美しきワガママンたち

写真家 回里純子さん No3

 

1

 

私は、その人がその人になるまでのお話を聞くのが大好きです。
普段、友人や知人となんとなく話しているときは、そこまで聞けない話も
インタビューという名目で、正面からまじめに質問できるのも
この仕事のいいところ。

ついクセで、仕事以外の場の、なんでもない話の中でも”突っ込んで”質問して
しまうことも多いのですが……。(苦笑)

 

カメラマンがカメラマンになるまでの
雑貨屋さんが雑貨屋さんになるまでの
お母さんがお母さんになるまでの話の中には、
必ず、その人自身の「内」と「外」が交差する瞬間があるような気がします。
カメラマンになろうとしているのだけれど、
自分になろうとしている。
お母さんになろうとしながら、自分自身に問いかけている……。

そして、何者かになろうとすることは、
結局自分になることなんだよなあと、
どんな人の話を聞いても思うのでした。

 

さて!
24歳で独立した回里さん。
雑誌の仕事がしたかったそうです。
その頃知り合ったのが、ベネッセの前身「福武書店」の編集者でした。
同世代のまだ駆け出しの編集者たちと、
読者ページなど小さなページの仕事を手がける毎日。
ところが、その雑誌が1年半ほどで休刊に。

「そこの編集部のスタッフが、いろんな出版社へ散ったんですよね。
それでかえっていろいろな仕事の依頼がくるようになりました」

転機になったひとつは、ソニープラザのフリーペーパーの仕事。

「月1回、3、4日ぐらい、ファッションから化粧品、食べ物までいろいろな商品を撮影するんですが、
7年間続いたこの仕事には、鍛えられましたね〜。
担当は、編集者と私のふたりだけ。
真っ白なコンテ用紙を前に、構成から考えるんです。
ここは化粧品のページだから、背景はどうしよう?とか
ディテールはどうしようとか……。
その編集者は、私より一回り年上だったんですが、
『仕事はメリハリが大事だから、ずっと同じテンションでやらなくていい。
こういう仕事は時間かけるけど、こっちは時間かけなくていい』
など、仕事以外のこともいろんなことを教えてもらいました」

今回、そのフリーペーパーを見せてもらいましたが、
そのクオリティの高いこと!
ポップでモダンで楽しげなページには、
回里さんの「あのとき」がぎゅっと詰まっているようでした。

 

2

同じ頃手がけたのが、創刊されたばかりの
「たまごクラブ、ひよこクラブ」(ベネッセ)です。

回里さんが依頼をうけたのが、なんと出産のドキュメント。
「とてもパーソナルでセンシティブな撮影なので、
3か月前から、取材をさせていただく妊婦さんの元に
月1度ぐらい、間際になったらもう少し頻繁に通って
コミュニケーションをとりました。
『大丈夫ですよ。必ず私が撮影に行きますから』って。
他の仕事もできなくなりますよね。
だって、いつ出産か読めないし、呼ばれたらブツ撮りをしていたって
それをおいておいて、駆けつけなくちゃいけないし」。

そんな中で、回里さんはひとつの発見をします。
そのことについて、写真集「I LOVE」のあとがきにはこう綴られています。

 

「夢中になって撮影を重ねていくうちにあることに気が付きました。
それは、まだ産まれたばかりの赤ちゃんの言いたいことが感覚的に理解できる能力を
自身がもっているということでした。
特にファインダーを通して見ていると不思議と欲していることが手に取るようにわかったのです。
そんなことわかる訳がないと思われるかもしれませんが、
大人のように仮面をかぶっていない子どもたちは、
しっかりと見つめ、そしてちゃんと向き合えば、
言葉が通じなくても心で伝えてくれるものです。」

それは、赤ちゃんだけではありませんでした。
その後「赤すぐ」「sesame」「Milk JAPON」「nina’s」「HugMug」などの
雑誌で多くの子供たちを撮影。
これを機に子供服などのカタログ撮影の仕事が増えました。

「たとえば、ついこの間も、3歳の女の子の撮影があったんです。
妹が生まれたばかりで、お母さんは赤ちゃんを抱っこして立ち会っていました。
3歳って子供服では、赤ちゃんでもない、4〜5歳の子ども服でもない、という
中途半端なサイズの時期。
その子も、最近モデルとしてあまりお声がかからなくなっていました。
久しぶりの撮影で、彼女は大張り切り。
一生懸命ポーズを取ろうとする。

そうすると、ママが「そんなことしないでいいのよ」と一言言ったんですよ。
すると、さ〜っとその子の顔が曇ってしまって。
そこから一生懸命やってはくれるんだけど、顔がしょんぼりなんです。

そんなこと言わないであげて……って思いましたね。
涙が出そうになりました。
その子なりに「今日は一生懸命やろう」って思って来たのに。

カメラをのぞきながら「あなたの気持ちはすごくわかるよ」って語りかけていました。

 

私は、自分自身が幼い頃、怖がりで泣き虫だったんです。
だから、子供たちがびびっちゃった気持ちがわかる。
固まっちゃう、あのなんともいない感じがわかるんです」

 

なるほど……。回里さんが子供たちの写真を撮るときには、
そんな心の会話があったんだ……。
まるで奇跡のような能力が、
写真に宿るからこそ、回里さんが撮る写真の中の子供たちは、
あんなにも無垢で、力強く、愛らしいのだと、深く納得しました。

 

3

 

「時には撮影中、子どもを怒ることもありますよ」
と聞いて驚きました。
あんなに物静かで温厚な回里さんなのに!

「でも、泣かせてしまうと、撮影ができなくなるから、大人は誰も怒れない。
これはダメだなと思って、お母さんにも、スタッフにも、
『ごめん、ちょっと怒るよ』と断って、
子供に向き合い、『あのさ、ちゃんとやらないとシャッター押さないよ』と言いました。
現場はし〜ん。笑

でも、だんだんその子には『この人は甘えたこと言っても聞いてくれない』ってことがわかってくる。
子どもにとってはもう、いっぱいいっぱいですよね。
やっとちょっと撮れたかなと思った段階で『うわ〜ん』と泣き出しました。
でもね、偶然3日後にまたその子がモデルだったんです。
そうしたら、『今日は泣かない』って私に言ってきました。
そして見違えるようにちゃんとできるようになっていました。
『よくできたじゃん』って褒めてあげました」

たとえ仕事でも、たとえどんな小さな子どもでも
回里さんが本気で向き合っていることがわかります。

こうした仕事のひとつひとつのシーンにどう向き合うかは、
何を成し遂げるか、どんな大きな仕事を手がけるかより、
大事なような気がします。
小さな一瞬一瞬の足し算が、その人の経験となり蓄積されて、
次への土台を作る……。

でも、実はあの「タカラモノ」は、これとはまったく違う撮影法だったそうです。
次は、回里さんのライフワークでもある「タカラモノ・プロジェクト」について伺います。

 

4

「エコアンダリアのかごバッグ&帽子」(成美堂出版)
s:西森萌 hm:吉川陽子 m:オリビア・エミリー・アダム

 

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