美しきワガママンたち

明日を変える本との出会いがそこに。「スロウな本屋」小倉みゆきさん vol4

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岡山県で「スロウな本屋」を営む小倉みゆきさんにお話を伺っています。

2015年4月にようやく「スロウな本屋」がオープンしました。
店内を見渡すと、棚には黒いテープに白い字で「悲しみに」「たいせつな」と
小倉さんの手書きでカテゴリーが記され、
独自のカテゴライズで本が並べられています。

「最初は何もラベルをつけていなかったんですが、お客様にいろんな質問をされるんです。
『赤ちゃん向けの本はどれ?』とか『こういう人にプレゼントしたいんだけど……』とか。
私には、本の並びの意味がわかっているけれど、お客さには伝わりにくいんだなあと思って……。
特に絵本はなんの本かわからない題名も多いので、つけてみることにしたんです」

 

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お店のコンセプトは「ゆっくりを愉しむ」。
靴を脱いで部屋に上がるので、絵本を眺めたり、詩集をパラパラ巡ってみたり、
座って少し読んでみたり。
お客様は、心地よい空間で思い思いの時間を過ごします。

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子供のお客様が多いのも「スロウな本屋」さんの特徴です。
押入れを利用した本棚では、潜り込んで遊べるスペースも。
中板の下には造形作家の知人に子供たちと動かせる絵を描いてもらいました。

「改装をはじめた頃、小学校の女の子が2人、お母さんと一緒に来てくれて、もう押入れに大興奮。
入って出てこなかったので、そんなに好きならここを子供スペースにしようって決めたんです。
また別の日には、小さな女の子が押入れの下の段に寝そべってすごく気持ちよさそうで。
そうしたらお母さんが、『ここに天井画があればいいんじゃない』って。
ああ、そうか!と描いてもらいました。
全部お客様に教えてもらったことばかりです」

 

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大型書店では、本はほとんど「取次」と呼ばれる大手の問屋から
「委託」という形で本を仕入れ販売します。
でも、「スロウな本屋」さんのような、個人経営の本屋さんは、
特殊な取次を介しての仕入れのため、
全ての本は買取り。
ある程度まとまったお金が必要になるのと、リスクを抱えなくてはいけません。

「オープン2年目で、貯金がなくなりました。
それでも、棚はまだまだスカスカだったんです」と笑う小倉さん。

「自分が食べていけるぐらい稼げるだろうか?っていう不安はなかったのですか?」
と聞いてみました。

「もちろんありました。でも、嫌なことを我慢して仕事を続けるより、
挑戦してみて、そっちで食べていけるよう、努力する方がいいなあと思って」

不安とともにオープンしてみると、イベントで名前を知っていてくださった方や、
リノベーションを手伝ってくれた人など、
いろんな人が来てくれたそうです。

「ほとんど寝ずに準備したんですけど、嬉しかったですね〜」

 

ところが……。
開店祝いで駆けつけてくれる人がひと段落し、2〜3か月経った頃に
パタリと誰もこなくなってしまいました。

 

「もうこれはダメかも……と思いました。アルバイトに出ようかと迷ったり」

そんなとき、ホームページを立ち上げ、「絵本便」という通販を始めることに。
「この物件を紹介してくれた不動産屋さんが、絵本にもお詳しくて。
『僕が選ぶと偏るから、小倉さん選んで。毎月息子と買いに来るから』って言ってくれたんです」

これを機に始まった「絵本便」は、現在60人以上に毎月1冊ずつ本を送るようになりました。
さらに、オンラインショップも始め、私の「まねしんぼ日記」も、そこから
全国に旅立っていったというわけです。

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今では、読書会を開いたり、朗読教室や絵本哲学カフェ、トークイベントを企画したり。
「1冊の本から、なにかが始まる」
と、本と、ヒトと、モノを繋ぎ、本が持つ大きな力を、小さな本屋で伝えようとされています。

「かつて『ユトレヒト』を営んでいた江口宏志さんの本の選び方が大好きです。
講演会を聞きに行ったとき、本を選ぶときのポイントに『自分の実感が伴っていること』
とおっしゃっていました。
それ以来、ずっとこの言葉を肝に命じていて……。
本を紹介するときも、イベントを企画するときも、「自分がいいと思ったこと」にしようって」。

 

大きな社会の中で、小さな本屋さんを続けていくことは大変です。
私も、ちっぽけなフリーライターとして、悪戦苦闘してきました。
でも、自分の「実感」に正直にコツコツ歩んでいけば、
きっと誰かがわかってくれる。
そう信じたい……。

「売れるから」「みんなが好きだから」と
自分の「外側」に何かをする理由を求めると、
うまくいかなかった時に、途方に暮れてしまいます。
でも、自分の「実感」が起点になっていれば、
たとえうまくいかなくても、
「じゃあ、どうしたらみんなにわかってもらえるかな?」と伝え方を考えたり、
「もうすこし待ってみようかな」と、自分を信じ、コツコツと時間をかけることもできます。
不確かなことが多い社会で、唯一確かなものこそ、
自分自身の「実感」なのかもしれません。

 

40代後半で、人生の舵をぐいと切った小倉さんの勇気に
拍手喝采を送るとともに
そのぶれない強さと、
「ゆっくり」の持つ力に
私もガンバロ〜と思った取材でした。

 

お店には、岡山以外から訪ねて来る人も多いそうです。
出張のついでに、定期的に立ち寄ってくれる方もいるのだとか。

本が並んでいる様子を見るだけで、
そこに込められた小倉さんの心を感じることができます。
たまたま隣にあった1冊に手を伸ばせば、
明日が変わるかもしれません。

 

撮影/藤岡寿美

 

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