いちだ&さかねの往復書簡

いちだ&さかねの往復書簡No1

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坂根美季さんは、私が伊勢丹新宿店でトークイベントをしたときに、来てくださった方です。
その後、なんと兵庫県芦屋市で開催した「おへそ塾」に、神奈川県から来てくださいました。
30代で、6歳の娘さんと4歳の息子さんのお母さんでもあります。
某大手料理教室で11年間働いたのち、今は自宅でパン教室とベビーマッサージのサロンを主宰。
でも、本当の望みは、「ライターになること」なのだそう。
「自分が見つけたこと、感動したことを、文章で伝えられる人になりたいんです!」
まっすぐな目でそう語る彼女の純粋さ、一生懸命さに触れるたび、
私は、自分が失いかけていたものを思い出させてもらっている気がします。

そして、昨年より少しずつ仕事をお願いするようになりました。
私が1冊丸ごと編集、執筆させていただいている、
天然生活別冊「暮らしのまんなか」の取材を一部担当してもらっています。
文章に関しては、かなりエラそうにダメだしをしています。
彼女の一生懸命さに答えるには、
私も本気で向き合わなければ、と思うから。

そんな彼女と往復書簡をかわしてみることにしました。
坂根さんが聞いてみたいことを質問してもらい
それに対して私が応えるという書簡です。
彼女の率直な疑問は、
私も「う〜ん、そうだな〜」と
自分を見直すきっかけを与えてくれました。
リアルなやりとりを実録でお届けします。

 

第一回

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坂根

「私の夢は、一田さんのようなライターになることです。
創刊号からの愛読書である『暮らしのおへそ』の本のように、
いつかは、主婦の方から女優さんまで会いたい人にあって、
インタビューをし、それを分かりやすく、読者に響く言葉で
文章を通してお伝えしていけたらと思っています。
そのために「量をこなせば質になる」という言葉を胸に
毎日1回、テーマは「ぶっちゃけ」と題してブログを書いて更新しているのですが、
どうしても表現方法やボキャブラリーが平坦になりがちなのが悩みです。
かといって、上手く書こうとすると「リアルさ」がなくなってしまったり、
考えすぎて文章を書くのが怖くなり、更新できなくなりそうで
そのバランスが難しく……。
結局あまり表現方法は意識せずに自由に、毎日書いています。

書くことは、私にとって自分の心を整理して何かに気付いていくツール、
ブログを読んでいただいている方とのコミュニケーションツール、
にもなっているのですが、
どんなことを意識したら日々のブログの中で(もしくは取材時に)
一田さんのようなリアルさを保ちながら、
かつ読みやすく、表現方法も
豊かな文章に近づくことができるかを知りたいです。

 

一田さんのような文章、というのは……。
例えば、私がお仕事させていただいた「暮らしのまんなか」で
一田さんは、私が書いた原稿に手を加えて、こんな風に
書きなおしてくださいました。

 

「ふたりにとって自宅はくつろぎの場であると同時に、
自分が手にしたものを気の合う仲間とシェアする場でもあるようです」

とか

「『好き』の向こう側には必ず『選ぶ』までの過程があります。
自由で楽しげな部屋づくりには、そんなふたりの冒険の蓄積がありました」

とか……。

 

 

そうそう、そういうことだったのよ!
と思わず手を叩きたくなる文章でした。

 

取材先の方の言葉を集めて、

その中から無意識に大切にしていることに耳を傾けて
プラスαで表現できること……。
取材先の方が「そうそう、私そう思ってたんだ!
こんなことを大切にしていたんだ。
と思っていただける文章が書けるようなるには、
どうしたらいいでしょう?

 

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一田

坂根さん。

文章を書くことって難しいですよね。
私は、自分が語彙が豊富とも、文章がうまいとも
ちっとも思っていません。
ただ、取材先で聞かせていただいた、素晴らしい言葉を
どうしたら、リアルに読んでくださっている方に
お伝えできるかなあと考えるだけしか
できないなあと思っています。

それでも、もうライターになって20年。
「量をこなせば質になる」
というのは、確かにそうかもしれませんね。
私がフリーライターになったのは、30歳のときです。
だから、「書き慣れる」ということはあるかもしれません。
でも、いい文章というのは、テクニックではない、
とこのごろしみじみ思っています。

人は、「わかったこと」「理解したこと」しか
書くことができないのだと思います。
もちろん、なんとなく整えて書くことはできる。
でも、「本当に書く」って、
取材して、それを自分の内側に響かせて
咀嚼し、新たな「真実」としてアウトプットする
という作業だと思っています。

取材させていただいた方の言いたいことを本当に理解しきる
ということはありえないのだと肝に命じています。
私は、私が「わかる方法」でしか、その人のことを理解できません。
そして、唯一できることは
自分がその人の共鳴できる「点」をできるだけ増やしていくこと。

坂根さんがあげてくれた文章だとすると
「自分が手にしたものを気の合う仲間とシェアする場」
という表現は、
いつかどこかで、私が体験した「雰囲気」を言葉にしたものなのだと思います。
みんなで集まったときに
「ああ、この場所はみんなで何かをシェアしあっているなあ」
と感じた、かすかな記憶がどこかに残っている……。

それが、今回の取材と結びついて、ひとつの文章として出てきたのかも。

 

「好き」の向こう側には必ず「選ぶ」までの過程がある。
というのも、私自身がいろんなものを見て、選んできた体験から
生まれた表現だと思うのです。

つまり、人の心を動かすのは、秀逸な表現や文章のテクニックではなく、
自分自身の体験といかに深く結びついているか、
だと思うんですよね。

20年以上書いてきて、歳をとった分、自然に経験値があがって、
そこから生まれる文章が書けるようになった……ってことでしょうか。

そういう意味で、坂根さんは体験したことを、
すごくピュアに感じ取って
それを蓄積していっているから、
きっとそれが体力となって、
これからいい文章が生まれてくると思います。

 

つづく

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