい表情になるんですよね」。

なるほど!と、金継ぎの新たな一面を指差していただいた気がしました。

朝食用の木の器は、清水さんが生漆で拭き漆仕上げしたもの

改めて清水さんのお宅を見渡してみると
「その先」の生活がここにあることに気づきます。

リビングのかわいらしい黄色の一人がけソファは、
粗大ゴミで拾ってきたものだとか。
デッドストックの生地で貼り直してもらったそう。
どうやら、「修繕して長く使う」というのは、器だけではないようです。

「布団の打ち直しとか、着物の仕立て直しなど、
日本には古くから『修繕文化』が根付いていますよね。
金継ぎはその一部。
金継ぎがやりたい、というより、
そうやって手をかけて、長くものとつきあう時間の流れの中で
暮らしたいなあと思って」。

エイッと思い切ってアンティークショップで買った素晴らしいテーブルや、
李朝の家具と、
粗大ゴミで拾ってきた椅子を組み合わせて自分らしく使う……。

そこには「何を繕うか」という価値は、自分自身の目で決める、
という姿勢がありました。

「何を直して使うか」
その基準は、外側ではなく、自分の内側のものさしにある……。

自在鉤に器を合わせ、庭のヘビイチゴをひと枝飾る……。
そんな細やかな暮らしを楽しむ心が、
清水さんのお宅では、部屋のあちこちに感じられました。

「金継ぎというのは、直す過程ももちろん楽しいんだけれど、
その先でものとどうつきあっていくかが見えてくるのがいいんです。
何を残すか、何を選ぶか。
素人でも、やっていくと、ものを選ぶ1本の柱が立ちます」

この言葉に、
「金継ぎ」という文化に、がぜん興味が出てきました。

清水さんは「うつわ継ぎ 山鳥」という屋号で、
金継ぎや漆継ぎの依頼を受けたり、教えたりしていらっしゃいます。

ご自宅での教室はもちろん、出張講座も。
本漆を使った器の継ぎ方を丁寧に教えてくださいますが、
手を動かしながら学ぶのは、その技術だけではなく、
何が大切で、何を選ぶか?
という根源的な問いに、自分自身で答えられる力を身につける方法です。

直してでも使い続けたいと思うかどうか……。
この問いは、ちょうど引っ越しをして、
大量の生活道具を向き合う私にとって、まさにタイムリーなものでした。

便利だから。
かっこいいから。
みんな持っているから。
あの素敵な人が持っていたから。

そうやって手に入れたのに1度しか使っていなかったり、
あったことさえ忘れていたものがたくさんありました。

手間と時間をかけて繕うか?
それは、そこに心をかけるという覚悟を持つか持たないか、
ということなのかもしれません。

金継ぎを通して、清水さんに人生後半のモノサシの整え方を教えてもらったような気がしました。

次回は、清水さんがどうして金継ぎ、漆継ぎを手がけるようになったのか。
そのルーツについて伺います。

清水さんが主宰する「うつわ継ぎ 山鳥」のHPはこちら。
インスグラム @utsuwatsugi.yamadoriはこちら

 

撮影/黒川ひろみ

 

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